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LLMのプロンプトエンジニアリング イベントレポート
はじめに
2025年6月11日、水曜の夜。Forkwell Library 第98回は『LLMのプロンプトエンジニアリング』(通称 牛本)をテーマに開催されました。訳者の服部佑樹さん(GitHub Japan)と佐藤直生さん(Microsoft)が登壇し、参加登録は1,000名近く。チャット欄とSlidoが終始ざわめき、生成AI時代の“作り手の心得”を共有する濃密な90分となりました。
1. 牛本が射抜く“魔法の正体”
服部さんの基調講演タイトルは 「HOW TO READ 牛本」。 冒頭で示されたキーメッセージは次の三点でした。
LLMは魔法ではなくドキュメント補完エンジン
“フレーズの言い回し”より制約理解と情報設計が本質
本書はハウツー集ではなく“レンズ提供”の書
このフレーミングが効いたおかげで、参加者の視線は「便利な呪文」ではなく「仕組みと評価指標」にピントが合います。
2. モデルを“信じ過ぎない”ための基礎教養
セッション前半は本書1〜6章を紐解く時間。
トークンという最小単位で世界を見る
後戻りできない推論過程への向き合い方
賢さと良さ(アラインメント)のトレードオフ
特に盛り上がったのは「ストロベリー問題」の再訪。 “文字列操作は規則ベースに逃がす”というシンプルな原則に、参加者が一斉にうなずく場面が印象的でした。
3. プロンプトはUX設計、その極意は“削ぎ落とし”
中盤からは具体策へ。
テーマ | 服部さんのポイント |
---|---|
同・静的コンテキスト | 必要最低限を切り出し、 10のうち2で十分 |
無関心の谷 | 導入→要点→リフォーカスで サンドイッチ構造を守る |
ノイズ管理 | 文字単価ではなく 思考単価 を削る発想 |
「長いプロンプトでも精度が上がるモデルは増えた。ただ 予測可能性 を保つ設計が、サービス提供側の責任です」――この言葉はエンジニアリング組織の胸に刺さったはずです。
4. アプリケーションへ落とす七つのチェックポイント
後半は本書7〜10章をベースに、実装者視点のガイドラインが列挙されました。特に反応が大きかったものを抜粋すると……
検索は語彙検索とベクトル検索のハイブリッドで
ラグは万能ではない。既存検索基盤を活かせ
MCP(Function Calling 進化形) 採用は“デファクト化”が決め手
停止制御とストリーミングキャンセルを先に設計
テストデータは合成で良い。まずは回すことが第一
評価メトリクスをコード管理せよ
高価なモデル一択は危険。賢さ×コスト×速度で適材を選ぶ
「LLM活用はワークフロー設計。プロンプトは インターフェース定義書 です」という締めに、チャット欄で“なるほど”が連打されました。
5. パネルトークで見えた現場のリアル
5.1 評価どうしてる問題
佐藤さんは、Azure案件でのチャットボット開発を例に“評価の泥臭さ”を語りました。
グラウンドトゥルースが無ければ エンジニアがExcelで埋める
合成データ生成もLLM。だが検証用LLMの妥当性チェックが必要
オンライン評価に頼り切らず、オフライン評価を自動パイプライン化
「LLM実装より評価設計の方がコスト高。そこに投資できるかが継続運用のカギ」
5.2 エージェント化とコミュニケーション設計
コーディングエージェントやアクション機能が登場した今、戦場はIDE内から リポジトリ全体の情報設計 に移行中。プルリクを読ませるための コメント粒度 や Issueの書式 が、エージェント性能を左右する――という示唆は目から鱗でした。
6. Q&A ハイライト
参加者の問い | 登壇者の答え(要約) |
---|---|
モデル進化で“プロンプト工夫”は不要? | 精度は上がるが 予測可能性とコスト は残る課題。削ぎ落としは続く。 |
評価導入のタイミング | POCでは手動でも可。本番前に 自動評価パイプライン を必ず敷く。 |
MCP流行の理由 | 技術優位より エコシステムの早期収束 が大きい。将来の保守コスト削減。 |
人間とAIの思考差 | 内部構造は違えど“疑うプロセス”は双方必須。 レビュー能力 が人間側価値。 |
終わりに — “踊り場”に立つ開発者たちへ
服部さんは最後に「タップダンスを踊るように変化と付き合おう」と呼びかけました。 モデルは月単位で刷新され、フレームワークは週単位で更新されます。しかし本書、そして今回のセッションが示したのは――
制約を見極め、評価を回し、学習する。その基本ループは変わらない という事実です。
魔法を解剖し、次の一歩を軽やかに
生成AI時代のエンジニアリングは、広いダンスフロアでの即興セッションに似ています。 牛本は譜面、今回のイベントは公開リハーサル。 あとは各自のプロジェクトでビートに合わせ、ステップを刻むだけ――。
次のForkwell Libraryで、また新しいステップを共有できることを楽しみにしています。
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