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使われるLLM活用ツールをどう作る? 〜3社の事例から学ぶ業務効率化ツール開発のポイント〜
公開
2025-04-14
更新
2025-04-14
文章量
約2909字
LLM(大規模言語モデル)による業務効率化の取り組みが各社で広がる一方、導入してみたはいいものの「実際に使われない」「セキュリティや運用のハードルが高い」という声もよく聞かれます。 ここでは、実際に社内向けのLLM活用ツールを開発・運用し、大きな成果を上げている3社の事例を紹介します。それぞれの企業が、どのように要件を定め、アーキテクチャを構築し、推進してきたのか――現場の視点を交えた取り組みが多く語られました。
1. パーソルキャリア株式会社
7,000名規模の企業でのLLM活用術:自社版生成AIシステムの開発と推進
登壇者:久保田 慧 さん(テクノロジー本部 デジタルテクノロジー統括部 生成系AIエンジニアリング部)
背景とゴール
パーソルキャリアには約7,000名の社員がおり、個人情報や機密情報を多く扱う。
業務でAIを使いたいという要望は大きいが、セキュリティや使いこなしの難しさがネック。
そこで「安全かつ社内業務にフィットしたAIツール」を内製し、社内版LLMチャットアプリ「ChatPCA」(通称チャッピー)を開発。
推進と普及のポイント
リリース後、月間利用率72%に到達
月に約5,000名が利用し、社内アンケートでは1人あたり約6〜8時間の業務削減効果があった。
AI推進担当者との連携
各事業部の担当者が現場目線で導入を支援。
自社共通基盤チームだけでなく、現場部門が自らサポートできる体制を構築。
利用状況ダッシュボードの社内公開
事業部やチームごとの利用率、送信回数などを可視化。
現場ごとの活用度を把握でき、効果的な支援や事例共有につなげられる。
機能と今後
社内文書検索(RAG)
機密文書を安全に参照し、AIチャット上で参照結果を要約する機能。
URL共有機能
作成したプロンプトをワンクリックでURL化し、他社員と手軽に共有。
職種別プロンプト集
営業やキャリアアドバイザーなど、職種ごとの定型的業務で役立つプロンプト群を用意。
今後は「全社員が当たり前にAIを使いこなせる」状態を目指し、機能開発や分析を強化。事業部のKPIとの相関を分析し、AI活用が生み出す価値を数値化していく展望があるそうです。
2. 株式会社令和トラベル
コンテンツ生成AIアプリケーション開発の実践
登壇者:松井 一歩 さん(MLチーム エンジニア)
取り組み概要
旅行予約プラットフォーム「NEWT」を運営する令和トラベルでは、旅行ガイド記事やホテル情報など大量のコンテンツを提供。
そこでLLMを活用し、ガイド記事などを部分的に自動生成する仕組みを構築。
デファイ(Flowise等)でプロトタイピング → 本格開発ではLangChain + Pythonに移行という流れで高効率化を実現。
工夫点
編集チーム(ドメインスペシャリスト)との連携
定期的なフィードバックや既存の業務フローを尊重し、スムーズにAIを導入できるように設計。
プロトタイプと改善の高速サイクル
当初はデファイ(ノーコード)を利用して短期開発
要件が安定した段階でLangChain + Pythonへリプレース
LangChainエコシステムの活用
グラフ構造でワークフローを可視化できる「LangGraph Studio」
プロンプトやコストのモニタリングが可能な「LangSmith」
コードベースに置き換えることで拡張性・メンテナンス性が向上
今後の展望
ガイド記事だけでなく、旅行プランや動画生成など幅広いコンテンツをAIで生成。
Node.jsやTypeScriptベースのフレームワークも並行検証し、技術選定の幅を広げる。
LLMアプリケーション開発において、将来的によりエージェント的なアプローチを検討。
今回の事例からは、プロトタイプ段階ではノーコードツールでスピード重視、本格的な拡張フェーズではLangChainなどを取り入れて開発という流れが極めて有効であると示されました。
3. 株式会社LayerX
人事がStreamlit in Snowflakeで生成AIアプリを社内向けに作った話
登壇者:宮本 純弥 さん(HRマネージャー)
背景と概要
LayerXではあらゆる経済活動をデジタル化することを目指すスタートアップ。
人事マネージャーである宮本さん自身が、LLMを活用した「スカウト文生成ツール」を自作し、採用担当者の業務を効率化。
エンジニアではない立場ながらも、Snowflake上のStreamlit機能を使うことで、数日程度でPoCを形にした。
ツールのポイント
スカウト文作成のプロセスを部分的に自動化
候補者のプロフィール情報と社内求人情報をLLMに渡し、下書きドラフトを生成。
リクルーターはドラフトを微調整して送信するだけでOK。
約15〜20分かかっていた作業が5分に短縮
1日複数件のスカウトを送る業務において、合計するとかなりの工数削減効果。
ストリームリット+Snowflakeを選んだ理由
環境構築の手間なく、既存のデータ基盤(Snowflake)に容易にデプロイ可能。
Pythonベースで素早くUIを構築でき、車内向けツールの公開が容易。
社内ルールに合わせたAPIトークン管理や権限コントロールができる。
今後の方針
採用業務以外の領域にも応用を検討。
“雑務”を減らし、人事担当者が応募者とのコミュニケーションに専念できる環境を目指す。
将来的には、より本格的な社内プロダクトとして拡張する可能性もある。
宮本さんいわく「非エンジニアでもAI活用のプロダクトを作れる時代が来た。小さなPoCを回してエンドユーザー視点で改善していくことが、実際に『使われるツール』を生むカギ」と強調されていました。
全体を踏まえた感想
今回の3社が示す共通点は、“現場の業務に深く入り込んだ内製ツール”を、最小限の技術スタックで素早くリリースし、地道な推進・モニタリングを徹底しているところです。
パーソルキャリアは、7,000名という大規模組織で「セキュリティと現場ニーズの両立」を追求。AI推進担当者の設置や詳細な利用ダッシュボードの活用で、72%もの利用率を実現。
令和トラベルは、デファイによるノーコード開発で素早くプロトタイプし、LangChainへの移行で拡張性を確保。編集チームとの密なやり取りで現場に最適化。
LayerXは、非エンジニアがストリームリット+Snowflakeを活用し、採用スカウト分生成ツールをわずか数日で開発。業務時間を大幅に削減しながら、現場目線の細かな要件を反映。
いずれの事例からも「LLMだからこそ、短期間で効果を出せる」一方、実際に使われるには「運用フローにどう溶け込むか」「セキュリティや情報の流通をどう管理するか」「業務担当者の視点をどう組み込むか」が大きな鍵になると感じられます。 単なる技術実験にとどめず、自社の業務オペレーション全体をふまえ、少人数・短期間で作りきった上で地道な社内推進を続ける――そんな姿勢こそが、LLM活用を成功に導く最短ルートなのではないでしょうか。
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