🖥️
NECソリューションイノベータ先端研究フォーラム レポート──専門技術で描く持続可能な未来
公開
2025-03-03
文章量
約3075字
2024年12月17日にオンラインで開催された「NECソリューションイノベータ先端研究フォーラム〜専門技術で描く持続可能な未来〜」は、最先端の研究やテクノロジーを活かした多彩な取り組みが凝縮されたイベントでした。
4つのセッションを通じて、デジタルツインによる3Dデータ活用、Web3がもたらす新たな社会、AIコンパイラによる性能最適化、そして量子コンピューター研究の最前線というそれぞれの分野がどんな可能性を秘めているのか――専門家たちが語る内容に、参加者は熱心に耳を傾けていました。
ここでは、それぞれのトークを振り返り、最後に全体を通した感想をまとめます。
1. 顧客課題をデジタルツインで解決 ──高品質3Dデータ生成と高度活用術
最初に登壇したのは古津 元大さん。彼はドローン撮影などで得られる3Dデータをどのように扱い、“デジタルツイン”を構築するかについて紹介しました。
ポイントとなるのは「高精度の3Dモデルをいかに生成し、保守・運用に活かすか」という部分です。ドローンで排水池や大型施設の内外を撮影し、フォトグラメトリ技術を用いて3Dモデルを作成。
しかし撮影時のピントずれや重複撮影不足など、多数の要因でモデルに欠けや穴が生じる場合があります。
そこで同氏は、再撮影せずともアルゴリズムで“クリーニング”し、きれいなデータを再構成する技術を解説しました。
さらに、作成した3DモデルをAIと組み合わせて点検業務に利用する事例も興味深いところ。内面と外面を結合したモデルで排水池の劣化状態を俯瞰しつつ、外側の汚れやひび割れを画像解析とマッピングで把握できるのです。
こうした仕組みは、大規模施設やインフラの点検を効率化し、保守計画の最適化に寄与するという将来性が感じられました。
2. 近づいてきているWeb3社会 ──分散型のインターネットがもたらすもの
続いて登壇した深田 彰さんは、今話題になっているWeb3の世界を簡潔にまとめてくれました。
Web1・Web2・Web3という進化を振り返りつつ、Web3の本質は「中央集権的なサービスから離れ、ユーザー自身がデータを管理・活用し合うインターネット」にあると強調しています。なかでも非中央集権的なID管理(DID)やトークンエコノミー、DAO(自律分散組織)といった概念が急速に台頭中です。
ただしWeb3実現には課題もあり、まだ規制や法整備が追いついていない面も指摘されました。また、現状のWeb3はユーザーフレンドリーとは言い難く、ウォレットのセットアップや仮想通貨の購入などが必要になるなど、敷居が高いと感じるユーザーも少なくありません。
それでもGoogleやMicrosoftなど大手が動き始めている今、数年後にはブラウザやOSレベルで標準搭載される未来が十分考えられます。
深田さんは「4年後に驚くほど身近な世界になっている可能性がある」と展望しており、Web3を意識するエンジニアにとって見逃せないメッセージでした。
3. 基礎から応用へ:AIを加速させるコンパイラの世界
3人目の登壇は、丸川 一志さんによるコンパイラの先端技術とAI応用。コンパイラとAIというとあまり結びつかない印象がありますが、実は学習や推論の処理を高速化するにはコンパイラによる高度な最適化が鍵を握るという話です。
膨大なパラメータをもつAIモデルを実行する上で「ジットコンパイル」や「特定のハードウェア命令を活かしたベクトル化」など、従来のコンパイラ最適化手法が新しい文脈で再注目されているとのこと。
さらに、AIフレームワーク自体がコンパイラ基盤(LLVMやMLIRなど)と緊密に連携することで、並列計算やループフュージョンを自動的に実施し、キャッシュ利用を最適化する動きが活発化しているそうです。
一方、AIを使ってコンパイラ自体の最適化アルゴリズムを進化させる研究もあり、将来的には「コンパイラが自動学習で進化する」世界さえ見えてきています。今回のセッションからは、AIとコンパイラという2つの世界が相互補完的に発展しあう様子を垣間見ることができました。
4. 未来の技術?それともオワコン?量子コンピューティングの取り組み
最後に登場したのは、富木 毅さん・今井 春奈さん・家志 門太さんの3名による共同プレゼン。量子コンピューターという言葉は聞くものの「実際どうなの?」と疑問を抱く人も多いはず。彼らは量子アニーリング(組み合わせ最適化に特化した量子コンピューター)と量子ゲート型(汎用的な量子計算機)の2つの技術を整理しながら、NECソリューションイノベータで進めている研究・実証を紹介しました。
量子アニーリングでは、川崎市での交通流れの調整など「地域課題の解決」に取り組んでいるとのこと。例えば信号制御やクルマのルート最適化に使えそうで、組み合わせが膨大な問題も量子なら高速に解ける可能性があるといいます。
また量子ゲート型では、暗号解読から物質シミュレーションまで幅広いアルゴリズムが研究されており、今は2040年以降に実用化されると予想されているとのこと。
各社それぞれ「もっと早くなる」という見方や「いやまだ20年かかる」という見方が飛び交う中、とにかく急速な開発競争が起きている分野だと強調されました。
彼らは社内勉強会・ハッカソンなどで量子コンピューターの人材育成を進めており、すでに大勢のエンジニアが触っているそうです。
現状では、量子コンピューターは確かに特殊で難しく、オワコンかと揶揄される向きもある一方、IBMやMicrosoft、Googleなどが大規模投資をするなど将来有望視されている技術分野。
実際に「どこまで花開くか」は数年〜10年スパンで見守る必要がありそうだというのが、彼らの見解でした。
全体を踏まえた感想──未来の扉を開く、専門技術の奥深さ
本イベントでは4つのセッションがそれぞれ尖ったテーマを扱い、しかも実務や研究の現場で培われた生々しい知見が詰め込まれていました。
デジタルツインによる3Dモデル活用は、従来型点検の常識を覆す可能性を示唆し、Web3は「データ管理の主導権を人々に取り戻す」ビジョンを提示。
AI×コンパイラの最適化は、学習・推論のボトルネックを突破する強力な武器であり、量子コンピューター研究は近未来から遠未来まで射程に収める複雑な世界を垣間見せてくれました。
共通していたのは、いずれの分野も「大規模化」「分散化」「先端アルゴリズム」がキーワードになっていることです。これら技術の発展には時間がかかる部分もあれば、すでに目の前で応用が始まっている領域もあります。
NECソリューションイノベータは、グループ全体やコミュニティと連携しながら幅広い先端研究を推進中で、そこから生まれるソリューションは持続可能な未来に向けて確かな一歩を刻んでいるように感じられました。
一見、とっつきにくい専門領域も多かったかもしれませんが、登壇者たちの具体的事例や実機検証の裏話は「今の技術がもうここまで来ているのか!」という驚きに満ちています。技術者はもちろん、未来志向のビジネス関係者にとっても、本フォーラムは充実した知見を吸収できる場だったのではないでしょうか。
新技術の扉を開くカギは、こうした情報をいかに柔軟に取り込み、実際の課題解決へ活かすか。そのヒントを存分に得られるイベントだったといえます。
Yardでは、テック領域に特化したスポット相談サービスを提供しています。
興味がある方は、初回の無料スポット相談をお申し込みください。
また、資料請求やお問い合わせもお待ちしております。テック領域の知見を獲得し、事業成長を一緒に実現していきましょう。