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MCPで広がる生成AI活用の可能性 イベントレポート
七月の蒸し暑さが残る水曜の夜、六本木の黒崎ビル4階ラウンジにエンジニアが集結しました。Qiita Bash──今回のテーマは「MCPで広がる生成AI活用の可能性」。 Model Context Protocol(MCP)は外部ツールやデータソースを“文脈”として LLM に渡し、対話の質を飛躍的に高めるアプローチです。プロンプト巧者の次なる武器として注目が集まる中、参加者は実例と課題を持ち寄り、会場は立ち見が出るほどの熱気に包まれました。
本レポートでは、5本の LT と質疑応答をダイジェストでお届けします。
1. オープニング
19 時ちょうど、Qiita 運営チームが開会を宣言。「今日は“手を動かした人”が主役です。失敗も成功もそのまま共有しましょう」という言葉に、会場の空気が一気にほぐれました。
2. LT セッション総括
2‑1. 「MCPのセキュリティ対策」──Tommy 氏
最初の登壇は弁護士ドットコムの SRE、Tommy 氏。
脅威モデルの再定義: 「Prompt Injection を“会話レイヤ”の SQLi と捉えるべき」
実践ガイドライン: 入力検証、出力フィルタ、監査ログの三段階で防御。
社内運用の勘所: 「開発環境で“敢えて壊す”演習を月一で実施し、攻撃手口のアップデートを全員で共有する」
セキュリティが抽象論に陥りがちな分野だけに、冷静な“手順書ベース”の話が参加者のメモを加速させていました。
2‑2. 「Unity で MCP 活用は現実的なのか?」──Ikegai Ryota 氏
ゲームスタジオ Hako の池貝氏は、Unity 操作を MCP で自動化する実験を披露。
ミッション: “AI まかせでテトリスを組み上げろ”
結果: 20 分で一応遊べるテトリスが生成。ただし
オブジェクト名確定ダイアログで AI がフリーズ
ファイル削除・依存解決の整合性が取れない
セッション切断が頻発
最終的には Justin Barnett 版の実装に乗り換えて成功。「丸投げは地獄。UI 操作の大量自動化こそが現状の最適解」という結論に、所々で苦笑と共感の拍手が湧きました。
2‑3. 「フィンテック領域における MCP R&D 事例」──ske3 氏
未上場株ファンドを扱う StartX Partners の ske3 氏は、社内リサーチツールを MCP で構築。
独自取得している非公開株価データをツール化
MCP サーバーを通じ、LLM が銘柄情報とヒストリカルデータを統合
チャート描画は Chart.js、コードは TypeScript+Mastro
ポイントは「金融はAI を使わないリスクが顕在化している」という金融庁の見解。守りと攻めのバランスをどう取るかが課題として提示されました。
2‑4. 「MCP × Agent Development Kit ではじめるエージェント開発」──Kei Kishimoto 氏
Google Cloud Champion Innovator の岸本氏は、4 月に OSS として公開された Agent Development Kit(ADK) に MCP を組み込み、料理レシピ動画を LINE へ配信するエージェントを実演。
ADK の構成ファイルは 10 行程度
ツールとして YouTube API/メッセージ整形/LINE‑MCP を登録
ユーザーが「アボカド」と送ると、人気動画トップ3をフレックスメッセージで返信
「ドラえもん的自律エージェントを数時間で形にできる時代が来た」と語り、会場からどよめきが上がりました。
2‑5. 「使いたい MCP サーバーは Web API をラップして自分で作る」──神久 氏
最後は会場スポンサーである弁護士ドットコムのフロントエンドエンジニア、神久氏。
社内で必要だった Confluence・Jira・Figma 連携は「待っても出ないなら作る」
API ドキュメントをリポジトリに配置し、GitHub Copilot に **「これを MCP サーバーとして実装せよ」**と指示
ブランチ作成からマージリクエスト文面生成までをエージェントが自動化
「コードを書くより情報整備と指示の質が勝負」という締めの言葉が印象的でした。
3. 質疑応答ハイライト
Q1. 「Unity における丸投げの限界は?」
池貝氏
UI レイヤはまだ AI が手探りです。小さく区切って“敵 100 体を等間隔で配置”など定型作業に専念させると歩留まりが跳ね上がります。
Q2. 「金融データを安全に LLM へ渡すには?」
ske3 氏
顧客情報を含むトークンは出力前にマスキング。加えてローカル LLM で前処理し、外部 LLM には要約だけを投げる二段構えを採用しています。
Q3. 「ADK と LangChain の住み分けは?」
岸本氏
LangChain は汎用のオーケストレーション。ADK は**“自己連携する複数エージェント”**を作るときの作法が決まっている。設計思想が異なります。
Q4. 「MCP サーバー自作の工数感は?」
神久氏
Confluence+Jira で2日。API ドキュメントを先に磨くのが最大の山で、実装そのものは SDK でほぼ雛形生成でした。
4. まとめ
登壇者全員が共通して挙げた成功条件は、
文脈を小さく、明確に区切る
リスクと観測点を可視化する
自動化より先に情報整備
MCP は魔法ではなく、“エンジニアの段取り力”を増幅するレンズのような存在だと感じました。
編集後記──「文脈を設計する時代の夜明け」
AI 活用の最前線は、もはやモデル選定や温度パラメータの調整ではありません。どの情報を、どんな粒度で、いつ渡すか――文脈設計こそが差別化の核心になりつつあります。
今回の Qiita Bash は、その一歩先である MCP をテーマに据え、“やってみた”と“やってみたからこそ分かった穴”を赤裸々に共有する場になりました。成功事例の裏側には必ず試行錯誤があり、そのノウハウを持ち寄る文化がコミュニティを強くします。
会場を出る頃には、スマホのメモ帳がコンテキスト設計のアイデアで埋まり、早く試したくてうずうずしている自分がいました。来月の「Qiita Bash #お疲れ様会」で再びこの熱量と再会できることを、今から楽しみにしています。
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