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JAWS-UG東京 Strands Agents Meetup イベントレポート
2025年7月23日、JAWS-UG東京が開催したランチタイムミートアップは、そんな衝撃的なキャッチフレーズと共に幕を開けました。主役は、AWSが公開したオープンソースのAIエージェント開発フレームワーク 「Strands Agents」 。
AIエージェント開発の世界は、LangChainやLlamaIndexをはじめ、数多くのフレームワークが覇を競う群雄割拠の時代。その中で、後発とも言えるStrandsは、一体どのような価値を私たちに提供してくれるのでしょうか。
この日集った開拓者たちがデモと共に語ったのは、Strandsが持つ 「圧倒的なシンプルさ」 と、それゆえに可能になる 「AIオーケストレーション」 という新たな開発スタイルでした。本レポートでは、その核心に迫ります。
Strands Agentsとは何か? AWSが示す「知的な接着剤」
イベント冒頭、運営のみのるん氏による解説で、Strandsの立ち位置が明確に示されました。AWSには、GUIでエージェントを構築する「Bedrock Agents」や、デプロイ基盤としての「Bedrock Agent Core」が存在します。その中でStrandsが担うのは、Pythonコードで柔軟にエージェントを開発するための「フレームワーク」 です。
その最大の特徴は、**「モデル駆動アプローチ」**にあります。開発者は複雑な制御ロジック(Agentic Loop)を記述する必要がありません。代わりに、エージェントに「武器」として与えるツール群と、思考の指針となるプロンプトを定義するだけ。あとは、BedrockのClaude 3のような高性能モデルが、自律的に思考し、ツールを使いこなし、タスクを遂行してくれます。
「Strandsの思想は、開発者に『コンテキストエンジニアリング』、つまり、AIに与えるツールやプロンプトの開発に集中してもらうことです。これにより、驚くほどシンプルにエージェントを構築できます」 —— みのるん氏(運営)
この思想は、AWS自身の本番サービス、例えば「Amazon Q Developer」の開発にも使われているというから驚きです。Strandsは、AWSが考えるエージェント開発の「ベストプラクティス」を体現したフレームワークなのです。
『手動からの解放!!Strands Agentsで実現する総合テスト自動化』
NRIネットコム株式会社 / 井手 亮太氏
Strandsのシンプルさが、いかに現場のペイン(痛み)を解決するか。その見事な実例を、社会人2年目の井手氏が示してくれました。彼が挑んだのは、多くのエンジニアが一度は経験するであろう、手動での「総合テスト」という、時間と手間のかかる作業です。
「新システムの導入時、AWSのマネジメントコンソールを開き、ひたすらスクリーンショットを撮ってエビデンスを残す作業を経験しました。時間がかかり、人的ミスも起きやすい。これをどうにか自動化できないかと考えました」 —— 井手 亮太氏
井手氏が構築したのは、テストケースを記述したローカルファイルを読み込み、一連のテストを自動で実行・報告するAIエージェントです。その裏側では、Strandsの組み込みツールが見事にオーケストレーションされていました。
FileReadツール: テストケースファイルを読み込む。Shellツール: AWS CLIを実行し、EventBridgeの実行履歴などを調査。Lambda MCPサーバー: 独自に実装したLambdaを呼び出し、メトリクスグラフの画像を生成させ、S3に保存。
FileWriteツール: 実行結果やエビデンスのパスをファイルに書き出す。Editorツール: 最終的なテスト結果(OK/NG)をテストケースファイルに追記。
彼の発表が示したのは、Strandsが決してAI専門家だけのものではなく、インフラエンジニアが日々の運用業務を自動化するための強力な武器にもなりうるという事実です。自分が抱える課題を解決するために、使い慣れたAWS CLIやLambdaを「ツール」としてエージェントに与え、面倒な手作業から自らを解放する。これぞ、AIエージェント開発の最も実用的で、価値ある第一歩と言えるでしょう。
『Strands Agentsで実現する名刺解析アーキテクチャ: Upstage × CSE × Pinecone』
株式会社Fusic / 大宮 佑仁氏
Strandsが個別のツールを組み合わせるだけでなく、より高度で複合的なサービスを束ねる 「知的な接着剤」 として機能することを証明したのが、Fusicの大宮氏によるセッションでした。元陸上自衛官という異色の経歴を持つ彼が開発したのは、イベントのブースで来場者の名刺を解析し、その場で最適な情報を提供するアプリケーションです。
そのアーキテクチャは、まさにAIオーケストレーションのお手本でした。
名刺画像の読み取り: OCR(光学的文字認識)に特化したUpstage社のAIモデルで、名刺から氏名や会社名を抽出。
人物・企業のWeb検索: 抽出した情報を基に、Google Custom Search Engine (CSE) を用いて、ノイズの少ないWeb検索を実行。
関連社内事例の検索: 検索結果から得られた情報を基に、ベクトルデータベースPineconeに格納された社内の開発事例から、意味的に関連性の高いものを検索。
これらの専門的なツール群を、Strands Agentsで開発したカスタムツールとして定義し、一連のワークフローとして繋ぎ合わせています。
「Strandsを、各ツールを柔軟につなぎ合わせる『接着剤』のように活用できました。これが個人的にすごく良いところだと感じています」 —— 大宮 佑仁氏
この「接着剤」という比喩は、イベントのクロージングで、みのるん氏が明かした「Strands」という名前の由来(DNAの螺旋構造や、君の名は。の組紐のように、モデルとツールを編み込むという意)と見事に重なります。
Strandsの真価は、それ自身が万能であることではなく、それぞれの領域で最高性能を誇る専門家(ツールやモデル)たちを、知的かつ柔軟に束ね上げるオーケストレーターとしての能力にあるのです。
「編み込む」思想が、開発者を解放する
わずか1時間のランチタイムに凝縮された、濃密なミートアップ。そこから見えてきたのは、AWSがStrands Agentsに込めた、明確な設計思想でした。
それは、開発者を複雑なエージェントの制御ロジックから解放し、彼らが最も価値を発揮できる領域、すなわち「良質なツールを作り、適切なコンテキストを与えること」に集中させるという思想です。
面倒なテストを自動化するエージェント(井手氏)。複数のAIサービスを束ねて新たな価値を創造するエージェント(大宮氏)。彼らは、Strandsというシンプルなキャンバスの上に、自らの知識とアイデアを描き出すことで、それぞれの課題を解決しました。
AIエージェント開発は、もはや一部の専門家だけのものではありません。3行のコードから始められるこのフレームワークは、全てのPython開発者に「AIオーケストレーター」への扉を開きます。あなたのその手で、日常の面倒な作業や、温めてきた独創的なアイデアを、賢いエージェントとして編み上げてみてはいかがでしょうか。
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