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【イベントレポート】効率的かつ最適な意思決定を後押しする「データ可視化」の実践ノウハウ データマネジメントの勘所【日本経済新聞社×アソビュー】
公開
2025-02-25
文章量
約5023字
株式会社ヤードの代表で、Yardの開発者です。 データプロダクトの受託開発や技術顧問・アドバイザーもお受けしております。 #データ利活用 #DevOps #個人開発
2024年11月12日に開催された「データマネジメントの勘所」シリーズ第6弾のオンラインイベント。
今回は日本経済新聞社とアソビューを迎え、「データ可視化」をテーマにした濃密なセッションが行われました。
本レポートでは、各セッションのポイントや、登壇者同士のクロストークの様子、そこから見えてきた“データ可視化”推進のリアルをまとめてみました。
イベント概要
「データマネジメントの勘所」シリーズは、データエンジニアやデータサイエンティスト/アナリストといった“データ”を扱う実践者が、日頃の泥臭い取り組みや試行錯誤の中で得た知見を共有する勉強会です。第6弾となる今回は「データ可視化」にフォーカスし、
取得した膨大なデータを どう効率的に見える化してビジネスにつなげるか
そのための 組織体制やエンジニア・ビジネスサイド間の連携方法
さらに 多忙なエンジニアでも実践できるノウハウ
などにスポットライトを当て、オンラインで開催されました。 司会進行は、株式会社primeNumberのハトさん。プライムナンバー社の提供するデータ基盤支援サービス「TROCCO」のプロダクトマネジメントを手掛ける立場から、イベント全体をファシリテートしていました。
タイムスケジュール
オープニング (12:00〜12:05)
意思決定のスループットを向上!日経が挑戦する「逆算のデータ可視化」 (12:05〜12:30)
株式会社日本経済新聞社
佐野 玄 氏 / 萩原 匡侑 氏
価値を出すデータ可視化のために。ビジネス側とエンジニア側の垣根のないデータドリブン文化作り (12:30〜12:55)
アソビュー株式会社
霧生 隼稀 氏
ご案内 (12:55〜13:00)
《主催社LT》TROCCOを利用したデータ可視化の実現方法 (13:00〜13:10)
株式会社primeNumber
鈴木 大介 氏
クロストーク&クロージング (13:10〜13:30)
「意思決定のスループットを向上!日経が挑戦する『逆算のデータ可視化』」
登壇者:
株式会社日本経済新聞社 データインテリジェンスグループ マネージャー 佐野 玄 氏
同 データエンジニア 萩原 匡侑 氏
日本経済新聞社(以下、日経)のデータ活用は、膨大なアクセスログや多岐にわたるコンテンツデータを扱う“メディア”ならではのスケール感が特長。
1000万人規模の会員データ、1日に1億6000万行を超えるログなどを一元化するデータ基盤「Atlas(アトラス)」を中心に、社内外のさまざまな部署・サービスがデータを利活用しているそうです。
スループット向上のポイント
意思決定のスピードをどう上げるか
日々更新される膨大なニュースや記事は、分単位で変化するアクセス動向をリアルタイムに捉える必要がある。逆算思考で「誰が、どのデータを、いつ、どのくらいの鮮度で活用するのか」を徹底的に突き詰めている。
ツールのワンサイズフィッツオールを避ける
利用者のスキルや使うシーンによって、RedashやTableau、内製ダッシュボードなどを柔軟に使い分け。すべて1つのBIツールに押し込むのではなく、ビジネス要件と利用者の熟達度に合わせてマッピングする。
内製か外部サービス調達か
速報性が重要な編集部門には、内製ダッシュボード「データスクワッド」を提供。逆に広告キャンペーンなど定形データの連携は外部ツール導入で効率化する。何を内製し何を既製品で代替するか、投資効率を考えながら決めている。
エンジニアとデータ人材の育成
ツールや基盤の充実だけではなく、実際にデータを扱える人材の育成にも力を入れている点が印象的でした。
