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Devin Meetup Japan #2 イベントレポート
自律型AIエンジニア「Devin」の登場は、私たちの開発スタイルに革命をもたらしつつあります。しかし、その革命の本当の姿は、華々しいデモの向こう側、日々の開発現場での泥臭い試行錯誤の中にこそ隠されています。
2025年6月17日に開催された「Devin Meetup Japan #2」。この日、会場に集った開拓者たちが語ったのは、Devinを単なる「ツール」としてではなく、一人の「チームメイト」として迎え入れた時の、リアルな喜び、戸惑い、そして未来への確信でした。
本レポートでは、この日繰り広げられた数々のセッションの中から、特にDevinとの新たな関係性を鮮やかに描き出した4つの物語を厳選。彼らの言葉から、私たちがこれから向き合う「AIとの共存」のリアルな姿を紐解いていきます。
『Devin観察日記』
Daiki Teramoto氏
「Devinにどこまで任せられるのか?」——その答えを探るため、寺本氏が選んだのは、コードを書かせることだけではありませんでした。彼が始めたのは、まるで新人のチームメイトと接するかのような、ユーモアと好奇心に満ちた「観察日記」です。
「開発の話をされることが多いと思うんですけど、実はDevin、いろんなことができます。飲み屋のQRコードから注文したり、動画を作ってYouTubeにアップしたり…」 —— Daiki Teramoto氏
彼のLTは、Devinの常識を覆す実験の連続でした。
飲み会での注文:居酒屋のQRコードを読み込ませ、注文を依頼。見事、AIが注文した料理がテーブルに届く。しかし別の機会には、会計ボタンを押してしまい、その場の注文を強制終了させるという「失敗」も。
Uber Eatsでのランチ注文:お昼ご飯の注文を任せると、なぜか牛丼が2つ届く。指示の曖昧さが招いた、微笑ましいコミュニケーションエラーです。
YouTuberデビュー:動画の企画、作成、アップロードまでをDevinに一任。AIが自ら作り上げた、少し不思議なYouTubeチャンネルが誕生しました。
寺本氏の試みは、Devinを単なる作業実行者としてではなく、一人の個性あるエージェントとして捉え、その能力の限界と可能性を探るという、新しい付き合い方を示唆しています。私たちはAIに仕事を「させる」だけでなく、共に「試し」、共に「失敗」し、その特性を学んでいく。そのプロセスの中にこそ、真の協働のヒントが隠されているのかもしれません。
『Cognition AI 現地レポート』
Kinopee氏
Devinは、一体どんな環境で生まれているのか。その謎に包まれた開発の「聖地」、Cognition AI本社を訪れたKinopee氏が、貴重な現地レポートを届けてくれました。
そこで彼が見たのは、私たちが想像するようなスマートなオフィスではありませんでした。
「天才と秀才がわーっと集まって、寝食を共にしている。朝起きたら仕事始めて、眠くなったら寝る。そんな生活で、Devinの開発に没頭しているんです」 —— Kinopee氏
世界を変えるプロダクトが、住み込みで開発に没頭する若き天才たちの、圧倒的な熱量の中から生まれているという事実。それは、AIの冷徹なイメージとは裏腹の、極めて人間的な物語でした。
そして、CEOのスコット・ウー氏から明かされた、日本市場への強いコミットメント。
「日本は、国別の顧客ランキングでアメリカに次ぐ第2位ですよ」
この事実は、会場に大きな驚きと興奮をもたらしました。さらに、スコット氏からKinopee氏に投げかけられた「Devinを日本で広めるには、日本語化は必要か?」という問い。会場の大多数が「必要だ」と手を挙げた光景は、日本のユーザーの声を開発元に届ける、コミュニティの力を象徴する一幕でした。Devinの未来は、遠いシリコンバレーだけでなく、私たちのフィードバックによっても形作られていくのです。
『Devinエンタープライズ導入記 〜直面した運用管理の課題と乗り越え方〜』
AI inside / 大西氏
Devinという優秀な「新人」を、エンタープライズという規律ある組織に迎え入れるには、何が必要か。AI insideの大西氏は、その導入プロセスで直面した、運用管理のリアルな課題と、それを乗り越えるための処方箋を共有しました。
