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RECRUIT TECH CONFERENCE 2025 Day2 レポート
公開
2025-03-16
更新
2025-03-16
文章量
約4343字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
はじめに
2025年2月19日(水)・20日(木)の2日間にわたって開催された「リクルート テックカンファレンス 2025」。単なる“社内発表会”を超えて、エンジニアリングコミュニティ全体にも多くの示唆を投げかけるオンラインイベントでした。 両日にわたって十数本のセッションが行われ、フロントエンドからインフラ、機械学習、レガシーシステムの改善、人材育成まで多種多様なトピックが網羅されていた印象です。新規事業の裏側やキャリア形成論も含め、「今こそ知りたい」知見がたっぷり詰まっていました。
中でも注目度が高かったのが、2日目(Day2)のラインナップ。たとえば、大規模言語モデル(LLM)の事業適用や検索基盤のリプレイス、レガシーシステムと向き合う方法、人材育成における組織設計――いずれも「新たな価値をどう創造するか」という視点から語られ、“技術を活かす現場力”というイベントテーマを強く感じさせるものでした。
そこで本レポートでは、Day2のセッションから4つを厳選し、掘り下げます。各領域で見られた創意工夫や運用ノウハウをまとめつつ、最後に「現場力」というキーワードが見せる可能性を再考してみたいと思います。
※ Day1のレポートはこちら
LLMのプロダクト適用と独自モデル開発
なぜ「自社モデル」を作るのか
大規模言語モデル(LLM)がますます注目を集める中、リクルートでもGPTやGeminiなどのクローズドソースLLMを活用する一方で、自社独自のLLMを育成しているというユニークな取り組みを披露しました。
自社データで精度を高める
人材・旅行・飲食・結婚など、多彩なドメインのデータを大量に保有するリクルートだからこそ、汎用モデルだけでなく自社ドメインに特化したモデルを育てる余地がある。
学習工程自体がノウハウ蓄積になる
マネージドサービスで手軽にモデルを使う選択肢もあるが、モデルをゼロから学習・評価する経験は、将来的なトラブルシュートや機能拡張に大きく寄与する。
継続事前学習と指示チューニング
ベースモデルの選定
オープンソースコミュニティにあるモデルを複数ピックアップし、サイズ・学習コスト・言語特性を見極める。
継続事前学習
自社のドメインデータにあわせて追加学習し、汎用モデルをドメイン特化させる。GPUクラスターなどのインフラ構築も不可欠。
指示チューニング
具体的なタスク(問い合わせ対応や文章要約など)への適用を想定し、指示(プロンプト)に正しく応答できるようファインチューニングを実施。
評価と運用における論点
人手評価と機械評価の使い分け
大量データの評価を人手のみでこなすのは難しいため、LightGBMやBERT系モデルによる自動評価も導入。
推論コストとリアルタイム性
大規模LLMをフル稼働させるには膨大なGPUリソースが必要。部分的に小型モデルを蒸留するなど、運用コストとの兼ね合いが課題に。
プロダクト実装のUI/UX
チャット形式がベストなシーンもあれば、既存のフォーム入力にLLMの生成を混ぜる場面もある。用途に合わせたUX設計が求められる。
こうした両軸の取り組み――「既存の商用LLMを使う」と「自社でモデルを育てる」――を並行する姿勢は、まさにリクルートらしい挑戦的な現場力の表れと言えそうです。
新規検索基盤でマッチング精度向上に挑む!
背景:既存基盤が抱える課題
『ホットペッパーグルメ』は国内トップクラスの飲食店検索サイト。しかし、既存検索基盤では「ビジネス要件を反映しきれない」「多様な検索意図に十分対応できない」といった悩みがあり、開発の俊敏性も失われがちでした。
サービスの利用シーンが幅広い
家族で行く、友人と行く、記念日で選ぶ…状況ごとに検索意図が異なるため、高度な柔軟性が必要。
ビジネス要件が複雑
掲載プランやクーポン情報など、多岐にわたる条件を検索に組み込まねばならない。
新検索基盤の全体像
OpenSearch Serviceを選択
Elasticsearchとの互換を保ちつつ、Amazonのマネージドサービスを使うことで運用を楽にし、データサイエンティストが実験に集中できる土台を整備。
Ingestion機能でデータ投入を容易化
DynamoDBを経由してデータをまとめ、OpenSearchへのバックフィルを自動化。大幅な再インデックス作業を部内で気軽に回せる。
API層で複雑ロジックを吸収
OpenSearchの標準機能だけではカバーしきれない要件(ハイブリッドサーチ、ページネーション、リランキングなど)をAPI層に切り出して実装。
ベクトル検索とハイブリッドサーチ
Two-Towerモデルによる埋め込み
類義語や表記ゆらぎを高いリコール率で捉えるため、ベクトル検索を導入。
ページネーション問題
ベクトル検索の結果をページングするのが標準機能では難しいため、API側でクエリを連続発行・合成して自然なページングを実現。
CV向上とさらなる知能化
ABテストでCV率が約10%改善。今後はユーザーのシチュエーションを考慮したパーソナライズや高度なリランキングを進める方針。
