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「次世代DB戦略を支えるNewSQL 〜導入企業が語る導入背景と今後の展望〜」イベントレポート
公開
2025-03-10
文章量
約3891字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
目次
オープニング
Session1: Cloud Spanner 導入で実現した快適な開発と運用について
導入の背景
導入メリット
苦労した点
Session2: あれは良かった、あれは苦労したB2B2C型Saasの新規開発におけるCloud Spanner
B2B2C型チケッティングSaaSの新規開発
Cloud Spanner採用の狙い
開発・運用でのリアル
Session3: 苦しいTiDBへの移行を乗り越えて快適な運用を目指す
SREチームの視点
TiDBの採用理由
苦労した“移行”作業
Session4: TiDB Cloudをアーリーアダプトした理由
新作タイトルでの挑戦
運用からの解放を目指して
付加試験でのパフォーマンス
全体を踏まえた感想
2025年2月19日、クラウドネイティブの時代に一石を投じるNewSQLをテーマに、オンラインイベント「次世代DB戦略を支えるNewSQL 〜導入企業が語る導入背景と今後の展望〜」が開催されました。
近年、RDBMSとNoSQLのメリットを兼ね備えると言われるNewSQLが、高いスケーラビリティやトランザクション管理を求められるシーンで注目を集めています。
本イベントではCloud SpannerとTiDBという2つのNewSQL製品を実際に導入している企業4社のエンジニアの方々に、それぞれの導入背景や運用ノウハウ、そして“今後のデータベース戦略”を伺いました。
オープニング
はじめに主催のファインディが本イベントのゴールを紹介。
「NewSQL導入事例から、今後のDB選定のヒントを持ち帰ってほしい」という想いのもと、当日はチャットやQ&A欄にも多くの質問・意見が寄せられました。
Session1: Cloud Spanner 導入で実現した快適な開発と運用について
株式会社コロプラ / 尾山 知範(バックエンドエンジニア)
導入の背景
コロプラではスマートフォンゲームが大ヒットし、ユーザ数やイベント時のトラフィックが年々増加。
MySQLで垂直・水平分割などを積み重ねてきたものの、分散トランザクションの複雑化などで運用が徐々に辛くなっていました。
ちょうど2017年にGoogle CloudからCloud Spannerが登場し、オートスケーリングや分散トランザクション管理といった機能が「求めていたもの」そのものだったことが決め手に。
導入メリット
- スケーリングが圧倒的に楽に1クリック、あるいは設定値の変更だけで大幅なスケールアップ/スケールインが可能。
- メンテナンスコストの削減フェイルオーバーやパッチ適用が自動化されるため、サービスを止めずに運用できる。
- トランザクション管理が単純化分散トランザクションやレプリカ遅延に悩まされることがなくなり、アプリロジックに集中できるように。
苦労した点
1つ大きかったのが「急激な負荷への対応」。大きいイベント前にアクセスがどっと集中すると、Spanner内部の分割が追いつかずCPUが100%に張りつき、レイテンシが跳ね上がるケースがありました。
対策として事前ウォームアップを入念に行い、少しずつデータの分割を促進するという工夫を施しています。
Session2: あれは良かった、あれは苦労したB2B2C型Saasの新規開発におけるCloud Spanner
アソビュー株式会社 / 長友 宏仁(バックエンドエンジニア)
B2B2C型チケッティングSaaSの新規開発
アソビューでは新規事業として、エンターテインメント業界向けの座席予約システムを開発。チケット販売開始時にアクセスが急増することが想定され、強い整合性とスケーラビリティが求められました。
Cloud Spanner採用の狙い
- 大量トランザクションや座席在庫管理を安定稼働させたい
- 高い整合性がないとダブルブッキングなど致命的トラブルに
- 運用コストを新規プロダクトチームに完結させ、メンテなどで大きくリソースを割きたくない
開発・運用でのリアル
- 強い整合性
- 更新系クエリでは対象レコードをシンプルにSELECTするだけで衝突を防げる。一方、親子関係を跨ぐような広い範囲をトランザクションでロックするとアボートが発生しがち。そこはトランザクションの貼り方を二段階構成にするなどの工夫が必要。
- 使いやすい管理コンソール
- コンソール上でクエリの実行計画を可視化し、ボトルネック箇所を特定できる。新規開発ではこれを活用して比較的スムーズにパフォーマンスチューニングできた。
- 制限事項への注意
