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個人開発の AI ツール活用 LT Night レポート
2025 年 4 月 24 日、「個人開発の AI ツール活用 LT Night」がオンラインで開催されました。生成 AI によるプログラミング支援が熱く盛り上がる今、個人開発の現場でもその波は例外ではありません。サービスをわずか数日で立ち上げるスピード感や、モチベーションを支え続けるノウハウなど、4 人の登壇者による実践知がふんだんに詰まった贅沢な LT(ライトニングトーク)イベントとなりました。
オープニング
今回のイベントは「個人開発における AI ツールの効率活用」をテーマに開催。複数のツールを活用しながら、最小限のリソースでアプリやサービスを形にした実例が共有されました。登壇者は以下の 4 名です。
ガクシ(本業は化学研究開発職、Python・Web アプリを AI と共に開発)
オオモリ(猫版 MBTI「CATS 診断」を 4 日で爆速リリース)
Brown(大規模 BtoB SaaS を担当しながら個人開発も並行、LLM で多言語対応)
unvalley(Rust/TypeScript エンジニア、個人開発で AI 活用した Markdown ツール開発)
AI ツールの進化と個人開発への影響
司会からは、生成 AI やエディタなど急速に進化する AI ツールが、開発現場のみならず個人が趣味や副業で開発するシーンも大きく変えていることが強調されました。アンケート回答者には関連書籍のプレゼント企画もあり、開発者同士の情報交換が活発に行われました。
LT1: ガクシ
「AI を使いこなす力 〜ツール選定から実践、失敗談まで〜」
最初に登壇したガクシさんは、化学の研究開発職を本業としながら個人で Web アプリを開発中。挫折経験を経て「生成 AI の登場でコードを書くハードルが劇的に下がった」と語ります。
作ったアプリと AI 連携
プロンプト管理メモアプリ 思いついたプロンプトを管理する目的で開発。元々は「いいプロンプトを見てもすぐ忘れる」という悩みがきっかけで着想を得た。
その他:要約アプリや音声入力 Web アプリ 学習効率を高めるための Web アプリ群を AI エディタで開発。
科学 ×AI エージェントの試み 化学分野の実験手順を自動生成する AI エージェントに注力。専門分野と AI を掛け合わせることで研究の効率化も模索。
AI コーディングのコツ
エディタは複数比較 Cursor や Windsurf などの AI エディタを試し、相性の合うものを選定。
細かいファイル構造 大きなファイルにまとまっているとエラーを誘発しやすい。
API やライブラリは公式ドキュメントを参照させる AI に自動でコードを書かせる場合でも、誤ったエンドポイントや旧バージョンの仕様に従うケースがある。ドキュメントへの誘導が重要。
「エラーとの戦いと AI とのやりとりが楽しい反面、何度もトライアンドエラーするうちに自分の専門分野との掛け合わせが見えてきた」と締めくくりました。
LT2: オオモリ
「AI をフル活用!猫版 MBTI『CATS 診断』爆速開発の裏側」
オオモリさんは、2023 年末に AI 活用で開発スキルを一気に向上。現在は一人会社で Web サービスやモバイルアプリを自社開発しています。
猫版 MBTI のアイデアと実装
猫版 MBTI「CATS 診断」を 4 日でリリース 12 個の質問に答えると 16 種類の猫が結果として表示される。2 月 22 日の猫の日を狙い、わずか 4 日間でリリース。
ユーザ数 1.5 万人超え リリースから 4 日間で爆発的に拡散し、多くの猫好きや SNS ユーザに利用された。
実装のポイント
JavaScript でフロントを実装し、Vercel でデプロイ。
性格診断のコンテンツ文面生成や猫イラスト生成を AI に依頼。
Web デザインに疎かった部分は AI が補い、実質自分 1 人+ AI で完成。
学びと反省点
意思決定と実装を同じ人が担当する 個人開発の大きな強みとして時間ロスがほぼない。
マネタイズは失敗... 爆速でリリースした結果、収益化導線が弱く、追加のオリジナルグッズ販売などはあまり売れず。
「開発ってこんなに楽しいんだ」と実感 AI でコードが書けるようになり、次々にアイデアを形にできる喜びを伝えました。
LT3: Brown
「LLM で実現する爆速 BtoB SaaS 多言語対応」
Brown さんは普段は大規模 BtoB SaaS の開発に従事しながら、副業として個人スタートアップを運営。「SIGQ Cloud Linker」という書類共有クラウドを手がけています。
