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AI時代の「良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門」「ドメイン駆動設計をはじめよう」- FL#100 イベントレポート
Forkwell Library が通算100回目の開催を迎えた 7 月 10 日。 記念回にふさわしく取り上げられたのは
『改訂新版 良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』(著:ミノ駆動さん)
『ドメイン駆動設計をはじめよう』(訳:増田 亨さん)
という “設計のバイブル” とも言える二冊でした。 生成 AI が行動を書き上げる時代に、設計を学ぶ意味はどこに残るのか。 著者・訳者ご本人が語ったエッセンスと、会場を沸かせた質疑応答をまとめます。
セッション① 増田 亨さん
「AI 時代の『ドメイン駆動設計をはじめよう』」
AI 技術と設計者の力量の差
同じモデルを使っても、設計経験の豊かな人ほどアウトプットの品質が高くなる。
逆に言えば、AI が強力になるほど設計スキルの有無が露骨に表れる。
書籍の狙い
事業活動とソフトウェアを“同じ速度”で育てるための手引き書。
特に “差別化に直結する中核ドメイン” へ投資し、周縁は敢えて簡略化せよ、というメリハリを強調。
三つの基礎スキル
複雑さの分解:モジュール化/関心の分離。
事業戦略の理解:コードを書く前に戦略を読み解く眼。
学習と適応:変化を前提にした設計サイクル。
「AI が書いた大量のコードを、“設計を学んでいない人” が評価も整理も出来ないまま抱え込めば、大きな泥団子を量産するだけになる」 — 増田 亨 氏
セッション② ミノ駆動さん
「AI 時代の『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』」
改訂新版での大刷新
“凝集度/結合度” の呪縛から脱却し、カプセル化と関心の分離を主軸へ。
インターフェース設計、命名と認知バイアス、アウトプット学習法などを大幅強化。
生成 AI と設計品質
雑なプロンプトでは「負債分析もリファクタリングも 1〜2 割しか当たらない」。
キーワード汚染(例:リファクタリング → 指示待ち責務)が誤誘導を引き起こす。
プロンプト工学で品質を制御する
独自エージェント “Bug Searcher” を紹介。
理想的な構造を事前に定義し「違反を負債と見なせ」と AI に教えることで、専門家並みの解析を 10 倍速で実現。
テストコード生成も 契約による設計 をプロンプトに組み込むと抜け漏れが激減。
「AI は暴れ馬。手綱になるのは設計原則への深い理解だけです」 — ミノ駆動 氏
パネルトーク:知識の源泉を探る
モデレーター赤川さんが「20 代・30 代・40 代で読んだ本」を軸に深掘り。 二人が共通して語ったのは “地図になる本” を持つ重要性でした。
フェーズ | 増田さん | ミノ駆動さん |
|---|---|---|
20 代 | 『プログラミング言語 C』で基礎固め | ビジネス書で“伝える力”を磨き、道場指導で噛み砕きスキルを体得 |
30 代 | 『UNIX Network Programming』『Oracle System Design』で実践領域を拡張 | 炎上プロジェクトでリファクタリングに開眼。ファウラー本と増田さんの資料が師匠 |
40 代〜 | 『リファクタリング』『Implementation Patterns』で知見を言語化 | 認知科学・哲学から“観察” を学び、タスク分解とモデリングに応用 |
両氏とも 「暗黙知を言葉にして初めて共有できる」 という点で一致。 “観察 → 言語化 → 実装” の三段跳びが、次世代へ知を継ぐ鍵と語りました。
Q&A ピックアップ
Q. AI 導入後、コード量は増えたが品質が上がらない。どうすれば?
ミノ駆動氏:理想構造を包括したプロンプトで“品質を先に定義”し、その違反を AI に検出させる。
増田氏:テストは悪を暴くが善を生まない。品質を本当に上げたいなら設計レベルを上げるしかない。
Q. 設計学習の近道は?
増田氏:地図になる本を選べ。目次を徹底的に読み込み、未知領域を可視化してから実装で確かめる。
ミノ駆動氏:読んで終わりではなく、必ず“コードを書く→振り返る”をセットにすること。
AI 時代に設計を学ぶ意味
判断軸を持つ者だけが AI を制御できる
複雑さは依然として人間の前に立ちはだかる
設計を言語化できる人材が組織の知識ハブになる
生成 AI によって「実装」は民主化された一方、 “何を作るか、どこを守るか” を決める設計力の価値はむしろ凸凹が際立つ時代へ。 今日の議論はその帰結を鮮やかに示していました。
まとめとあとがき ― 設計は灯台である
100 回目の Forkwell Library は、偶然にも「コードを書く AI」と「設計を学ぶ人間」が同じ舞台に立った回となりました。 AI をただの自動化ツールにとどめず、組織の競争優位を築くパートナーへと昇華できるか――鍵を握るのは、やはり設計でした。
泥団子か、灯台か。 二冊の本が示す普遍的な原則と、登壇者が実践で磨いた知恵は、AI 時代の羅針盤として強く心に残ります。
設計を学ぶとは「目の前の複雑さに、まず名前を与える行為」だと感じます。 名前が付けば観察が始まり、観察が言語化を促し、言語がチームを動かします。 AI がコードを量産しても、名前を付ける作業だけは人間の創造力に依存する―― そんな当たり前を再確認できた、濃密な 90 分でした。
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