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【イベントレポート】失敗を糧に立ち上がれ! 《製品・市場・技術》3つの特殊性をもつバイク×コネクテッドサービス開発の難しさと乗り越え方 Honda Tech Talks#9
公開
2025-02-27
文章量
約3056字
2024年12月6日、「Honda Tech Talks #9」と題するオンラインイベントが開催されました。
これまで四輪(クルマ)中心だったシリーズが、初めてバイク(二輪)×コネクテッドサービスに焦点を当てたことで、多くのエンジニアやプロダクト開発者が注目する回となりました。
「ホンダのバイクにコネクテッドってどんなイメージ?」
そんな声を想像しながら当日を迎えましたが、いざふたを開けてみれば、世界No.1シェアを誇るバイク市場ならではの苦労話とチャレンジが次々と飛び出す、まさに“リアルに砂を噛む”ような開発ストーリーが展開。過去にはいくつものサービス終了(クローズ)も経験しながら、それでもなお新たな活路を見いだし続けるHondaの奮闘ぶりが、登壇者の言葉から真っ直ぐ伝わってきました。
バイクの特殊性と、クルマ流のやり方が通用しない理由
市場・製品・ユーザー環境の違い
最初に登壇された野口 晃平さんが示したのは、クルマとバイクの市場構造やユーザー像の大きな違いでした。
世界全体で見れば、ホンダのバイク販売数は年間約1900万台、そのほとんどがアジア等の新興市場で占められる。しかもバイクはクルマと異なり、「乗車時間=安全運転を最優先にすべき時間」。
リッチなインターフェイスを拡充しようにも、ライダーはハンドル操作とバランス維持に専念する必要があるため、むやみに複雑なUIを持ち込みづらい。
さらに、価格帯の低い車両が圧倒的に多い現実にも直面する。
クルマ用のような先端機能をそのままバイクに当てはめようとすればコスト面の障壁が大きいし、電動化が進むほど充電インフラの整備が追いつかない地域も多い。
結果、「クルマ並みに強力なサービスを、バイクユーザーにも届けたい」という意欲はあっても、そもそもの前提条件がクルマとまったく違うからこそ苦労している――という構図が鮮明でした。
コネクテッドサービスでこそ光る可能性
そんな状況だからこそ、「電動化という転換点」でバイクにも大きな変化が訪れています。
エンジン主体だった頃と異なり、バッテリーやモーターをどう制御するかによって性能が大きく変わる。
充電スポットをナビ連携で探す必要性も高まる。こうした要素が「コネクテッドサービスによる付加価値」を生みやすい土壌を育んでいるのだと野口さんは指摘。
実際、Hondaはこれまで試行錯誤を重ねながらも、電動バイクに搭載する車載インフォテインメント(IVI)やクラウド連携サービスを整備し始めているそうです。
バイクだからこその苦労:顧客接点とシステム連携
リアルな販売店網との連携
続いて登壇した富永 晃夫さんは、アジア地域など世界各国に広がるバイク販売店網の実態を解説。
1か国で月に数百万台の整備を処理する……そんな膨大な規模の販売店を、コネクテッドでどう繋げるのか?
- 各国それぞれにCRMやDMS(Dealer Management System)があり、その運用スタイルも基盤もバラバラ。
- しかもオンプレサーバーが主流だったり、日次バッチでしかデータをやり取りしない仕組みが当たり前な国も多数。
こうなると、せっかく車両側(IVI)やクラウド側でリアルタイムに機能拡張しようとしても、販売店基盤との連携がネックになる。
「コンシューマー向けコネクテッドサービスを実装するはずが、実際には各国システムの調整や現地法規対応に追われる」という厄介な壁が待っているのです。
それでも、従来から存在する離れ離れの基盤を繋ぎこみ、さらには「オンライン+オフライン」双方の顧客接点でメリットを出そうとするHondaの意気込みは大きい。
「バイクに乗る楽しさ」の先にある“安全・安心・快適”を具現化するために、一歩一歩多国籍のシステムを取り込んでいく壮大な挑戦は、今後さらに本番を迎えるといえそうです。
バイクIVI開発の難所:クルマ流ロジックは通用しない
自車位置推定の意外な落とし穴
最後に登壇した小山 亮平さんは、車載インフォテインメント(IVI)をバイクに実装する上で直面した技術的難しさを生々しく紹介。
例えば、ナビゲーションでよくあるGPS+マップマッチング+自立航法(センサー)による自車位置推定ロジック。クルマならロール角度(車体の傾き)はさほど大きくありませんが、バイクはコーナーで傾く量が桁違いに大きく、ライダーの熟練度や車種によっても傾き方が様々。クルマ用ロジックをそのまま使うと、GPSが途絶するトンネル等で自車位置が大幅にズレるリスクが高い。
そこで地道な「キャリブレーション」を繰り返し、シチュエーションごとにセンサー補正を行い、どうにか実用的な精度を確保しているという苦労話には多くのエンジニアが「なるほど……」と唸っていました。
ディストラクションの問題
さらにバイクならではの「ディストラクション(運転中に視線を外すリスク)」問題も顕在化。単にディスプレイがメーター周りにあるだけでなく、バイクはハンドル操作の影響が大きく、下を向く時間がほんの少し長いだけでも、ライダーは強い不安を覚える。
そこで「ユーザーがどこを見て、どんな操作を何秒行うか」といった評価視点を入れつつ、実車テストや生体情報分析などあらゆるアプローチで安全性を検証。その上で「車と全く同じUIを使い回さず、バイク独自のシンプルな表示・操作ロジック」に最適化していく必要があるのだと語られました。
イベントを通して感じたこと 〜二輪×コネクテッドの可能性と覚悟〜
「バイクならでは」の世界を、どうソフトウェアで切り拓くか
今回のHonda Tech Talks #9は、単に「バイクにもコネクテッドを入れてみます」という次元を大きく超え、「なぜ四輪とは違う難しさがあるのか」を徹底的に明らかにしてくれました。
市場はグローバルサウス中心、価格は低廉、加えてライダーは運転に集中しなければならないし、バイクの特性上ちょっとの画面操作でも危険になり得る。
そんな制約の中で、車両の電動化による新たな可能性を活かしつつ、どう付加価値を生むか――。そこには、「ユーザーが本当に必要とするUXをシンプルに届ける」という強い意志と、実際に数々の失敗を経験してきたHondaだからこその地道な改善姿勢がありました。
外部のソフトウェアパートナーを巻き込みながら、世界中の販売店基盤との連携を模索し、自車位置推定やUIの根本的な再設計に挑む。
その一つひとつがまさに“バイクならでは”の開発ドラマと言えるでしょう。
これからの進化に期待
電動バイクが今後ますます普及し、充電スポット不足やバッテリー寿命の問題など、新しい課題も次々に浮上するのは避けられません。しかしそうした問題こそがコネクテッドサービスの真価を発揮する機会でもある。
「ソフトウェアで性能をアップデートする」「ライダー同士・販売店との繋がりを強化する」「世界中の充電インフラやサービスとの連携を加速する」――これらはクルマとバイクが同じようで全く違う背景を持つからこそ、二輪特有の解決策が求められる領域です。
Hondaは今まさに“途上”の段階にあり、課題を乗り越えるたびに新たな失敗に出会いながら、それでも果敢に前へ進んでいる。今回のTech Talksでは、そんな逞しさとともに、「だからこそ二輪×コネクテッドは面白い」という熱意が、登壇者の皆さんからひしひしと伝わってきました。
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