BtoB でも多言語対応が必要
SaaS 多言語対応 近年、英語だけでなくインドネシア語・スペイン語など多言語サポートのニーズが増加。
AI で効率翻訳 従来の翻訳ツールだと文脈の欠落や表現の不自然さが目立つ。LLM なら自然文全体を捉えてくれる。
実践したアプローチ
i18n を型ベースで管理 TypeScript の型に各言語分の翻訳定義を明示し、AI に追加分を埋めてもらう。
高速に新言語を増やせる 似たようなキーを AI が一括で翻訳し、漏れを防ぐ。1 分で新言語を足せる体験は従来にないレベルの速度。
ツール選択 個人としてはプライバシーモードやライセンス管理がしやすいカーソルを使用し、ネットワークエラーの多さなど課題はあれど、チームプランの強みを評価。
「大規模プロダクトの全部を AI に任せるのはまだ難しいが、“コードのごく一部”を翻訳に活用するのは非常に有効。複数言語対応を素早く実装できる点が最大のメリット」と語りました。
LT4: unvalley
「AI と作る Ephemral Markdown Paper」
最後に登壇した unvalley さんは、Rust/TypeScript で Web ツールチェイン開発に関わるエンジニア。個人開発で Markdown 書類ツールを作成しつつ、AI 支援で開発効率を高めています。
Ephemral Markdown Paper
「F」という Markdown エディタを個人開発 1 枚の紙のように Markdown を扱い、ローカルストレージにデータを保存。ログイン不要で気軽にメモを取れる。
OSS で公開し、UI や機能をブラウザ上で試せる タスク管理やスナップショット保存も実装。日常的に使いやすいシンプル設計。
AI との付き合い方
カーソルのエージェントモードのみを主に利用 大きな依存関係がない小中規模のコードに向いている。
上手くいかなかった課題 大規模リファクタや複数モジュールにまたがる改修は LLM が苦手。メンテナンスの判断は人間が行う。
誘惑と闘う 新機能を実装するハードルが下がった結果、不必要な機能を安易に作ってしまいがち。「本当に必要か」を自分で見極める意思決定が大事と強調。
「AI が容易にコードを書けるようになったからこそ、何を作るかの要否判断こそが個人開発者にとって重要」と結びました。
全体を踏まえた感想 〜AI と駆け抜ける個人開発時代〜
4 名の登壇を通して、個人開発で AI ツールを使う魅力と課題が浮き彫りになりました。
速さと柔軟性 組織のレビュー・承認プロセスが不要なため、思い立ったら数日で本格的な Web アプリを立ち上げる事例が目立ちます。
オーバーヘッドの軽減 デザイン、画像生成、翻訳、リファクタといった多岐にわたる作業をエージェントや LLM が肩代わり。
失敗を恐れずトライできる醍醐味 商用 SaaS レベルのセキュリティやパフォーマンス要件は大変な一方、個人開発ならではのフットワークで AI を試し放題。
課題:
コードが大きくなるほど精度が落ちる
AI モデル間の切り替えやネットワークエラー
収益化・マネタイズへの設計不足
しかし、そこには 「今日できないことも、明日にはできるかもしれない」 という機運が確かにありました。ツールの更新速度と AI モデルの進化に後押しされ、個人開発者が一歩先をリードする動きが活発化しています。今後もさらに多種多様な個人開発の事例が登場し、「AI × 個人開発」で新たなイノベーションが生まれる予感を十分に感じさせるイベントとなりました。
全体を踏まえた感想: 自分のリズムで作りたい未来を
登壇者が口を揃えていたのは、「個人の思いつきと AI の手軽さを組み合わせれば、スピードと情熱を失わずにアイデアを形にできる」ということでした。組織の承認待ちや他部署調整がないからこそ、バグや失敗を恐れず試せる自由がある。その勢いが新しいサービスや発想を生む原動力になっています。
AI が書くコードを逐一チェックし、必要に応じて自分で修正する責任は増えますが、それは逆に言えば「本当に必要な機能や仕様を絞り込み、コアに集中できる」とも言えます。大量のつまらないルーチンを AI に任せ、クリエイティブな部分で人間のアイデアが光る ──。そんな理想的な個人開発スタイルが、既に少しずつ実践されているのだと実感しました。
これから個人開発を始める方も、AI ツールの進化に合わせて挑戦を加速させる方も、ぜひ参考にしてみてください。自分のリズムで、失敗を恐れず作りたい未来を形にできる。そのワクワク感こそが、AI 時代の個人開発における最大の魅力と言えるでしょう。
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