2年間で2名ほど専門人材を育成する長期プログラムや、6カ月で20名が参加する研修プログラムなどを実施し、徐々に社内全体のデータリテラシーを底上げしているとのこと。
「リアルタイムなニュース編集」「マーケ」「広告営業」など多岐にわたる部署がデータ基盤を使いこなし、そこからさらに新たな要望が出てくる――そのサイクルを回すべく「何がゴールか」を逆算し続けている姿勢が、“大規模メディア”を支える総合力の秘密だと感じました。
「価値を出すデータ可視化のために。ビジネス側とエンジニア側の垣根のないデータドリブン文化作り」
登壇者:
アソビュー株式会社 SRE/データ基盤エンジニア 霧生 隼稀 氏
「生きるに、遊びを。」というミッションを掲げ、遊び予約サイトを中心に様々な事業を展開するアソビュー社。コロナ禍で大きな影響を受けながらも、逆にデータ基盤をしっかり構築して“データを武器に”経営を強くしていこうという方針を取ってきたそうです。
データ基盤構築のポイント
スピード重視 & 事業価値最優先
初期からすべてを自社開発で完璧にやるよりも、「まずはトロッコ(primeNumber)× BigQuery × BIツール(Tableau)」という構成で一気に構築を進めた。データ投資のリターンを早期に確保し、データ基盤そのものが“価値を生む”状態を目指す。
先に“千人チーム”を作る
既存業務の片手間ではデータ基盤プロジェクトの優先度が下がりがち。まずは専任チームを立ち上げ、経営層や事業責任者も巻き込みながら推進。
組織でデータへの理解を深める
ビジネスサイドだけでなく、エンジニア側もビジネス課題に寄り添う。それぞれが「データ分析を理解し、データ基盤を理解し合う」ことで、要件定義から可視化手法までの連携が強固になる。
タブロを軸にした「可視化コミュニティ」
アソビュー社ではBIツールに「Tableau Cloud」を導入。
直感的なビジュアル作成が可能で、SQLを深く書けなくても分析を進めやすい点が評価されているとのこと。
さらに「Tableauデータセイバー」という外部コミュニティを活用し、社内でもタブロ使いが続々増えてきたそうです。ビジネスサイドだけでなく、プロダクトエンジニアが積極的にタブロの学習・資格取得に取り組み、ダッシュボード作成や分析を自走できる状態を作り上げているのが興味深いところ。
「エンジニアだからこそ見えるプロダクトの指標」を自ら分析できるメリットは大きく、社内の“データ文化”形成にも良い影響を与えているとのことでした。
《主催社LT》TROCCOを利用したデータ可視化の実現方法
登壇者:
株式会社primeNumber 鈴木 大介 氏
続いてのLTは、本イベントの主催であるprimeNumberの鈴木さんから、同社プロダクト「TROCCO」を活用したデータ可視化事例についての紹介です。
TROCCOとは?
データ基盤の総合支援サービス
数多くのコネクタを備え、SaaSやデータベースからデータを吸い上げてAWS/GCP等のDWHへ連携可能。加えて、SQLによるデータ変換、ワークフロー管理の仕組みも一体で提供しているのが特徴。
事例: 広告効果の横断可視化
Google AdsやYahoo!など、複数の広告サービスをまたぐ集計を自動化することで、ビジネスサイドが横断的な広告データをBIツールですぐに確認できるようになる。手動でCSVをダウンロードして集計していた煩雑さから解放され、意思決定がスムーズになる。
LTの後には具体的なUIスクリーンショットも示され、ワークフロー型で見やすいパイプライン管理や、トランスフォーメーション(データ加工)の仕組みがわかりやすく紹介されました。「現場が欲しいデータを、迅速かつ安定して供給する」ためのツールセットとして、まさに可視化の裏方を支えるソリューションといえるでしょう。
クロストーク
最後は全登壇者によるクロストーク。以下のテーマでディスカッションが行われました。
「使われるダッシュボード」「使われないダッシュボード」って何が違う?
ダッシュボードの利用状況をどうやって把握している?
改善プロセスはどう作る?
