🤖
各社の事例から学ぶ!AIコーディングエージェント活用の現在地 イベントレポート
2025年7月14日に開催されたイベント「各社の事例から学ぶ!AIコーディングエージェント活用の現在地」。AIがコーディングの世界を席巻する今、開発現場の最前線では一体何が起きているのでしょうか。本記事では、その熱気と知見に満ちたイベントの様子を、臨場感たっぷりにお届けします。
DeNA、エクスプラザ、SmartHR、SODAという、業界をリードする4社の精鋭たちが語った「AIとのリアルな協働」。ツールの選定、組織への浸透、そして未来の展望まで、開発の現場にいるからこそ語れる、生々しくも希望に満ちたストーリーがここにあります。
オープニング:AI駆動開発の夜明け
イベントは、AIコーディングエージェントがもはや単なる「便利なツール」ではなく、開発プロセスそのものを再定義する「パートナー」へと進化しつつある現状を共有することから始まりました。参加者の期待感が会場を満たす中、いよいよ各社のセッションが幕を開けます。
小さなコミュニティから始める大きな変革 - DeNA PocochaでのAI駆動開発推進体制と実践
トップバッターは、株式会社ディー・エヌ・エーの松田 悠吾さん。ライブコミュニティアプリ「Pococha」という大規模サービスを舞台に、いかにしてAI駆動開発を組織に根付かせていったのか、そのリアルな道のりが語られました。
アジャイルの次に来るもの
Pocochaでは、アジャイル開発やScaled Agile Framework (SAFe) の導入など、これまでも開発プロセスの改善を積極的に進めてきました。その延長線上にあるのが、今回の「AI駆動開発」への挑戦です。ユーザー価値を最大化するための高速な仮説検証。そのサイクルをさらに加速させる切り札として、AIに大きな可能性を見出したと言います。
導入の鍵は「トップダウン」と「ボトムアップ」の両立
松田さんが強調したのは、推進体制の巧みさです。経営層からの「AIにオールインする」という強力な後押し(トップダウン)を受けつつ、現場では技術領域ごとの「テックチーム」や、AIに関心を持つメンバーによる「コミュニティ・オブ・プラクティス(COP)」といった小さな単位での自律的な活動(ボトムアップ)を尊重しました。
特に印象的だったのは、「小さなコミュニティ」の力です。心理的安全性の高い場で生まれた成功事例や知見を、ワークショップなどを通じて組織全体に横展開していく。この「お互いの知見をパクりやすい環境」こそが、抵抗感を最小限に抑え、変化を浸透させる原動力になったのです。
Q&Aハイライト
効果測定の難しさについて: 当初見積もった工数と、AI活用後の実績工数を比較することで効果を示したとのこと。完璧な定量評価に固執するより、まずは「走りながら効果を示し、仲間を増やしていく」というアプローチが、導入初期には有効であるという示唆に富んだ回答でした。
どの工程から始めるべきか: まずは設計、実装、テストコード生成といった「即効性のある部分」から着手し、成功体験を積むことが重要。その上で、PRD(製品要求仕様書)のレビューなど、より上流のプロセスに展開していくことで、組織全体の生産性向上に繋がると語られました。
個のパフォーマンスを上げるためのAIを使った開発手法
続いて登壇したのは、株式会社エクスプラザのCTO、mkazutaka(松本 和高)さん。「個」のパフォーマンスを最大化するという視点から、AIとの向き合い方について、鋭い考察が披露されました。
人間がボトルネックになる未来
松本さんは、AIエージェントとの対話(インタラクション)こそが、今後の開発におけるボトルネックになると指摘します。AIが進化すればするほど、人間の指示待ち時間が増えてしまう。この課題を解決するために「いかにインタラクションの数を減らすか」が重要になると語りました。
クロードコード(Claude Code)を使いこなす3つの秘訣
そのための具体的な手法として、現在社内の主流であるという「Claude Code」を例に、3つのポイントが紹介されました。
なるべく長く考えさせる: 「しっかり考えて」といったプロンプトや、思考トークンを最大化する設定を活用し、AIに十分な思考時間を与えることで、アウトプットの精度を高める。
定常タスクを忘れずに実行させる: フォーマットやリントのチェック、Gitへのコミットといった一連のタスクを、ルール(
claude.md)に組み込むことで、指示なくともAIが自律的に実行する仕組みを作る。特に「ルールの最初に、最も重要なルールを表示させる」というテクニックは、AIに自己認識を促す上で非常に効果的だそうです。質の良いコードを書かせる(割れ窓理論): 品質の低いコードをベースに修正を依頼しても、良い結果は生まれない。TDD(テスト駆動開発)のような手法を取り入れ、初めから質の高いコードを目指すことの重要性が語られました。
Q&Aハイライト
「なるべく考えて」が効くパターンは?: UI実装のように視覚的な要素が強いものは効果が出にくく、逆にTDDのようにロジカルなプロセスが明確なものは効果が出やすい傾向にあるとのこと。AIの得意・不得意を見極めることの重要性が伺えました。
