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【PdM必見】要求定義と要件定義の違いを徹底解説:目的と手段を正しく理解する
公開
2025-02-02
文章量
約4692字
株式会社ヤードの代表で、Yardの開発者です。 データプロダクトの受託開発や技術顧問・アドバイザーもお受けしております。 #データ利活用 #DevOps #個人開発
この記事では、プロダクトマネージャー(PdM)であれば必ず知っておきたい「要求定義」と「要件定義」の違いを徹底解説します。
日本語ではどちらも似たような言葉に思われるかもしれませんが、実は「インド」と「インドネシア」くらいに違うもの。。
ここを誤解してしまうと、プロダクト開発の方向性がズレたり、エンジニアとのコミュニケーションがかみ合わなかったりします。
多くの現場では、PdMの担当範囲が「要求定義」にまでとされることがほとんどです。では「要求定義」は何を指し、「要件定義」とはどう異なるのでしょうか?
本記事では、要点を押さえつつ、例え話や海外との比較も交えて解説します。
はじめに
本記事の対象読者
プロダクト開発に携わっている現役PdMの方
これからPdMを目指したいエンジニアやデザイナーの方
要件定義・要求定義に混乱しているビジネスサイドの方
多くの開発プロジェクトでは「要件定義」という言葉自体は耳にするものの、その前段階にある「要求定義」とどう違うのかを明確に区別できないケースが散見されます。とくに日本の企業文化では、仕様策定までPdMが担当することも珍しくありません。そこで「要求定義」と「要件定義」の大枠を整理し、PdMとして押さえておくべきポイントを中心にご紹介します。
要求定義と要件定義の違い
まずは本題である2つの用語の定義を確認しましょう。
要求定義とは
要求(Requirement)…「なぜ、その機能や施策を実現したいのか?」という目的を明確にすること
例: 「ユーザーのお金管理をラクにしてあげたい」「顧客の注文プロセスを効率化したい」「新規顧客の獲得数を増やしたい」など
ユーザーや顧客の課題・目的を定義し、プロダクトとしてどんなゴールを目指すかを言語化します。ビジネス要件やUXの観点でのゴールを明確にし、“なぜそれをやるのか”(Why)を深掘りするフェーズです。
要件定義とは
要件(Requirement)…「上記の要求を実現するために必要な機能・システム・技術」を詳細化すること
例: 「クレジットカード決済APIを導入する」「ユーザープロフィール画面に支払い履歴を表示できるようにする」「100万件のデータを24時間365日安定稼働させる」など
要求定義で明確化された目的を達成するために、どんな機能が必要か、どのような技術的選択肢をとるべきか、システム要素を具体化します。いわゆる“何をつくるのか”(What)を詰めるフェーズです。

よくある混同と誤解
要求と要件は、日本語で見ると言葉が非常に似通っているため、つい混同しがちです。もともと英語圏では両方とも「Requirement」という単語で表現されるため、「誰の要求か」で区別されることが多いのも混乱の元かもしれません。
ユーザー要求(User Requirements)
システム要件(System Requirements)
このように英語では「User」「System」など、主語を分けることで区別するケースが一般的です。しかし、日本語では同じ「要求」「要件」という単語に置き換わってしまうため、どこで線を引くべきかが曖昧になりがちです。
例:「旅行計画」で考える要求と要件
ここでは分かりやすく「旅行計画」に置き換えてみましょう。あなたが友人と一緒に旅行の計画を立てるとします。友人は言います。
友人A:「今度の旅行、絶対にめちゃくちゃ楽しみたい!しかもリラックスもしたい!」
これが「要求」にあたります。要するに「楽しくリラックスしたい」という“目的”です。一方、要件としては「どうすればその要求を実現できるのか?」を具体的にリストアップしたものになります。
たとえば以下のような要件が考えられます。
宿泊先は温泉つきの旅館
自家用車をレンタルして、高速道路で移動
行き先は海の近くで、眺めの良い宿を確保
予算は1泊2日で1人3万円まで
チェックアウト後に日帰り温泉が利用できる施設を探す
これらは「楽しくリラックスしたい」という要求を実現するための“手段”です。もし宿を手配せずに出かけたり、移動手段の確保を怠ったりしたら、大変なことになりますよね。
また、友人Aの要求を掘り下げると、もしかしたら「一緒にインスタ映えする写真を撮りたい」「普段仕事が忙しいから、とにかく昼過ぎまで寝ていたい」といった、本当のニーズが隠れているかもしれません。その場合、要件の内容も変わってきます。
要求:楽しくリラックスして、ストレス発散したい 要件:温泉つき旅館、車で快適に移動、インスタ映えスポット立ち寄り…など
ここでもし、要件が抜け落ちていると「温泉つき旅館を取っていなかった…」「移動方法を決めていなかった…」といった問題(要件漏れ)が起きます。これが旅行計画における“要求”と“要件”の違いです。
英語表現から理解する要求と要件
前述のとおり、英語圏では要求も要件もまとめて「Requirement」という言葉が使われます。ただし、「誰にとっての要求・要件か」を明確にするのが一般的です。
User Requirements
主語が「ユーザー」
ユーザーが求める課題解決や価値提供
「何がしたいのか」「何に困っているのか」が中心
System Requirements
主語が「システム」
システムとして満たすべき性能や機能
「処理速度」「セキュリティレベル」「可用性」などが中心
プロダクトの開発プロセスでは、User Requirements(ユーザー要求)からスタートし、それを満たすためのSystem Requirements(システム要件)を決めていく流れが王道です。