1) 「使われる」「使われない」ダッシュボードの違い
日経の佐野さん・萩原さん、アソビューの霧生さんいずれも、「目的が明確かどうか」と「作り手・利用者のコミュニケーション度合い」が大きく影響すると強調。
最初から「どの部署が、どんな意思決定に、いつ利用するか」をヒアリングしないままゴテゴテに指標を盛り込み過ぎると、使われなくなるという声が複数上がりました。
2) ダッシュボード利用状況の把握
日経
内製ダッシュボード「データスクワッド」では、自前のログを細かく取得して、閲覧頻度や利用ユーザーをモニタリング。その結果をプロダクトマネジメント的に生かしている。一方、Redashのようにセルフサービスで開放しているツールは詳細の追跡が難しく、最低限のセキュリティとアカウント管理に留めているとのこと。
アソビュー
Tableau Cloudに標準で備わっているアクセスログを活用。利用者数やビュー数の推移を見てダッシュボードの有効度をざっくり把握している。今後はより詳細なモニタリングや棚卸しを強化する方針だそう。
3) 改善プロセス
両社とも「担当者が“プロダクトのように”ダッシュボードを育てる」アプローチをとっており、日経ではアナリストとエンジニアが週次のミーティングで要件整理、アソビューでも「ダッシュボード要件定義をしっかり可視化して、使われなくなったものは再構築するなどプロダクト開発的な考え方で運用したい」とのこと。
ダッシュボード運用は「一度作ったら終わり」ではなく、ユーザーの声を反映しながら継続的に磨き込む体制が鍵を握るようです。
【全体を踏まえた所感】継続的に“育てる”可視化がデータを強くする
データ可視化とひと言でいっても、その目的や利用者、タイミングは本当に様々です。ニュースメディアなら分刻みの編集判断が必要だったり、ECや体験予約サービスなら広告投資やキャンペーン効果の把握が重要だったり。
さらに、データ量やユーザー規模の拡大とともに「内製か外部ツールか」「どのBIを使うか」「誰が育てるか」の議論は、組織内で幾度も巻き起こります。
今回のセッションを通じて特に印象に残ったのは、「ダッシュボードは作ってゴールではなく、プロダクト同様に改善を重ねて育てる存在」という視点でした。
日経のように目的ごとにツールを選び、全社視点でデータを集約していくアプローチ。
ソビューのようにチーム単位で“ビジネス理解 × エンジニアリング”を融合し、データを武器に組織を変えていく動き。どちらも、“作ったら終わり”ではなく「利用者の声を吸い上げ→改善し→再度リリース→実際どれだけ利用されているかを把握」していく流れを回しているのが印象的です。
さらに、可視化ツールの多機能化や、管理・設計のノウハウ蓄積などによって、「ダッシュボードの棚卸し」「使われていないビューの整理」「複数ツールの使い分け」などのステージに入る企業も増えているように思えます。
そこに共通しているのは「組織全体のデータリテラシーを底上げしていく姿勢」であり、それこそがデータドリブン文化を根付かせる最大のカギなのでしょう。
「データマネジメントの勘所」シリーズは、今後もさまざまなテーマで継続的に開催予定とのこと。データ可視化に悩む人、あるいはさらなる高度化を目指す人は、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
登壇者の方々が口をそろえて言っていた「小さく始めてスピーディに作り、利用者と対話しながら育てる」ノウハウが、よりいっそう深堀りされるはずです。
ビジネスを前に進めるために、意思決定のスピードを加速させる“データ可視化”。今回のイベントは、その「泥臭くともコツコツ改善し、組織全体をデータリテラシーで巻き込む」重要性を改めて思い出させる、学びの多い機会となりました。
今後も多くの企業が試行錯誤を重ねながら、さらに洗練された可視化の実践を積み上げていくのではないでしょうか。
本イベントにご登壇いただいた皆様、日本経済新聞社・アソビュー・primeNumberの熱意と実例は、データ利活用を加速させたい全ての人にとってヒントの宝庫だったように思います。
まだまだ学ぶべき知見は尽きませんが、まずは「小さく始めて大きく育てる」そんな意識を共有するところから、一歩を踏み出してみてはいかがでしょう。