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【イベントレポート】事業成長へ導く スクラム運用 ~アジャイル組織を推進するヒントを学ぶ~
公開
2025-02-20
文章量
約4800字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
2025年1月24日、ファインディ主催のオンラインイベント「事業成長へ導く スクラム運用 ~アジャイル組織を推進するヒントを学ぶ~」が開催されました。
ビジネス環境の変化が激しい昨今、アジャイル開発手法を導入する組織は増えていますが、実際には「チームの健全性をどう保つか」「他社はどんな課題をどう乗り越えているのか」など、数多くの疑問や課題感があるのも事実です。
本イベントでは、スクラムを“現場”で実践する4名のスピーカーが、それぞれの組織やプロジェクトにおける成功事例や課題・工夫を共有。
スクラムのアンチパターンをどう解消したか、スクラムマスターが組織から受ける期待とのズレ、フラットなスクラムチーム中心型の組織づくり、3日間16時間にわたるアジャイル研修の内製ノウハウなど、多彩な視点からの実践知が集まりました。
この記事では、その熱い内容をレポートします!
LT① アンチパターンかもしれないがプロジェクトマネジャーがスクラムマスターをやることに意味があると信じている (3panda)
- チーム概要
- AIベンチャーでの研究委託/PoC/自社プロダクト検証など、不確実性が高いプロジェクトを並行していたチーム
- プロジェクトマネージャー1名+アプリ/ハードウェア/AIエンジニアが在籍
- 多国籍(日本/イタリア/中国/ネパール)という多様性
- スクラム導入時の工夫
- スクラムという言葉をあまり使わず、気づいたらスクラム
- まずは開発のリズムを作るためにやってみる→無理に用語を押し付けず
- デイリースクラムを課題解決の場に
- “15分で終わらせる”が形骸化→余裕をもった時間設定&アイスブレイクで雰囲気を柔らかく
- 課題をオープンに相談し合う
- 完成の定義と受け入れ基準を「ゴール」へ集約
- 「完成の定義」「受け入れ基準」という用語が難しく混乱→単純に「ゴールは何か?」と問いかける習慣に
- スプリントレビュー
- 外部ステークホルダーを呼びにくい → チーム内での成果デモ&フィードバックを重視
- 横公開の練習&社内他チームにもデモ
- チームが成長するための施策
- ガイドライン・用語集・自己紹介シートで相互理解を深める
- とにかく会話をする・雑談が課題解決につながる→多国籍だからこそ情報共有を厚めに
- “私たち”がゴールを目指す文化を育んだ
- まとめ
- PMがスクラムマスターを兼任するのは、一見アンチパターンに思えるが、チームを成長させ不確実なプロジェクトを前進させる大きな効果も
- 「メンバーと共に考え、共にゴールを掴む」→スクラムの価値観が根付いたチームへと成長した
LT② スクラムマスターの活動と組織からの期待のズレへの対応(株式会社ビットキー / パウリさん)
- スクラムマスターの活動範囲が組織に及ぶ
- チームの自律性を高めるため、プロダクトオーナーやステークホルダーとの調整、組織の仕組みづくりに踏み込むことも多い
- しかし周囲からは「権限を持った管理職」と誤解されてしまうことがある
- 組織が期待する“管理者”とスクラムマスターの本質的役割のギャップ
- 例えば「評価者」や「リリース承認権の唯一の持ち主」にされるなど → チームの自律性をむしろ阻害してしまう
- このズレが大きくなると、チームのメンバーも「下手なこと言うと評価下がるかも」と萎縮し、スクラムマスター本来のサポート活動がやりにくくなる
- 期待のズレへの対応策
- 役割の明確化
- スクラムマスターはあくまで「チームが自己組織化し高い成果を出すためのファシリテーターや支援者」であり、管理職・評価者ではない
- 権限集中はリスク → 組織全体で理解を共有
- 行動変容の予告
- スクラムマスターウェイで示される「レベル1~3」の成長ステップをあらかじめ関係者に説明
- チーム外の調整や意思決定支援に関わる場面が増えることを事前に周知し、誤解を招かない
- 事例シナリオ
- スクラムマスターが組織から“管理者”扱いされ、評価&事務処理を抱えた結果、チーム支援が疎かに→メンバーが不満を抱える
- しかし事前に「スクラムマスターは管理職ではない」「権限はチームにこそ渡すべき」と共有しておけば、皆が正しく役割を認識
- チームの自律性を高め、スクラムマスターは本来の促進役に集中できる
- まとめ
- 組織からスクラムマスターへの期待を明確化しておかないと、いつの間にか「管理者化」してしまうリスクがある
- 役割・行動変容のステップをきちんと説明し、周囲と合意形成することがチームの健全性を守るカギ
LT③ フラットなスクラムチーム中心型の組織づくり(KDDIアジャイル開発センター株式会社 / 須田 一也さん)
- 会社/組織背景
- KDDIアジャイル開発センター(通称:KDAC)はDX専業のエンジニア集団
- 多くのアジャイル開発プロジェクトを並行しつつ、会社として「フラットに協力する文化」を醸成
- 課題:会社設立当初、ルールや手続きが未整備だった
- 部署ごと・社員ごとに課題管理をしていて統一的な視点が無かった
- 各プロジェクトで「シャドーIT」や「車輪の再発明」が発生
- スクラムの考え方を“組織運営”に適用
- スクラムアットスケールの“POサイクル(戦略バックログ)”と“SMサイクル(組織バックログ)”を社内にも導入
