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メタデータ通り ~学びと交流の場~ イベントレポート
DXの掛け声と共に、多くの企業がデータという新たな石油の採掘に乗り出しました。しかし、掘り当てた原油を精製し、価値ある製品へと変える術を知る者は、まだあまりにも少ない。この「データはあるのに活用できない」という根深い課題に、今、一つの光が差し込もうとしています。その光の名は 「メタデータ」 。
2025年7月16日、データ実務家コミュニティ「データ横丁」に、この光を灯す新たな通りが開通しました。その名も「メタデータ通り」。本レポートでは、その開通を記念して開催されたキックオフセミナーの模様をお届けします。
Quollio Technologiesの眞田貴央氏と板谷健司氏が語ったのは、メタデータが単なる「データの説明書」ではなく、企業の資産価値を定義し、AIの知性を覚醒させ、経営と現場を繋ぐ 「戦略的な羅針盤」 であるという、未来の展望でした。
基調講演『(メタ)データ活用の最新動向』
Quollio Technologies 取締役副社長COO / 眞田 貴央氏
セミナーの口火を切った眞田氏が投げかけたのは、「データの価値を、どう評価するのか?」という、経営の根幹に関わる問いでした。有形資産が中心だった時代から、データという無形資産が企業価値の源泉となる現代へ。しかし、その価値を測る「会計基準」は、まだ確立されていません。
「データの重要性は誰もが認識していますが、その価値をどう評価し、データ管理の取り組みをどう価値に結びつけるか。その体系的な知見は、まだ不足しています」 —— 眞田 貴央氏
眞田氏は、学術的な研究と実践的な事例を横断しながら、データ価値評価のフレームワークを紐解きました。
コストベース手法: データの取得や保存にかかったコストを積み上げて価値とする、最もシンプルな方法。
マーケットベース手法: 類似データの市場取引価格を参考に価値を算出する方法。
インカムベース手法: データが将来生み出すであろう収益を現在価値に割り引いて評価する方法。
これらの手法は一長一短ですが、その全ての評価精度を左右する鍵こそが 「メタデータ」 であると、眞田氏は強調します。
「どのデータが、どれだけビジネス成果に貢献したのか。その因果関係を追跡する『リネージ』。データの価値が時間と共にどう変化したかを記録する『品質履歴』。これらメタデータがあって初めて、私たちはデータの本当の価値を語ることができるのです」
メタデータは、データ管理部門の活動が、いかにして企業の財務諸表に貢献しているかを証明するための、強力な武器となり得ます。規制違反のリスクを回避することによるコスト削減(PLへの貢献)、クロスセル機会の創出による売上向上(PLへの貢献)、そして業務プロセスの改善によるキャッシュフローの最適化(BS/CFへの貢献)。
これまで「コストセンター」と見なされがちだったデータ管理の取り組みが、メタデータを介して「プロフィットセンター」としての価値を証明する。その可能性に、会場の空気は静かな興奮に包まれました。
『「メタデータ通り」の趣旨と進め方』
メタデータ通り世話人/Quollio Technologies 執行役員VP of Customer Success / 板谷 健司氏
眞田氏が示した経営とアカデミアの視点を、今度は生々しい「現場」の視点へと引き戻したのが、世話人である板谷氏のセッションでした。大手生命保険会社で長年データマネジメントを牽引してきた彼が語ったのは、多くの企業が陥る「データ活用の罠」の構造です。
「データ活用には4つの段階があります。『使用(使える)』『利用(目的を持って使える)』『活用(成果を出せる)』そして『成長(変化に対応できる)』。多くの企業は、『利用』の段階で足踏みしているのではないでしょうか」 —— 板谷 健司氏
なぜ、データから成果が生まれないのか。板谷氏は、その原因が**「ビジネスメタデータ」の欠如**にあると断言します。テクニカルメタデータ(テーブル定義など)やオペレーショナルメタデータ(実行ログなど)は整備されていても、そのデータがビジネス上どのような意味を持つのか、どう調理すれば価値が生まれるのかという「人の頭の中にある暗黙知」が、組織で共有されていないのです。
「冷蔵庫に新鮮な食材(データ)があっても、その食材が糖尿病の患者さんに適しているか、どのくらいの分量なら安全か、という知識(ビジネスメタデータ)がなければ、それは『活用』できません。AIという超一流のシェフがいても、同じことです」
AIが自律的に動くエージェントの時代が到来しつつある今、このビジネスメタデータの重要性は、かつてないほど高まっています。AIが賢く、そして安全に判断を下すためには、人間が持つビジネスの文脈や暗黙のルールを、AIが理解できる形で与えなければなりません。
ビジネスメタデータは、AI時代における 「守りのガバナンス(ブレーキ)」 と 「攻めのデータ活用(アクセル)」 の両輪を回す、まさに中核的な役割を担うのです。
メタデータは、経営と現場をつなぐ「共通言語」である
2つのセッションを通して浮かび上がってきたのは、メタデータという一つの概念が、経営と現場、そしてAIという、異なるレイヤーの登場人物たちを繋ぐ**「共通言語」**として機能するという、力強いメッセージでした。
眞田氏が語った「データの価値評価」は、経営層がデータ投資の意思決定を下すための言語です。そして、その評価を支えるのが、板谷氏が語った「ビジネスメタデータ」という、現場の知恵を結晶させた言語なのです。
メタデータ管理は、もはやIT部門の片隅で行われる、守りのための地味な作業ではありません。それは、企業の最も価値ある資産である「データ」と「人の知恵」を掛け合わせ、AIという新たな知性を触媒に、持続的な企業価値を創造していくための、極めて戦略的な活動です。
しかし、その実践には多くの困難が伴います。だからこそ、企業や役職の垣根を越え、実務者たちが知見を共有し、共に学ぶ「メタデータ通り」という場が必要なのです。
この日、データ横丁に開通した一本の通り。それは、データという迷宮を彷徨う私たちを、確かな価値創造の未来へと導いてくれる、希望に満ちた道となるに違いありません。
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