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社内生成AIを活用推進するために知っておくべきウラ話 -“アジャイル×ガバナンス×利用者参加型”で加速する開発戦略と文化醸成- イベントレポート
公開
2025-03-03
文章量
約3513字

Yard 編集部
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イベント概要
- タイトル社内生成AIを活用推進するために知っておくべきウラ話-“アジャイル×ガバナンス×利用者参加型”で加速する開発戦略と文化醸成-
- 開催日時2024年11月26日 19:00〜20:15
- 開催形式オンライン(YouTube Live)
- 主催パーソルホールディングス グループデジタル変革推進本部
本イベントは、企業内で生成AIを導入・運用・浸透させる際に、「ガバナンスやルール整備」「経営層への説得術」「社員のリテラシー育成と文化醸成」などでつまずきがちなポイントを、実際に社内活用を大規模に推進したパーソルホールディングスの事例をもとに共有するもの。“アジャイル思考×ガバナンス”を両立させるコツや、社員が主体的に楽しめる「利用者参加型」施策が満載でした。
登壇者
- 朝比奈 ゆり子 氏
- パーソルホールディングス グループデジタル変革推進本部 本部長
- 社内生成AIの推進リード。「経営層への説得」「ガバナンス整備」に深く関与。
- 上田 大樹 氏
- パーソルホールディングス デジタルEX推進室 室長
- 内製AIプラットフォーム「企業GPT(通称:チャス)」の企画・開発をリード。
1. パーソルHDにおける生成AIの導入戦略
登壇:朝比奈 ゆり子 氏
「まずは、経営層へのアプローチとガバナンスをどう突破するか」という問いに、朝比奈氏は真っ向から挑み、具体的かつ生々しいエピソードを披露。とりわけ以下のポイントが印象的でした。
- ガバナンス強化は「アジャイル思考」で
- 生成AIが急速に普及する中、ルールをガチガチに固めすぎるとかえって活用が進まない。
- 法務・セキュリティ担当を開発初期メンバーに加えることで、ルール策定を“止めるため”ではなく“前に進めるため”に機能させる。
- 運用してみて課題が見えたら 「ガイドラインやチェックリストをアップデートし続ける」方針を徹底。
- 経営層の理解を得るための戦術
- 「このまま活用しなければビジネスリスクが高まる」という危機感と、「早期に導入すれば先行者メリットが得られる」という期待感をセットで提示。
- 成功可能性を高めるため、初期段階では月額利用費の上限を約100万円に設定し、失敗を最小化。
- 「ROIを明確に!」という問いには、「先行投資のフェーズとして" KPIは利用者数・時間削減実績などの先行指標で評価 ”し、事業貢献の数字は後追いで示す」アプローチを取った。
- 社員5割から、最終的には1万8000人超が利用
- グループ内(国内)社員向けに、“社内GPT環境”を内製で構築。「とにかく安全に、楽しく、自由に使える場」を用意し、パイロットユーザーから一気に拡大。
- 「生成AIパスポート試験を200名で団体受験」や「プロンプトギャラリー」など“楽しみながら学ぶ”文化を作り、継続利用を促進。
- 結果、月ごとの継続利用者数は右肩上がり。業務削減効果(1人あたり月3時間削減)や新たなアイデア創出など目に見える成果を発揮。
朝比奈氏いわく、 「企業のガバナンスを形骸化させずに、変化に合わせてルールも進化させる」 ことが最大のポイント。同時に、経営層を巻き込むには“繰り返し粘り強く説得し、安心材料とリスク低減策をセットで提示”することが重要と語っていました。
2. 企業GPTのコンセプト・機能実装の具体
登壇:上田 大樹 氏
次に、実際の開発・運用をリードする上田氏が「チャス」と呼ばれる社内GPTのアプリケーション全貌を紹介。以下の3つのコンセプト設計が特に秀逸でした。
- 安心安全
- 車内にクローズドな環境を用意し、データが外部に学習データとして使われないよう配慮。
- 利用ガイドラインとリスク相談窓口を設置し、「どこまで使ってOKか」を明確化。
- ホールディングス横断で法務・情報セキュリティ・IT部門が協働し、“困ったときに相談できる”体制を整備。
- 学びと競争
- 社員同士が“プロンプトギャラリー”でアイデアや活用事例をシェアし合う仕組みを導入。
- 毎月「プロンプト表彰」や「いいね・ダウンロード数」のランキングを可視化し、お互いを称賛する文化づくり。
- 研修やイベントを階層的にデザインし、独自の「生成AIマスター」称号制度を設置。
- 利用者参加型(育成ゲーム感覚)
- チャットUI部分だけでなく、“使うほどに盛り上がる”コミュニティ運営を重視。
- 「チャス」というキャラクターを生成AIで作成し、パーカーやグッズを活用しながら社員の愛着心を育む。
- 新機能要望はコミュニティから拾い、「内製だからこそのアジャイル開発」で素早く反映。ユーザー参加型で製品を育てる。
こうした「ツール×文化×ガバナンス」を一体化した仕掛けによって、すでに社内利用者は2,000名超のコミュニティが形成され、AI導入としては異例の速度で拡大に成功しているとのこと。
また、今後は「ラグ(Langchain)活用やエージェント化」により、既存データベースや各種業務フローとの連携を強化していく計画も進行中。**「社内ヘルプデスクをAIエージェントで置き換える」**など、よりビジネス・業務改革に踏み込む事例創出を目指すといいます。
Q&Aセッション ハイライト
質疑応答では「大企業ゆえのガバナンス・ルールの壁」や「経営層との交渉術」「実際の機能実装の詳細」など、多数の質問が寄せられました。
Q1. 法務を仲間に加えるコツは?
