🤖
AI駆動開発完全入門 〜ソフトウェア開発を自動化するLLMツールの操り方 - FL#87イベントレポート
公開
2025-03-29
更新
2025-03-29
文章量
約3821字
株式会社ヤードの代表で、Yardの開発者です。 データプロダクトの受託開発や技術顧問・アドバイザーもお受けしております。 #データ利活用 #DevOps #個人開発
2025年3月19日、Forkwell主催のForkwell Libraryシリーズ第87弾として「AI駆動開発完全入門 〜ソフトウェア開発を自動化するLLMツールの操り方」がオンラインで開催されました。
本イベントでは、著書『AI駆動開発完全入門』の内容を軸に、AIコードエディタ「Cursor(カーソル)」などの活用法や、最新のAIエージェントを使った自動化ノウハウがふんだんに解説され、参加者からも多数の質問が寄せられました。
Part1: 講演「進化し続けるAI駆動開発の基本から最前線へ」
書籍『AI駆動開発完全入門』の狙い
田村氏はまず、自身が執筆した『AI駆動開発完全入門』について紹介。 この書籍では、
AIコードエディタ「Cursor」 を活用しながら、
3つのWebアプリケーション(オセロ、2048、音楽配信アプリ) を例に、
要件定義からコーディング、テスト、さらにAI生成の音楽データまで 幅広くAI駆動の工程を体験できる
といった構成になっているとのこと。単なるAI補完だけでなく、AIがどのように仕様やテストをサポートし得るのか、初心者でも段階的に学べる内容だと強調されていました。
AI駆動開発とは何か
田村氏いわく、「AIを使ってソフトウェア開発の速度とクオリティを向上させる」というアプローチ全般がAI駆動開発。 多くのエンジニアが思い浮かべる「GitHub Copilotによる補完型」以外にも、
プロンプト型(ユーザーが「この機能を実装して」と書きかけのコード等を指定して補完)
エージェント型(AIがファイル操作やブラウザチェック、ターミナル実行を自律的に行う)
など様々な形がある。Cursorはもちろん、Cline、Devin などAIエージェントの台頭も近年大きな注目を集めているとのことです。
保管型・プロンプト型・エージェント型
AIの利用形態を3つに分類すると理解しやすい、と田村氏は語ります。
保管型
代表例:GitHub Copilotのインライン補完、Cursorタブ補完
コードを打ち始めると次の行を予測して提案してくれる
プロンプト型
代表例:Cursorのインライン編集、チャット
具体的な指示を文章(プロンプト)で入力し、コード修正や仕様説明などを行う
エージェント型
代表例:Cline、Devin
AIがターミナルコマンドやブラウザを自動操作し、タスクが完了するまで自律的にやり遂げる
エージェント型の進化は特に目覚ましく、数年前は実用的でなかったが今や「人間の代わりにGUIをクリックし、テストを実行し、バグ修正コードをコミットする」ことまで可能になっている。この変化のスピード感が、まさにAI駆動開発最大の特徴だと指摘。
コツ:プロンプトは「指示」と「コンテキスト」を意識
田村氏は「プロンプトを書くのが大変なら、その分AI利用のメリットも薄れる」と強調。そこで、プロンプトを 「指示(AIにやらせたいこと)」と「コンテキスト(必要な背景情報)」 の2要素に分割して考えるのが効果的だと紹介しました。
指示 「バグを修正して」「HTMLでPタグ表示に変えて」など明確なタスクを1つに絞る
コンテキスト 必要なソースコードや依存環境、現在の状態など。これが欠けるとAIは誤った修正をしやすい
特に複数のファイルにまたがるバグ修正を行いたい場合、問題の起きそうなファイルをコンテキストとして提示すると精度が上がる、とのこと。
さらに上を行く「リーズニング系モデル」
今まではChatGPTのようなチャットモデルが主流だったが、最近は “Thinking”や“Reasoning”と名が付く別モデル が各社からリリースされており、それらは思考の深さが格段に高いと田村氏は語ります。
例えばOpenAIの「O1 Pro」やAnthropicの「Claude 3.7 (Thinkingモード)」などは、 「ウォーターフォールとアジャイルどっちを採用すべき?」 のような抽象度の高い質問にも「あなたの現状やチーム状況ならアジャイルがいい」のように踏み込んだ回答を返してくる。これにより、設計や方針レベルの“抽象的タスク”にもAIが活用できる時代に近づいている、と言います。
開発エージェントの台頭とクラインの衝撃
講演中、田村氏は「自分が1行も書かずにエージェントがGUIで操作しながらアプリを構築する動画」をデモ。
エージェントの一例「Cline」は、ファイルの内容やブラウザの表示をAIが読み取り、エラーがあれば自動で修正する姿が映し出されました。完成したアプリはレシピ管理機能も備えたUIを持ち、 「人間よりもはるかに速いペースで複数ファイルを編集し、実装までこなす」 という驚きの光景が参加者を圧倒。「数カ月後には更にできることが増えているだろう」と田村氏は予測します。
セキュリティやコスト、そして人間の役割は?