- 1トランザクションで扱えるミューテーション数上限、最大ジョイン数20など、Spanner独自の制約を把握しないまま実装すると本番でエラーに直面することも。
Session3: 苦しいTiDBへの移行を乗り越えて快適な運用を目指す
レバテック株式会社 / 金澤 伸行(SRE)
SREチームの視点
レバテックではエンジニア・クリエイター向けの採用プラットフォームを複数運営する中、RDBのクラスター増加に伴うメンテナンスコストが上昇。SREとしては、DB管理に割かれる時間を最小化して組織全体の生産性を上げたいという狙いがありました。
TiDBの採用理由
- ゼロダウンタイムでのバージョンアップやノード追加が可能
- リソースグループ機能を用いて一元管理でき、特定サービスが負荷を食い潰しても他へ波及しづらい
- MySQL互換で移行の障壁を低減
苦労した“移行”作業
- AWS DMSを用いた移行時、テーブル定義や外部キー制約の再現で苦戦
- 大量データを扱う際のリソース単位(RU)計算が難しく、結果的に「まず大きめに設定→運用してみて調整」という方針で対応
- 分散DB特有の制約(外部キー無効化やインクリメントが保証されないなど)を踏まえ、コードや設計を見直す必要があった
移行は辛いが、「一度やりきればゼロダウンでのアップデートや集約管理が実現し、SREにとっては夢のような運用体験になるかもしれない」とのこと。今後はこの余剰リソースをほかのシステム改善に回し、より広い課題に対応したいと語った。
Session4: TiDB Cloudをアーリーアダプトした理由
カプコン株式会社 / 森田 亮平(インフラエンジニア)
新作タイトルでの挑戦
カプコンが2023年にリリースした新規IPゲーム「エグゾプライマル」では、サーバーインフラから新技術を積極導入して開発を進める方針を採用。その一環でTiDB Cloudが選ばれました。
運用からの解放を目指して
当初はAuroraやSpannerなども選択肢にあったが、メンテナンスにかかる時間やダウンタイム調整の負荷を軽減したい一心で「マネージドかつスケールが容易」なTiDBを採用。さらにピンキャップ社による24時間サポート体制やバージョンアップ代行も導入し、インフラエンジニアが細かなDB運用に縛られず済むメリットが大きかった。
付加試験でのパフォーマンス
数万〜数十万規模の同時接続を想定した負荷テストでも、想定を超えるTPSを達成。実運用でも大きな不具合は発生しておらず、「DB周りで頭を悩ます時間が減った分、ほかの課題やサービス改善に集中できている」という好感触な報告で締めくくられた。
全体を踏まえた感想
今回のイベントでは、NewSQLの代表格とも言えるCloud SpannerとTiDBを採用した企業が、自身のプロダクト特性やチーム体制、そして運用上の苦労を赤裸々に語ってくれました。
- 「やはり一番大事なのは、DBの運用をどれだけ軽くできるか」
- レプリカ遅延や分散トランザクションなど、従来のRDBの規模拡大では避けられなかった問題が、NewSQLなら抜本的に改善できる——という声が印象的でした。
- 「逆に移行は厳しいが、新規プロダクトならチャレンジしやすい」
- 長期運用のレガシーシステムではDMSによるDDLや外部キー、スキーマ変更など移行コストが大きく、苦労する事例が多かったようです。しかし、新規案件や段階的な切り替えなら、将来を見据えた導入が比較的やりやすい。
- 「DBに頭を悩ませず、アプリロジックに集中したい」
- イベント中、何度も出てきた言葉が「余計な分散トランザクションを考えなくていい」「メンテナンスがほぼ要らない」「ノード追加などもワンクリック」という運用負担の低減。DBの存在を意識しないレベルで手離れがいいなら、開発生産性は飛躍的に向上するはず。
新技術を導入する上で大切なのは、どのDBが自社・自分のプロダクトに合うかを見極め、かつ「何を最優先で解決したいか」をはっきりさせること。そして、先人の事例やサポートにうまく乗っかり、移行や学習コストを抑えることが成功のカギだと感じられました。
RDBMSやNoSQLが主流だった時代から一歩進み、様々なユースケースを想定したNewSQLが本格的に選択肢に加わっている今、開発者・インフラエンジニアにとっては「DB戦略の幅がぐっと広がる」と同時に「どれをどう使うか?」がますます問われる時代。
しかし本イベントで語られたように、運用負担から解放されたチームは新たな開発や組織課題に時間を割けるという大きなメリットを手にしています。これからの数年は、NewSQLを含む多彩なDB技術の中から最適なアーキテクチャを素早く選び、「DBがあることを忘れられるような世界」を目指す競争がさらに進んでいくことでしょう。
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