⚔️
JAWS-UG LTバトル イベントレポート
永遠のライバル、千葉と埼玉。その長きにわたる戦いの歴史に、新たな1ページが刻まれました。戦いの名は「JAWS-UG LTバトル」。中立地帯である目黒の地に、両県のAWSを愛する勇士たちが集結し、技術と情熱をぶつけ合いました。
2025年7月9日に開催されたこのイベントは、単なる勉強会ではありません。地域の誇りを背負い、AWSの知見を披露し合う、まさにコミュニティの祭典。事
本レポートでは、先鋒、中堅、大将と繰り広げられたLTバトルの中から、特に印象的だった激闘をピックアップ。その熱戦の記録をお届けします。
先鋒戦:戦いの序盤を制する「思想」
戦いの火蓋を切った先鋒戦。千葉支部がマルチアカウントの堅実な知見で切り込めば、対する彩の国埼玉支部は、より高い視座からの戦略を提示しました。
『ムダ遣い卒業!FinOpsで始めるAWSコスト最適化の第一歩』彩の国埼玉支部 / 深津 新太郎氏
埼玉の先鋒、深津氏が持ち出した武器は「FinOps」という思想でした。コスト最適化と聞くと、私たちエンジニアはつい「いかに安くするか」という技術的手段に目を向けがちです。しかし、彼はその本質は違うと語ります。
「コスト削減の技術は、エンジニアは大好きです。しかし、AWSが言うコスト最適化の目的は、単に安くすることではなく、ビジネス価値を最大化すること。そのために、技術、ビジネス、財務の各チームが協力するフレームワークがFinOpsです」 —— 深津 新太郎氏
AWS Well-Architected Frameworkや、CTOヴァーナー・フォーゲルスの提唱する「Frugal Architect」にも通底するこの考え方。技術的なコストとビジネスの成果をいかにして紐づけるか。その第一歩として、深津氏は「可視化」の重要性を説きます。Cost Explorerはもちろん、コスト配分タグを駆使して、どのチームが、どの機能のために、どれだけコストを使っているのかを明確にする。
技術の話に終始せず、渋沢栄一の言葉を引用しながら、ビジネスと技術を繋ぐ「思想」で戦いの口火を切った埼玉。その戦略的な一手は、このLTバトルが単なる技術自慢に終わらないことを予感させるものでした。
大将戦:レベル400の激突!クラウドネイティブの深淵
休憩を挟み、会場の熱気が最高潮に達したところで、いよいよ両軍の大将が登場。共に「レベル400」を掲げたセッションは、AWS活用の深淵を覗かせる、壮絶な技術の応酬となりました。
『mysqlコマンドを実行したいだけなのに〜AWS Step Functionsと歩んだ脱Jenkinsへの道〜』千葉支部 / 山口 孝史氏
千葉の大将、山口氏が語ったのは、多くの組織が抱えるであろう「脱Jenkins」という険しい道のりでした。その物語は、まるで往年のドキュメンタリー番組のような、情熱的なエレベーターピッチから始まります。
「たった一つの願いは、Jenkinsで動くバッチをクラウドネイティブにすること。しかし、立ち塞がる見えない制約の壁。これは、不可能を可能にしたエンジニアたちの、熱き物語である——」 —— 山口 孝史氏
彼が挑んだのは、「mysqlコマンドを定期実行する」という、一見単純なバッチ処理の移行。しかし、その裏側には、レガシーな課題をクラウドネイティブな手法で解決するための、壮絶な格闘がありました。
単純なECSタスクの定期実行は、Step FunctionsとEventBridge Schedulerでエレガントに実現。しかし、問題はmysqlコマンドの実行環境でした。EC2は立てたくない、LambdaもEOL対応が面倒。Fargateで実行するにも、接続情報をどう渡すかという壁が立ちはだかります。
「機密情報を複数持ちたくない。その一心で、接続URLをコンテナ内で分解して環境変数にセットする、という茨の道を選んでしまいました」
そこから始まったのは、DockerfileのENTRYPOINTとCMDの挙動、非ログインシェルの環境変数の仕様といった、コンテナ実行環境の深淵を巡る旅でした。トライ&エラーの末に完成したDockerfileは、PythonをインストールしてURLデコードを行い、それをシェルで分解して環境変数に書き込むという、まさに血と汗の結晶。