「便利なサービスというだけでは、企業は導入してくれない。アカウント運用、ログの監視、データの扱い、コンプライアンス…。AIというブラックボックスに向き合うには、慎重な検討が必要です」 —— AI inside 大西氏
大西氏は、チームプランで運用した際に露呈した深刻なリスクを指摘します。それは、「社外の第三者が、自社のソースコードを閲覧・操作できてしまう」 というシナリオです。メンバーであれば誰でも外部のメールアドレスを招待でき、その招待者がアクセス権のないリポジトリまで操作できてしまう。これは、多くの企業にとって許容できないリスクです。
この課題を解決したのが、SSO(シングルサインオン)と監査ログAPIを備えたエンタープライズプランでした。
SSO:許可されたドメインのユーザーしかログインできなくなり、不正な招待をブロック。
監査ログ:誰がどのような操作をしたかを追跡可能にし、ガバナンスを確保。
彼の発表は、Devinの導入が単なる技術的な問題ではなく、人事やセキュリティの観点を含めた、組織的な意思決定であることを明確に示しました。新しいAIチームメイトを迎えるには、その能力を最大限に引き出しつつ、リスクを管理するための「受け入れ体制」を、私たち人間が構築する必要があるのです。
『Platform × Devin ~ Devinによる半セルフサービス化 ~』
株式会社MonotaRO / 岡田氏
Devinを、単発のタスク実行者としてではなく、より大きな仕組みの一部として組み込む。モノタロウの岡田氏は、プラットフォームエンジニアリングの文脈でDevinを活用し、開発者向けの「半セルフサービス化」 を実現した事例を紹介しました。
モノタロウでは、10以上のKubernetesクラスタをマルチクラウドで運用しており、そのマニフェスト管理は非常に複雑です。開発者が新しいサービスを立ち上げる際、これらの設定を手動で行うのは大きな負担でした。
そこで岡田氏のチームが構築したのが、以下のワークフローです。
開発者は、社内CLIから必要な情報を入力。
CLIがGitHub Actionsをトリガー。
GitHub Actionsが、DevinのAPIを「Playbook(指示書)」と共に呼び出す。
DevinがPlaybookに従い、TerraformやKubernetesのマニフェストを記述したプルリクエストを自動で作成。
「実装コストはかなり低く、とても楽に作ることができた。Playbookである程度、方向性が正しいプルリクエストができるようになったのが大きい」 —— 株式会社MonotaRO 岡田氏
この仕組みの優れた点は、Devinを複雑なインフラ作業を代行してくれるバックエンドエンジンとして活用していることです。開発者はDevinの存在を意識することなく、使い慣れたCLIを通じてセルフサービスで環境を構築できる。これは、Devinを組織の「仕組み」に統合し、スケールさせるための、非常に洗練されたアプローチと言えるでしょう。
Devinさんは「同僚」でした
今回のミートアップを通じて見えてきたのは、Devinがもはや単一のペルソナでは語れない、多面的な存在になっているという事実です。
ある時は、好奇心の対象となる少しおっちょこちょいな「新人」(寺本氏)。 またある時は、私たちのフィードバックを求める、海の向こうの「開発チーム」(Kinopee氏)。 そして、厳格なルールと権限管理が必要な、責任ある「中途社員」(大西氏)。 時には、黙々と定型作業をこなしてくれる、頼れる「システムコンポーネント」(岡田氏)。
私たちが向き合っているのは、魔法の杖ではありません。それぞれが得意なこと、苦手なことを持ち、時には失敗もし、日々のフィードバックを通じて成長していく、新しい形の「同僚」 です。
私たちの役割は、もはやコードを書くことだけではないのかもしれません。この新しい同僚の能力を理解し、適切なタスクを割り振り、働きやすい環境を整え、その成長を導いていく。そんな「AIチームマネジメント」とも呼べるような、新たなスキルセットが求められる時代が、もう始まっています。
この変化を恐れるのか、それとも楽しむのか。会場の熱気は、間違いなく後者でした。刺激と未来への希望に満ちた、素晴らしい一夜でした。
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