一方、こうしたAI駆動開発には以下のような懸念もあると指摘:
コスト 毎月数万円〜十数万円規模のAPIコストやツール代がかかる場合も。とはいえ「人件費を考えれば十分安い」と割り切る企業が増える可能性大。
セキュリティ 秘密情報や個人情報をAIに送るリスクがある。AIが勝手にファイルを読み込むことへの対策(例:
.clineignore
ファイル)など、チームでルールを整える必要がある。リファクタリングや拡張 AIが生み出すコードの可読性・保守性は工夫が要る。発注する側(人間)がどうテストを書くか、リファクタリングさせるかといった設計も不可欠。
人間の役割 AIが高い完成度で実装できる時代に、人間はなにをする? 結局、「何を作るか」「チーム全体でどう価値を提供するか」という意思決定や背景知識の収集は人間にしか担えない。ソフトウェア構築の抽象的な課題設定はまだ人間がリードすることになりそうだ。
Part2: Q&Aパネルトーク
視聴者からは20以上の質問が寄せられ、その一部をピックアップして以下のような話題が深堀りされました。
クラインのモデル選択 Claude 3.7 (Thinking) など、Anthropicのモデルがコード自動化には高精度だと田村氏は評価。GPT-4と比べると、現状クロードのほうが一歩リードしている場面があるという。
個人開発でチームレベルのプロダクトが作れるか AIの自動コーディングが進み、個人でも多機能を短時間で実装できる時代が来る。ただしセキュリティ対策や法的リスクなども含め、チームで担保する部分はまだ多い。そこまで完全に1人でこなすには、それなりのノウハウが必要。
どの程度課金している? 「Clineなどエージェント型を活用すれば、月数万円〜十数万円のAPIコストがかかるのが普通になりつつある。既に月7〜8万円は珍しくない」とのこと。「これを高いと見るか、安いと見るかは業務効率次第。エンジニア1人雇うより安いという見方もある」と田村氏。
使用策定や設計の抽象的タスクにもAIは使えるのか 「O1 Pro」などのリーズニング系モデルなら抽象的な議論や意思決定にも踏み込める可能性が高い。AI駆動開発は仕様策定からテストまで一気通貫でAIに任せる時代が近づいている。
全体を踏まえた感想
今回のイベントを通じて、もはや「AIがソースコードを生成する」「ファイルを自動編集する」レベルは当たり前になりつつあると改めて感じさせられました。レシピ管理アプリをClineが高速に書き上げるデモは衝撃的でしたね。
しかし、「何を作るか」「それがユーザーにとってどう価値を生むか」 といった意思決定まではAIができるわけではありません。あるいは、AIが生み出したコードを安全に運用するための設計や監査も、今は人間の守備範囲。 「AIに開発スピードで勝てないからこそ、人間は抽象的・上位レイヤーのタスクに集中する」――これが田村氏が繰り返し強調したポイントでした。
一方で、モデルやツールの進化は凄まじく、半年後には更にコストも下がり精度も上がる見込み。AI時代だからこそ、チームはどう分担するのか、セキュリティとコスト管理をどう考えるのか…まさに「AI駆動開発の真価」を問われる局面と言えそうです。
結論:「自分のAI」をチームに迎え、時代を駆け抜けよう
「使って比べれば分かる」と田村氏が語るように、AIエージェントやリーズニング系モデルは日進月歩。チームで使うにはまだ荒削りな部分もあるが、早く触れるほど大きなアドバンテージを得られるのは間違いありません。
コード自動生成の枠を超えて、設計・仕様策定にまで踏み込むAI。もはや人間1人が何時間も煮詰まらないと分からなかった問題を数秒で解決し、複数ファイルを一気に編集する様子は圧巻でした。
それでもAIにすべてを丸投げせず、「何を作りたいか」「サービスをどう進化させたいか」を考えるのは人間。本イベントは、そんな「AIと協働する新時代のエンジニア像」をはっきり示してくれた印象です。
書籍『AI駆動開発完全入門』ではCursorを中心にしたハンズオンが豊富なので、これから始める方にも最適でしょう。自分なりに試行錯誤し、自分専用の“AIエンジニア”を育てる。そんな夢がすぐそばまで来ていると感じたレポートでした。