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Developers Night Cafe ~第10回 「MS × Java」 イベントレポート
2025年7月17日に開催された「Developers Night Cafe」。この夜、Microsoftの寺田佳央氏と石田真彩氏が語り始めたのは、多くの開発者が一度は抱くであろう、この素朴な疑問への答えでした。それは、Javaが歩んできた30年という壮大な歴史と、巨大テック企業Microsoftのオープンソース戦略が交差する、知的好奇心に満ちた物語の始まりでもありました。
C#/.NETという強力なエコシステムを持つMicrosoftが、なぜ競合とも言えるJavaに多大な投資と情熱を注ぐのか。その謎を解き明かす鍵は、単なるビジネス戦略に留まらない、技術とコミュニティへの深いリスペクトにありました。
Java 30周年、僕らが知らないデュークの物語
セッションは、寺田氏によるJavaの30年の歴史を振り返る旅から始まりました。1995年、「Write once, run anywhere(一度書けば、どこでも動く)」という革新的なコンセプトと共に産声を上げたJava。その傍らには、常にマスコットキャラクター「デューク」の姿がありました。
「多くの方がJavaのマスコットだと思っていますが、実はデュークは、Javaが生まれる前のPDA(携帯情報端末)向け言語『Oak』の、操作用キャラクターとして誕生したんです。Javaより先に、デュークは存在していたんですよ」 —— 寺田 佳央氏
インターネットの黎明期と共に、組み込みデバイスからエンタープライズ、車、Javaカードに至るまで、世界のあらゆる場所で動く言語へと成長したJava。しかし、その道のりは平坦ではありませんでした。開発元であったサン・マイクロシステムズの経営停滞期には、Javaへの投資が減少した時期もあったと言います。
2010年のオラクルによる買収を経て、Javaは再び力強く進化を始めます。そして、多くの開発者の記憶が止まっているかもしれない「Java 8」から10年。今やJavaは半年に一度のリリースサイクルを確立し、バージョンは「25」を数えるに至りました。この驚異的な進化の裏側には、Javaという言語が持つ、オープンで民主的な開発プロセスがありました。
Javaは誰が作るのか? JCP、JSR、JEPという民主主義
「新しい機能は、誰がどうやって決めているの?」——この問いに答えるため、両氏はJavaの仕様策定プロセスの核心に迫りました。
JCP (Java Community Process): Javaの仕様を標準化するためのプロセスを管理する団体。驚くべきことに、この仕様承認の投票権を持つエグゼクティブ・コミッティには、オラクルやIBMといった巨大企業と並んで、Microsoft、そして日本の**日本Javaユーザーグループ(JJUG)**も名を連ねています。
JSR (Java Specification Request): 「Java SE 25」といった、各バージョンや機能仕様の正式な定義書。参照実装とテストキットがセットで提出されることが義務付けられており、品質を担保しています。
JEP (JDK Enhancement Proposal): JSRよりも手前の段階で、新しい機能の提案や実験が行われる場。OpenJDKのサイトで誰もがその議論を追うことができ、Javaの未来を垣間見ることができます。
「JCPのミーティングはパブリックに公開されていて、誰でもメンバーになれます。今これを見ているあなたも、Javaの仕様策定に参加できるんですよ」 —— 石田 真彩氏
この話から見えてきたのは、Javaがもはや特定の企業のものではなく、**世界中の開発者コミュニティによって支えられ、進化を続ける「公共財」**であるという事実です。そしてMicrosoftは、この民主的なエコシステムに、一人の責任あるメンバーとして深くコミットしているのです。
Microsoftの貢献:それは「愛」か、それとも「責任」か
では、Microsoftは具体的にJavaにどう貢献しているのでしょうか。寺田氏が語ったその内容は、多くの参加者の「Microsoft観」を覆すものでした。
「Microsoftには、世界で12名の『Java Champion』が在籍しています。これは一つの企業としては非常に多い。VMレベルからツール、AIライブラリまで、グローバルで数多くのエンジニアがJavaの開発に携わっています」 —— 寺田 佳央氏
その貢献は、多岐にわたります。
Microsoft Build of OpenJDK: Microsoftがビルドし、サポートするOpenJDKディストリビューション。Azure上でJavaを動かす際の標準となり、Azureのサポートポータルから直接OpenJDK自体の問題について問い合わせることも可能です。
コミュニティへの貢献: Jakarta EEやMicroProfileといった重要な標準化団体へ主要メンバーとして参画。
技術的貢献: Appleシリコン(M1/M2)向けのOpenJDKポートに大きく貢献したのも、実はMicrosoftでした。
AIライブラリへの貢献: 今をときめく「LangChain4j」に対しても、パフォーマンスチューニングやセキュリティ修正のプルリクエストを数多く送り、その品質向上に貢献しています。
なぜ、ここまでやるのか。それは、**「Javaの開発者が非常に多く、Microsoftの顧客でもあるから」そして「Microsoft自身も、社内で数多くのJavaツールを使っているから」**というビジネス上の理由だけではありません。クラウドプラットフォーマーとして、オープンソースエコシステム全体の健全性とセキュリティに責任を持つという、強い意志の表れでもあるのです。
コマンド一発でデプロイ完了! AzureがJava開発者にもたらす体験
セッションの最後には、こうしたMicrosoftの貢献が、私たち開発者の日常をどう変えるのか、具体的なデモが示されました。
紹介されたのは、Azure Container AppsにJavaアプリケーションをデプロイするためのAzure CLIコマンドです。
az containerapp up --artifact ./target/frontend-service.jar --ingress external --target-port 8080驚くべきは、このコマンドがローカルにある.jarファイルを直接指定するだけで、内部的にコンテナイメージのビルド、コンテナレジストリへのプッシュ、そしてデプロイまでを全自動で行ってくれる点です。
「通常コンテナを動かすにはイメージを作らないといけないですが、これはしなくていい。コマンド一発で、いきなりデプロイまでしてくれます」 —— 寺田 佳央氏
Dockerfileを書く必要も、プライベートなコンテナレジストリを用意する必要もない(本番用には推奨)。ちょっとしたアイデアをすぐに試したい時、この手軽さは絶大な威力を発揮します。これは、MicrosoftがJava開発者のペイン(痛み)を深く理解し、その体験を向上させるために本気で投資していることの、何よりの証拠と言えるでしょう。
オープンソースという名のカフェで
「Developers Night Cafe」というイベント名にふさわしく、この夜の対話は、まるで居心地の良いカフェで交わされる、示唆に富んだ会話のようでした。
「Microsoft loves Java」——この言葉は、もはや単なるマーケティングスローガンではありません。それは、巨大なソフトウェア企業が、オープンソースという共通の言語を通じて、世界中の開発者コミュニティと対話し、共に未来を築こうとする姿勢そのものを表しています。
30年という長い歴史を持ちながら、今なお進化を続けるJavaの生命力。そして、その進化を支える一員として、自らの役割を果たそうとするMicrosoftの真摯な姿。
私たちが当たり前のように享受しているオープンソースの世界が、決して当たり前ではなく、こうした企業やコミュニティの地道な貢献の上に成り立っていることを、改めて実感させられる一夜でした。JavaとMicrosoft、この二つの巨人が手を取り合うことで、私たちの開発体験は、これからさらに豊かになっていくに違いありません。
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