AI開発の再現性を高めるためのコンテキストエンジニアリング実践事例
3番手は、株式会社SmartHRのyakiimo23(松永 雅文)さん。10年以上の歴史を持つ巨大なプロダクトを相手に、いかにしてAI開発の「再現性」を高めるか。そのための武器が「コンテキストエンジニアリング」です。
複雑なプロダクトに立ち向かう
SmartHRのプロダクトは、20万以上のファイル、170万行以上のコード、そして「バイテンポラルデータモデル」という特殊な履歴管理など、非常に複雑な構造を持っています。このような環境でAIに期待通りの働きをしてもらうには、AIに与える「コンテキスト(文脈)」をいかに制御するかが鍵となります。
「ルール」と「ワークフロー」によるコンテキスト制御
松永さんのチームでは、この課題に対して2つのアプローチで挑みました。
ルールの整備: プロジェクト全体のルールに加え、フロントエンドとバックエンド、さらにはディレクトリ単位で適用範囲を絞った細かいルールを設定。これにより、AIに与えるコンテキストを適切にコントロールします。ただし、ルールを重厚にしすぎると形骸化するため、「薄く、しかし的確に」記述するのがポイントだそうです。
ワークフローの作成: チケットの分析、実装計画の立案、コードレビューといった定型タスクを「ワークフロー」としてテンプレート化。これにより、プロンプトの個人差をなくし、誰が実行しても一定の品質を担保できるようにしました。リクエスト数の節約にも繋がり、一石二鳥の効果があったと言います。
Q&Aハイライト
ドキュメントの整備について: AIに渡しやすい形式として、基本的にはマークダウンで統一しているとのこと。AIとの協働を前提としたドキュメント文化の重要性が示唆されました。
全部AI、全員Cursor、ドキュメント駆動開発 〜DevinやGeminiも添えて〜
最後の登壇者は、株式会社SODAの林 雅也さん。「スニーカーダンク」という急成長サービスを支える開発組織が、いかにしてAIをフル活用し、「開発の民主化」へと突き進んでいるのか。その壮大なビジョンが語られました。
AI時代でも変わらない「価値あるチーム」の姿
林さんはまず、AI時代でも「You build it, you run it」の精神や、職能横断なチームの重要性は変わらないと説きます。アイデアが顧客に届くまでの全ての流れ(バリューストリーム)に責任を持つチームこそが、価値を生み出す源泉であるという考え方です。
AIが「職能横断」の壁を壊す
一方で、AIがもたらした最大の変化は、「職能横断のハードルを一気に下げたこと」だと語ります。これまでエンジニアの専門領域だったコーディングを、PDM(プロダクトマネージャー)やCS(カスタマーサポート)が担う。SODAでは、それがすでに現実のものとなっています。
開発の民主化プロジェクト
その象徴的な取り組みが「開発の民主化プロジェクト」です。
CSがGeminiでPRDを作成: 専門知識がないCS担当者でも、対話形式でPRDを作成できる「Gem(Geminiのプロンプトテンプレート機能)」を用意。
SlackからDevinに開発を依頼: 作成されたPRD(GitHub Issue)を、Slack経由で開発エージェントDevinに渡し、実装を依頼。
エンジニアがレビューし、リリース: Devinが生成したプルリクエストをエンジニアがレビューし、本番環境へ。
このフローにより、これまで優先度が下がりがちだった社内ツールの改善などが、CS主導で次々と実現しているという事実は、参加者に大きな衝撃を与えました。
Q&Aハイライト
複数ツールの使い分けとコスト管理: 全社で一斉導入するのではなく、まずは数名で検証し、効果が見えたものから展開。コストもチームごとに予算を設け、柔軟に管理しているとのこと。地に足のついた導入戦略が印象的でした。
AIとの協働、その先の未来へ
4社の事例から見えてきたのは、驚くほど多様でありながら、共通の目的地を目指す現代の開発組織の姿でした。
AIを「魔法の杖」ではなく「信頼できるパートナー」として捉え、いかにして彼らが働きやすい環境を整えるか。そのために、私たちは「コンテキスト」を設計し、「ルール」を教え、「ワークフロー」で導く。それはまるで、新しいチームメンバーを迎えるプロセスそのものです。
そして、AIという強力なパートナーを得た私たちは、「個」の能力を拡張し、「チーム」の壁を越え、ついには「組織」のあり方すら変えようとしています。CSが当たり前のように開発タスクを起票し、AIがそれを実装する。そんな「開発の民主化」がすぐそこまで来ていることを、今回のイベントは強く感じさせてくれました。
Yardでは、AI・テック領域に特化したスポットコンサル サービスを提供しています。
興味がある方は、初回の無料スポットコンサルをお申し込みください。
また、資料請求やお問い合わせもお待ちしております。テック領域の知見を獲得し、事業成長を一緒に実現していきましょう。
Read next
Loading recommendations...