PdMの役割と「要求定義」が重要な理由
なぜ「要求定義」までなのか
日本の開発現場ではPdMに幅広い業務が求められがちですが、基本的にはプロダクトマネージャーは「何がユーザーの課題で、どんな価値を提供すべきか」という要求定義までを担うことが大半です。具体的にシステムの構造やアーキテクチャ、詳細仕様をどうするかといった部分はエンジニアリングの領域になります。
もちろん、PdMがエンジニアリング知識をまったく持っていないと、適切な判断ができないケースもあります。しかし、だからといってPdMが要件定義から仕様策定までを1人でやりきるのは、効率的とは言えません。チームで分担し、それぞれの専門性を活かすのが理想です。
要求定義を誤るとどうなるか?
要求定義が曖昧なまま要件定義を始めてしまうと、開発が進むにつれて「そもそも何のためにこの機能を作っているんだっけ?」という根本的な疑問が浮かび上がることがあります。この状態は非常に危険で、プロダクトが完成したときには本来ユーザーが抱えていた課題がまったく解決されていない、という悲劇にもつながりかねません。
PdMとしては「ユーザーの課題は何か?」「なぜそれを解決する必要があるのか?」「解決できた場合、ビジネス上どんなインパクトがあるのか?」を深く考え抜くことこそが、最も重要な役割です。
日本特有の「内製」と「受託」文化
なぜPdMが「要件定義」までやることがあるのか?
海外では社内に開発チームを抱えた内製文化が一般的なため、PdMはあくまで「ユーザー課題の整理」や「方向性の決定」を行い、技術的な決定や詳細設計はエンジニアが担うことが多いです。
一方、日本のIT業界には長年、**外注(受託)**の文化が根づいています。クライアント企業が開発ベンダーに一括でシステム開発を依頼する場合、要件定義から仕様策定、実装、テストまでを「プロジェクトマネージャー」が主導して進めます。この場合、技術的な要件や仕様策定もPdMの範疇に含まれてしまうケースが多々あります。
結果、「要求定義」「要件定義」「仕様策定」が1人のPdMに押し付けられることもしばしば。ただ、これは日本特有の慣習であり、本来はエンジニアリングの知見を持った専門家と協力して進めるべき工程です。
内製のメリットと受託の特徴
内製
PdMがユーザー視点に集中できる
社内のエンジニアと密なコミュニケーションが取りやすい
仕様変更が柔軟に行いやすい
受託
契約上「スコープ」を明確化しないと、追加費用が発生する
プロジェクトマネージャーが仕様書の管理・レビューまで行う必要がある
予算管理や納期管理など、ビジネス的な制約が厳しい
日本では受託案件が多いことから、どうしてもPdMが広い範囲をカバーしなければならない事例が目立ちます。ただし、最近ではSaaSベンチャーをはじめ、内製を強化する企業が増えてきており、PdMとエンジニアの役割分担がはっきりしている現場も少しずつ増えつつあります。

要求・要件・仕様をどのように整理する?
よく言われる整理方法としては「Why(要求)→What(要件)→How(仕様)」の三段階に分けるやり方があります。
Why(要求):なぜそれをやるのか? ユーザーの課題や目的は?
What(要件):その目的を達成するためには何が必要か? 必要な機能や技術は?
How(仕様):具体的にどのように実装するか? 画面設計やシステム設計は?
それぞれが混同されないようにするためにも、議論するときは必ず「今はWhyについて話しているのか、Whatについて話しているのか、それともHowなのか?」を明確にするのがおすすめです。

まとめ
最後に、本記事の内容を整理しましょう。
要求定義と要件定義はまったく別物
要求=目的(Why)
要件=手段(What)
PdMの主な仕事は要求定義
ユーザーの課題を特定し、なぜそれを解決すべきかを明確化する
技術的な仕様策定はエンジニアとの協業で進める
日本ではPdMが要件定義まで担当しがち
受託文化の影響が強く、「1人で全部やるのが当たり前」という風潮がある
内製企業ではより分業が進み、PdMは要求定義に注力できる場合が多い
英語圏では「User Requirements」と「System Requirements」と分けて考える
誰の要求・要件かを明確にするだけでも混乱が減る
日本語だと「要求」「要件」で混ざりがちなので注意
仕様(How)はさらに詳細化したもので、要件(What)とはレイヤーが違う
仕様策定では設計図やワイヤーフレーム、DB構造など具体化する
PdMがサポートしつつも、エンジニアの専門知識を活かして正確に詰めるべき領域
プロダクトマネージャーとしては、まずは「ユーザーの要求は何か?」を突き詰め、それを整理・優先順位づけすることに注力しましょう。開発チームと手を組みながら要件(手段)や仕様(具体策)を固めていくのが、理想的なプロダクト開発の流れです。
今後、内製化がさらに進むにつれ、日本でも「要求定義をPdMが中心に行い、要件定義はエンジニアと共同で進める」というスタイルが主流になる可能性が高いと考えられます。自社開発のSaaS企業などではすでにそういった体制を敷いているところも多く、確実に文化は変化してきています。
最終的には「要求とは目的であり、要件とは手段である」という理解を忘れずに、プロダクトが生み出す価値を最大化するためのプロセスを整えていきましょう。そうすれば、チーム全体がやるべきことを見失うことなく、スムーズに開発を進められるはずです。
プロダクトマネージャーとして、ぜひ自社の開発体制やプロセスがどうなっているのかを振り返り、要求と要件の切り分けがうまくいっているかチェックしてみてください。きっとプロダクトの品質向上やチームの効率化につながるはずです。