「検索を変えればユーザーの行動が変わる」という印象的な言葉通り、検索基盤の刷新がビジネスに与えるインパクトを改めて感じさせる事例でした。
エンジニアの人材育成戦略
どんな組織でも悩む「育成」のリアル
Day2後半では、人材育成に特化したセッションが行われ、データ推進室とプロダクトディベロップメント室のアプローチが比較されました。技術力だけでなく、ビジネスや組織観点を踏まえた「エンジニアをどう成長させるか」が語られ、興味深い内容が満載でした。
データ推進室のアプローチ
理想の組織図を定期的に描く
事業戦略を軸に、今後必要な技術領域と人材数を明確化。そこに合わせて人を最適配置することで、エンジニア自身が将来のキャリアを描きやすい。
複眼の議論で客観視
マネージャーだけでなく、技術スペシャリストや別職種の視点を加え、エンジニア一人ひとりに合った配置や育成機会を検討する。
プロダクトディベロップメント室のアプローチ
ブートキャンプ形式の研修
新卒1年目でも実際の現場技術を習得できるよう、短期集中プログラムを開催。個々のレベルに応じて細分化する。
ダブルメンター制度+JDP
実務をサポートするメンターに加え、キャリア視点で相談できるメンターを配置。360度フィードバックに近い形で自己認知を深める機会を設ける。
結果:長期視点で人を育てる
「エンジニアが育つと事業も育つ」という信念のもと、研修プログラムやメンター制度を緻密に設計している点が両組織に共通。論理的に仕組みを整えながらも、「結局は情熱が大事」と言い切る姿勢が印象的でした。
「技術的負債」の返済プロセス
レガシー刷新は「急がば回れ」
大規模システムを長年運用していると避けられないのが“技術的負債”。このセッションでは、人材領域プロダクトと『ホットペッパービューティー』の2事例が紹介されました。いずれも単なる“コード置き換え”ではなく、ビジネスメリットを見据えて段階的に進める点が鍵となっています。
人材領域:ビジネス的負債を先に削る
不要コードの削除
プロファイラやアクセスログを分析し、呼ばれていないコードを整理。まず“使われていない機能”を消すだけでもコード規模が縮小し、リファクタリング効果が高まる。
共通ライブラリの解体
かつて複数システムで使われていたライブラリが形骸化しているケースなど、ビジネス価値を生まない部分を切り捨てるアプローチ。
ホットペッパービューティー:Webとアプリを共通API化
Webサイトのリアーキテクチャ
アプリ先行で進めてきたモダナイズをWebにも広げ、APIを共通化。古い独自フレームワークをスプリングブートへ置き換えるなど段階的にリプレイス。
フェーズ分割と差分テスト
いきなり全機能を移行せず、クーポン機能など効果が大きい画面から。スクリーンショット比較などの自動テストで仕様差異を発見しやすくし、ビジネスサイドと合意形成を徹底。
こうして「ビジネスを止めない」「効果を早めに出す」ことを念頭に置いた結果、不要コードの削除や段階的リプレイスだけでも大きなインパクトを生み出しているのが分かります。
まとめ: 続く“現場力”の行方
Day2のセッション群は、前日のDay1で提示された「技術を活かす現場力」をさらに掘り下げ、現場の試行錯誤や組織的なバックアップ体制がどのように機能しているかを鮮明に描き出していました。大規模言語モデル(LLM)の適用や検索基盤の刷新、人材育成、レガシーシステムの対応など、多彩な話題が並んでいるようでいて、すべてに共通するのは 「エンジニアがビジネスと共に前進する」 という強い意志です。
たとえば、LLMの取り組みは最先端技術へのチャレンジに見えますが、背後には「どうやって自社ドメインにフィットさせるか」「学習構造を自分たちで理解し、次のサービス開発に活かすか」という長期的な視点が隠れています。検索基盤のリプレイスもまた、既存システムの課題を乗り越えつつ、これからのマッチング技術をアップグレードしていこうという視野の広さが感じられました。
さらには、エンジニアをどう育成するか、レガシーをどう扱うか――どちらも地味で根気の要る取り組みですが、そこにこそ「現場力」を体現する大きなヒントがあります。不要コードを削除するといった細やかな作業や、複数メンターで新卒をフォローする仕組みなど、「一見華やかではない一手」にこそ組織全体の成熟と学びが詰まっているのです。
次々と新技術や新トレンドが登場するIT業界において、「何が本質的に価値を生むのか」を見極めるには、現場での地道な挑戦と検証が欠かせません。 リクルート テックカンファレンス 2025では、そうした“現場力”が実際のビジネスと連動しながらどのように育まれ、進化していくかが余すところなく語られました。
セッションのアーカイブや資料も公開予定とのことなので、気になるテーマがあればぜひチェックしてみてください。きっと、多くのエンジニアや開発組織にとって、“自分たちならどう活かせるか”を考えるきっかけになるはずです。ひとつ確かなのは、 「すべては現場から始まる」 という合言葉が、これからもリクルートの開発現場をさらに前へ押し進めていくのだろう、ということ。そしてその過程こそが、エンジニアにとっても事業にとっても、最高の刺激と成長の源になるのではないでしょうか。
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