- 回答(朝比奈 氏): 「初期の推進チームに法務担当者を直接アサイン」。止めるためでなく「前に進めるにはどうすればいい?」を一緒に考える体制を作った。トップ同士の連携・信頼関係も鍵。
Q2. コミュニティづくりはどう進めた?
- 回答(上田 氏): Microsoft Teams上に自由参加型チームを開設。強制招待ではなく、興味ある社員が自発的に参加する形式。結果、当初10数名→約2,000名規模に拡大。「利用者同士の声で盛り上がる」仕組みを優先。
Q3. KPIはどう設定した?
- 回答(朝比奈 氏): フェーズごとに指標を変化。初期は「利用者数」「削減時間」など先行指標を重視。最終的には「事業変革や新規サービス創出での成果」を追求するが、現時点では“学習投資”として理解を得る。
Q4. 外部ベンダーとの協業は?
- 回答: 基本は「内製でアプリを開発」。グループ企業やOSSコミュニティの知見は積極的に活用。自社環境に合った形でアジャイルに対応可能なのがメリット。
まとめと今後の展望
今回のイベントでは、パーソルホールディングスがわずか数か月で経営層を巻き込み、社内生成AIを1万8000人超のグループ社員に広げるまでの「アジャイル推進と文化醸成」が赤裸々に語られました。
- ガバナンスとアジャイルを両立する設計
- 法務・セキュリティを初期から巻き込み、ガイドラインやチェックリストを継続的にアップデート。
- 利用者参加型の仕組みづくり
- プロンプトギャラリー、表彰制度、キャラクター「チャス」など、社員が“楽しみながらスキルアップ”できる工夫。
- 経営層を味方にする説得術
- 先行指標(利用者数・時間削減など)を丁寧に報告し、最終的には事業変革につなげるロードマップを提示。
まさに「“ブロッカー”をすべて“仲間”に変える」を体現している事例といえます。今後は「エージェント開発プラットフォーム」や「業務システムとの深い連携」に注力し、生成AIのさらなる事業活用を加速させるとのこと。大規模企業でこれだけスピーディ&アジャイルに進んでいる事例は貴重であり、“安全と自由のバランス”を模索する全ての技術者・推進担当者にとって大いに学びのある時間でした。
イベントを振り返って
本イベントの大きな学びとしては、
- 「ガバナンスは“止める”ためではなく、“活用を前に進める”ためにある」
- 「新しい技術を根付かせるには、利用者が楽しく参加できる仕掛けづくりが不可欠」
- 「経営層へはROIを『きっちり数値化』できなくとも、段階的に共有し続ける粘り強さが重要」
といった点が挙げられます。「とりあえずガイドラインを作るだけ」に留まらず、すぐアップデートできるアジャイル体制と、社員が競争しながら学ぶ文化づくりを同時に仕掛ける――この二重奏が推進成功の秘訣と言えそうです。
今後もパーソルホールディングスでは、企業GPT「チャス」をはじめとした生成AI内製プラットフォームのアップデートや、事業サービスへのAI活用をますます推進していくとのこと。「働いて、笑おう。」というコーポレートビジョンが、まさに“生成AIで社員も顧客も幸せにする”世界観へと繋がる事例として、今後も注目必至です。
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