- 毎朝のスケルドデイリーで部ごとの課題を確認し、解決できなければ組織横断へエスカレーション → 経営層が意思決定
- フラットなチャンネル文化
- Slackに「#kag-ask」(困ったら何でも聞けるチャンネル)を用意
- 困り事を投げれば、“取り掛かりやすい”メンバーが手を挙げて助け合い → 組織のシナジーが高まる
- 楽しみながら横連携するチャンネル(サウナ、趣味系など)でコミュニケーションも活発
- プラットフォームエンジニアリング部
- 各スクラムチームのクラウド/インフラ/セキュリティを横断的にサポートする部隊
- 全社員がインナーソースで協力 → 車輪の再発明を防ぎ、価値あるイノベーションに集中
- 組織横断スクラムのために最も重要なこと
- フラットなチーム中心の組織
- チームが自律的に意思決定できる&支援者(リーダー)はサーバントリーダーとして動く
- 心理的安全性
- 組織全体が尊敬と信頼をベースにコミュニケーション → 困った時にいつでも相談できる
- 結果として“家族”のような強い結束とアジャイル文化が根付く
LT④ MIXIが内製した「3日間16時間のアジャイル研修」こだわりの中身と背景(株式会社MIXI / 平田 将久(KAKKA) さん)
- 家族アルバム「みてね」開発組織
- 世界中の家族の“心のインフラ”を目指すミッション
- 組織規模100名以上で、もともとアジャイルマインドは根付いていた
- しかし、“もっと徹底的にやろう”とアジャイル推進を加速
- コア(価値観)から表層(プロセス)までアジャイル変革
- バリューを改定 → 4本柱の1つに「Be Agile」を明示
- 組織構造をスクラムの思想に合わせる → スクラムチームに権限委譲し、専門組織はプラットフォーム/セキュリティ等でサポート
- 透明性を支えるために情報基盤や自動化などを整備
- 3日間16時間の研修
- なぜ16時間?:座学+演習+シミュレーションなど、実体験を通じて定着率を上げたい
- カリキュラム
- 座学:スクラムガイドだけでなく、アジャイルの価値観・文化・組織論まで網羅
- 演習:シミュレーション形式で実際にスクラムイベントを体験
- ディスカッション:他の受講者と意見交換し、理解を深める
- 「スクラム導入したい人が社内で次の講師を担当」という“教える→より深い定着”の仕組み
- スクラムチームを日常的にコーチング
- 内製アジャイルコーチが各チームを継続フォロー
- 研修の学びを現場に落とし込む → アジャイル文化がより定着
- まとめ
- アジャイル変革は、コア(バリュー)~表層(プロセス)まで一貫して組織づくりすることが大事
- 3日間16時間の内製研修で「実体験 + ディスカッション + 教える機会」を作る → 価値観・手法がしっかり定着
- MIXI/みてねは“Be Agile”を掲げ、世界中の家族の心のインフラを支えるアジャイル組織を目指している
Q&Aピックアップ
当日は多くの質問が集まり、とりわけ以下のテーマで盛り上がりました。
- 他国籍チームでのスクラム運用
- 言語・文化的多様性の中でも“雑談”や“用語集”が重要
- 「気づいたらスクラム」になるように用語や慣習を柔軟に取り入れる工夫が紹介された
- スクラムマスターと管理職の境界線
- 組織がつい「評価者」「承認権限を一手に…」とまとめがち → チームの健全性を保つためにはスクラムマスターの役割を事前に説明し、権限をチームへ委譲
- フラットなスクラムチームを支える組織体制
- 組織横断で課題管理する仕組み(Scrum@Scale、スケールドデイリーなど)
- Slackチャンネルでのオープンな相談文化 → “支援し合う”フラットな空気感を醸成
- 内製研修の設計
- 3日間16時間でアジャイルを体験学習 → 定着率を高めるには演習・シミュレーションが不可欠
- 内製なので「実際のチームコーチ」や「社内事例」を交えられる → 共通言語が揃い、現場落とし込みがスムーズ
おわりに
4名のスピーカーから語られたスクラム運用事例は、 「事業をどう成長させるのか?」 といった大きな視点から、 「日々のデイリースクラムをどう活性化するか?」 の具体論まで多岐にわたりました。
イベント全体を通して見えた3つの共通ポイント
- スクラムマスターの本質に立ち返る
- チームを自己組織化へ導くファシリテーターであり、管理職や評価者に押し込むとアンチパターンに陥る
- フラットで心理的安全性の高い文化
- 他国籍・多職種でも気軽に雑談/質問できる → チーム健全性を下支えする大前提
- 価値観レベルでアジャイルを浸透
- 単に「スクラムイベントを回す」だけでなく、組織構造・バリュー・制度まで一貫性をもたせる
- 内製研修でコアな価値観・手法を共通言語化
スクラム運用の鍵は、チームから飛び出す課題や改善案をどう受け止め、組織全体を巻き込むか――そんなアジャイル推進のリアルを垣間見ることができたイベントでした。
ご登壇くださった4名の皆様、ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました!
「スクラムのアンチパターンを逆手に、より柔軟にチームを導く。組織との期待を合わせ、フラットで自律したスクラムを回す。そしてコアから表層までアジャイルの価値を浸透させる――多彩な事例に学びつつ、自社のスクラム運用をアップデートしていきましょう!」
もし今回のレポートが気になった方は、各登壇者のコミュニティやブログもぜひチェックしてみてください。ファインディでは今後もエンジニアの皆様の学びとキャリアに役立つイベントを開催予定ですので、引き続きご期待ください!
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