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【イベントレポート】アジャイルデータモデリング —— 組織にデータ分析を広めるためのテーブル設計ガイド
公開
2025-02-19
更新
2025-02-20
文章量
約2927字
株式会社ヤードの代表で、Yardの開発者です。 データプロダクトの受託開発や技術顧問・アドバイザーもお受けしております。 #データ利活用 #DevOps #個人開発
2025年2月14日、「つぎの一歩が見つかる、気づきと学びの場」をコンセプトに開催されている Forkwell Library シリーズの第81回目がオンラインで開催されました。
今回のテーマは、近年ますます注目を集めているアジャイルデータモデリング。
データ基盤やデータエンジニアリング、そしてビジネス活用を本気で推進したいエンジニアやアナリストが集い、実践的な知見を共有する場となりました。
イベント概要
タイトル: アジャイルデータモデリング 組織にデータ分析を広めるためのテーブル設計ガイド
開催日時: 2025年2月14日 19:30〜21:00
登壇者:
打出 紘基 氏(ピクシブ株式会社)
佐々木 江亜 氏(株式会社マネーフォワード)
ゆずたそ 氏(株式会社風音屋 )
※土川 稔生 氏は当日欠席
イベント内容:
講演「30分でわかる『アジャイルデータモデリング』」
ForkwellからのLT・サービス紹介
視聴者Q&Aパネルトーク
アジャイルデータモデリングとは?
本イベントで取り上げられた書籍 『アジャイルデータモデリング 組織にデータ分析を広めるためのテーブル設計ガイド』は、エンタープライズ規模のデータ分析におけるモデリング手法や、ステークホルダーとの対話を通じたデータ要件収集のあり方などを具体的に解説した一冊です。以下のポイントが注目を集めました。
ディメンショナルモデリングの重要性
「ファクト」と「ディメンション」にデータを分割することで、非エンジニアを含めた誰もがわかりやすく分析を進められる。
階層や履歴管理といった概念を取り入れることで、ビジネス要件の変更や拡張に対応しやすいテーブル設計を実現する。
BEAM(Business Event Analysis & Modelling)アプローチ
データ要件を、ビジネス現場と“モデルストーミング”しながら導き出す考え方。
まず「どのビジネスイベントを分析するのか」を明確にし、そこから対象となるディメンションとファクトを定義していく。
ステークホルダーと連携し、要件を段階的に収集・検証することで「使われないデータ基盤」を作らないようにする。
アジャイル=小さく早くデリバリー
事前にすべての要件を固めきらず、小さな単位(たとえば特定のビジネスイベントやディメンション)で実装・フィードバックを繰り返す。
「完璧なテーブル設計」を目指すより、実務での短期的な価値提供と改善サイクルが重要。
講演「30分でわかる『アジャイルデータモデリング』」(打出 紘基 氏)
最初のセッションでは、ピクシブ株式会社でデータ基盤の構築をリードする打出 紘基 氏が登壇。
書籍の全体像と要点を、30分というコンパクトな時間で見事にまとめました。
ディメンショナルモデリングのおさらい
データ分析のための定番手法「ディメンショナルモデリング」。ファクト(数値指標)とディメンション(分析軸)の分離により、ビジネスユーザにも直感的に理解しやすい形でデータを整理する意義が紹介されました。
ビジネスイベントを捉えるBEAMの考え方
「顧客がモノを買う」「在庫が増減する」といったビジネス上のイベントを正しくモデリングするため、ステークホルダーとの共同作業が必要であることを強調。単に“データを整える”だけでなく、実務の流れをキャッチアップしながら小さく実装・改善していくフローが示されました。
累積スナップショットや状態カウントの実装テクニック
実務では、注文や配送のように「状態が変化・進行していくデータ」を扱う場面が多いが、これをどのようにテーブル設計に落とし込むか。履歴を正しく保存するためのSCD(Type2)や、タイムライン+状態カウントといった具体的パターンが紹介され、参加者の関心を集めました。
視聴者 Q&Aパネルトーク
後半のメインとなるQ&Aパネルでは、打出 氏に加え、翻訳に携わった佐々木 江亜 氏・ゆずたそ 氏が登場。事前投稿やリアルタイムで寄せられた質問をもとに、アジャイルデータモデリングの実践ノウハウが掘り下げられました。
Q: 「やることが多すぎて、テーブル設計にどこまで手をかけるべきかわからない」
A: 「分析要件の優先度をステークホルダーと擦り合わせ、『まずはここ』から始めてみる。やり込みすぎず、小さくデリバリーしてフィードバックを得る姿勢がポイント」といったアジャイル的アプローチが強調されました。
Q: 「ディメンショナルモデリングにおいて、分析者に必要な知識をどう浸透させるか」
A: 「ワイドテーブル(大福帳テーブル)の提供や、社内の“勉強会・リファレンス”文化の醸成が鍵。共通クエリのテンプレート化やエラーケースをあえて共有するなど、実践的な学習機会を増やすとスムーズに浸透しやすい」とのアドバイスがありました。
Q: 「アジャイルのメリットがいまいちピンとこない」
A: 「アジャイル開発同様、“完璧を目指すのではなく、フィードバックを早く得る”ための手法だと考えるとよい。ビジネス要求やデータソースが変わり続ける現場では、段階的にモデリングを拡張できるアジャイル手法が最適」と紹介されました。
Q: 「実務で苦労した・失敗した事例は?」
A: 「ファクトとディメンションを曖昧に分割してしまい、結果的に“中途半端な第3正規形”のようなスキーマに陥った」「ダッシュボードを作り込みすぎた結果、肝心のビジネス部署の利用が伸びず“宝の持ち腐れ”になった」など、具体的な失敗談も共有。そこから「要件定義時点でステークホルダーを巻き込み、利用シーンを明確化することが大事」と再確認されました。
まとめ
今回のForkwell Library #81では、「アジャイルデータモデリング」という新たな視点から、データ分析基盤の作り方を学ぶことができました。
ディメンショナルモデリングの基礎技術から、BEAMによる要件定義のフレームワーク、そしてステークホルダーとの共同作業の大切さまで、実務に即した事例を交えての解説は参加者の高い評価を得ていました。
特に、ビジネス現場と連携しながら小さくデリバリーしていくアジャイルな考え方は、「全社横断のデータ活用を促進したい」と悩む多くの企業にとって、大きなヒントになったはずです。
今後もForkwellでは、データ基盤やキャリア関連のオンラインイベントを積極的に開催予定とのこと。
「自分たちの組織に合ったデータモデリングをどう定着させていくか」、あるいは「分析を価値あるアクションにどう繋げるか」といった観点でさらに学びを深めたい方は、ぜひForkwellの各種イベントやキャリアアドバイザーサービスをチェックしてみてください。
データは使われてこそ価値になる。 そのために必要なテーブル設計やチームマネジメントの知恵を、アジャイルデータモデリングから学んでみてはいかがでしょうか。