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ADK活用の実践事例 AIエージェントの作り方から 現場での活用事例まで イベントレポート
AIエージェントが、私たちの働き方を根底から変えようとしています。しかし、その強力な可能性を前にして、多くの開発者がこう自問しているのではないでしょうか。「一体、どこから手をつければいいのか?」と。
2025年7月24日、その問いに答えるべく、Google Cloudが提供するAIエージェント開発フレームワーク 「ADK(Agent Development Kit)」 をテーマにしたオンライン勉強会が開催されました。
イベント前のアンケートでは、参加者の約7割が「まだADKを本格的に使っていない」と回答。まさに、これからAIエージェント開発の最初の一歩を踏み出そうとする人々が集ったこの場で、3名の先駆者たちが、ADKを巡るリアルな知見を共有しました。本レポートでは、その実践的な学びの軌跡をお届けします。
『ADKで始めるエージェント開発の基本〜デモを通じて紹介〜』
株式会社 G-gen / Risaさん
イベントの口火を切ったのは、G-genのRisa氏。ADKの基本概念から、実際のデモを通じた開発体験までを、分かりやすくガイドしてくれました。彼女が示したのは、ADKが持つ**「驚くべきシンプルさ」**でした。
「ADKの魅力は、ほんの数行のコードでエージェントを構築できることです。開発用UIも標準で付属しているので、開発者はエージェントのロジックそのものに集中できます」 —— Risaさん
彼女が披露した、英語学習支援エージェントのデモは、そのシンプルさを雄弁に物語っていました。オンライン英会話の文字起こしテキストをインプットとして、3つの専門エージェントが連携(シークエンシャルエージェント) し、フィードバックの分析、キーワード抽出、そして練習問題の作成までを自動で行う。この一連の流れが、驚くほど少ないコードで実現されているのです。
さらにRisa氏は、ADKを使いこなす上で欠かせない、エージェントの種類(LLMエージェント、ワークフローエージェント等)や、デプロイ先の選択肢(Cloud Run vs Agent Engine)といった、開発者が最初に知るべき「地図」を提示。AIエージェント開発という未知の領域に挑む私たちにとって、確かな足がかりとなる知識を共有してくれました。
『ADKとMastraを活用したAIエージェント開発実践』
クラウドエース株式会社 / Takuto Akaneさん
ADKの基本を学んだ私たちに、クラウドエースの茜氏は、より広い視野を提供してくれました。それは、ADKを**「エコシステムの中の一つの選択肢」**として捉え、Vercelが開発するTypeScriptベースのフレームワーク「Mastra」と比較するという、極めて実践的な内容でした。
「どちらが優れているか、ではありません。ADKはGoogle Cloudエコシステムとの統合に、MastraはTypeScriptエコシステムとの連携に強みがあります。プロジェクトの文脈に応じて、最適なツールを選ぶことが重要です」 —— Takuto Akaneさん
ADK: BigQueryやGoogle WorkspaceといったGoogle Cloudサービスとの連携がビルトインツールで容易。Pythonベースで、マルチエージェント構成の設計に強みを持つ。
Mastra: Vercel AI SDKやNext.jsとの親和性が高く、フロントエンドからバックエンドまでTypeScriptで一気通貫に開発したい場合に強力。
彼の比較は、私たちが特定のツールに固執するのではなく、課題解決のために最適な武器を柔軟に選択すべきである、というエンジニアリングの本質を改めて教えてくれます。
さらに茜氏は、社内業務をエージェント化する際に直面した、より根源的な課題にも言及しました。
「最も重要なのは、深いドメイン知識です。そして、エージェントを開発する前に、対象業務のプロセス自体を見直し、エージェントが動作しやすいように単純化しておくことが不可欠です」
AIエージェント開発は、コードを書くこと以上に、業務を理解し、再設計する能力が問われる。その深い洞察は、技術選定のさらに先にある、本質的な課題を浮き彫りにしました。
『ADKを活用して企業検索エージェントを構築した話』
ファインディ株式会社 / 田頭 啓介さん
イベントの最後を飾ったのは、ファインディの田頭氏による、ADKを使って具体的なビジネス課題を解決した、力強い成功事例の紹介でした。
課題は、多くの企業が抱えるであろう「顧客情報のサイロ化」。複数のプロダクトで顧客情報がSalesforce、HubSpot、スプレッドシートなどに分散し、クロスセルの機会損失や、非効率な情報検索が常態化していました。
「各サービスのデータをBigQueryに集約した『企業マスター』は作ったものの、非アナリストのメンバーがどうやってそのデータを活用するかが、次の課題でした。そこで、AIエージェントの出番です」 —— 田頭 啓介さん
彼が構築したのは、Slackから自然言語で企業情報を検索できるAIエージェントです。
ユーザーがSlackで「株式会社〇〇について教えて」と質問。
Cloud Run上で稼働するADKエージェントがリクエストを受け取る。
Googleが提供するOSS 「MCP Tools Box for Databases」 を介して、BigQueryの企業マスターテーブルに安全なクエリを発行。
取得した情報と、ビルトインのGoogle検索ツールで得た情報を統合し、Slackに要約を返す。
このエージェントは、導入後わずか1ヶ月で、インサイドセールスやカスタマーサクセスチームの約40%に利用されるという驚異的な成果を上げました。展示会やセミナーの会場から、名刺交換した企業の導入状況を即座に確認できるようになった、という現場からの声も上がっていると言います。
田頭氏の発表は、ADKが単なる実験的なツールではなく、現場の生産性を劇的に向上させ、ビジネスに直接的なインパクトを与えることができる、実用的なソリューションであることを、何よりも雄弁に物語っていました。
エージェント開発は、もはや「対話」のデザインである
3つのセッションを通じて、私たちが学んだことは何だったのでしょうか。
それは、ADKのような優れたフレームワークの登場により、AIエージェント開発の主戦場が、複雑なコーディングから、より上流の「設計」へとシフトしているという事実です。
どのツール、どのフレームワークを選ぶかという 「技術設計」 (茜氏)
AIが動きやすいように業務プロセスを最適化する 「業務設計」 (茜氏)
AIが活用できる高品質なデータ基盤を整備する 「データ設計」 (田頭氏)
そして、ユーザーが直感的に使えるインターフェースを考える 「UI/UX設計」 (田頭氏)
AIエージェント開発とは、もはやAI、データ、ツール、そして人間との間の、高度な「対話」をデザインする行為そのものなのかもしれません。ADKは、その対話をオーケストレーションするための、シンプルで強力な指揮棒です。
この指揮棒を手に、あなたは、どんな音楽を奏でますか?
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