彼の発表は、クラウドネイティブへの道が、決して平坦ではないこと、そして、その困難な道を乗り越えた先に、Step Functionsによる美しく宣言的なワークフローという輝かしいゴールが待っていることを、私たちに教えてくれました。
『ベスプラに憧れてIAMユーザーを集約した話 -Identity Center × Jump アカウント × CDK で実現するマルチアカウントのアクセス管理-』彩の国埼玉支部 / 瀬山 政樹氏
山口氏の泥臭くも熱い戦いに対し、埼玉の大将、瀬山氏が披露したのは、マルチアカウント環境におけるアクセス管理という、広大で複雑な領域を制圧するための、洗練された統治戦略でした。
彼が憧れたのは、「IAMユーザーを廃し、IAM Identity Centerで認証を一元管理する」というAWSのベストプラクティス。しかし、現実の壁が立ちはだかります。
「外部ベンダーさんなど、どうしてもIdP(IDプロバイダ)にユーザーを作れないケースは存在する。だからといって、各アカウントにIAMユーザーが点在する状況は、セキュリティリスクそのものです」 —— 瀬山 政樹氏
このジレンマを解決するために彼が導入したのが、 「ジャンプアカウント」 という考え方でした。
IAMユーザーの作成を、「ジャンプアカウント」と呼ばれる特定のアカウントに限定する。
このジャンプアカウントではMFAを強制し、ユーザーはここから各作業アカウントへ
AssumeRole(スイッチロール)してアクセスする。
これにより、IAMユーザーの管理を一元化し、誰が・どこにアクセスするのかを集中管理できるようになります。さらに、彼はこの仕組みのプロビジョニングをAWS CDKでコード化。IAMユーザーやロールの作成・削除を、Git上でのレビューを経て、GitHub Actionsから自動でデプロイするフローを構築しました。
ベストプラクティスという「理想」と、現場の制約という「現実」。そのギャップを、 「ジャンプアカウント」という設計パターンと 「CDK」という現代的なツールで見事に埋めてみせた瀬山氏。その手腕は、まさに大将の戦いにふさわしい、戦略的な深みを感じさせるものでした。
ノーサイドの空の下で
全てのLTが終わり、勝敗を決める、運命の拍手投票。事前アンケートの劣勢を覆すべく千葉支部への温かい拍手が響きましたが、それを上回る拍手が埼玉支部にも送られ、結果は——引き分け。両者の健闘を称え合う、美しいノーサイドとなりました。
このLTバトルが私たちに見せてくれたのは、どちらが優れているか、という単純な結論ではありませんでした。
ビジネス価値からコストを考えるFinOpsの戦略(埼玉・深津氏)。Amplify Gen2とOpenSearchで作るモダンな検索基盤(千葉・小巻氏)。好奇心から始まるデータ処理の冒険(埼玉・作花氏)。そして、大将戦で見せつけられた、レガシー移行のリアルな格闘(千葉・山口氏)と、マルチアカウント統治の洗練された戦略(埼玉・瀬山氏)。
そこにあったのは、AWSという広大なフィールドで、日々発生する多様な課題に対し、それぞれのSREが知恵と情熱を注ぎ込み、最適解を模索する姿でした。その姿こそが、JAWS-UGというコミュニティの価値そのものです。
千葉は概念であり、埼玉は彩の国。呼び名は違えど、AWSを愛し、技術を楽しむ心は同じ。ノーサイドの空の下、互いの健闘を称え合う彼らの姿に、コミュニティの持つ温かさと、明日への活力を感じた素晴らしい一夜でした。
Yardでは、AI・テック領域に特化したスポットコンサル サービスを提供しています。
興味がある方は、初回の無料スポットコンサルをお申し込みください。
また、資料請求やお問い合わせもお待ちしております。テック領域の知見を獲得し、事業成長を一緒に実現していきましょう。
Read next
Loading recommendations...
