⤴️
チームのテスト力を総合的に鍛えてソフトウェア開発の高品質と高スピードを両立させる実践技法 イベントレポート
「品質か、スピードか」──これまで何度となく繰り返されてきた二項対立に、近年 レジリエンス が加わりました。障害発生時の復旧力・適応力を含めてこそ本当の顧客価値が守られるという考え方です。 登壇したのは『ソフトウェアテスト徹底指南書』著者であり、現在トヨタ自動車で QA/テスト テックリードを務める 井芹洋輝さん。豊富な現場経験を背景に、品質・スピード・レジリエンスを トレードオン で高める方法論を解説しました。
2. 基調講演ダイジェスト
2‑1 いまテストに求められる三つの総合力
品質 – 欠陥を減らし、期待通りに動くこと
スピード – 変更リードタイムとデプロイ頻度の短縮
レジリエンス – 障害復旧時間を最小化し、挑戦を恐れない体質へ
Google DORA の調査でも、これら三指標がビジネス成果と強く相関することが示されています。
2‑2 トレードオンを実現する三つの柱
柱 | 概要 | 期待効果 |
|---|---|---|
開発者テストの充実 | ユニット/統合テストを開発者が責任を持って実装。TDD・カバー&モディファイ・モブプロを習慣化し、CI に資産化する。 | 早期バグ発見によるリワーク削減、変更の高速化 |
テスト容易性の設計 | アーキテクチャ段階からテストしやすさを織り込む。依存分離、インターフェース単純化、モジュール分割など。 | テスト・デバッグ工数を低減し、復旧速度を向上 |
Wモデル+テストファースト | 要件・設計と並行してテスト観点を作成。ユーザーストーリー例では履歴件数の上限、権限制御などを先回りで精緻化。 | 仕様不備の早期是正、上流からのシフトレフト |
3. 実践ポイント抜粋
3‑1 開発者テストを根付かせる三段ロケット
習慣化:ガイドライン整備とペア/モブプロで“やって見せる”。
短サイクル補正:プルリクレビューとカバレッジ監視で日々軌道修正。
長サイクル改善:スプリント単位で流出バグを分析し、テストリファクタリングへ反映。
3‑2 テスト容易性を阻む落とし穴
早期にテストを回さないまま UI が固まり、後から自動化困難になる
モノリス化により「テスト対象を分けて実行」が出来ず CI が肥大化 いずれも ウォーキングスケルトン で早期に動かす、危険領域をサーバ単位で隔離するなど、アーキテクチャからの手当てが鍵です。
4. Q&A ハイライト
質問 | 井芹さんの回答(要旨) |
|---|---|
「コードを書かない QA もユニットテストを学ぶべき?」 | ユニットテストを書く主体は開発者。ただし QA はレビューで助言できる知識を持とう。 |
テスト容易性の客観指標は? | 万能な一本指標は無い。カバレッジ推移、流出バグ、インターフェースの複雑度など複数の数値+レビューチェックポイントで補完する。 |
要件が固まらない段階で TDD は可能? | 可能。TDD はコンポーネント単位の振る舞いが見えれば始められる。要件不確定でも小さなサイクルで前進すれば良い。 |
「テスト容易性を考えすぎて開発が遅れる」問題のバランスは? | ①計画上必要なテストを先に列挙し、それを実現する最小限の設計に留める ②リスクの高い領域だけ重点対策 ③デッドコード削除など“当たり前”の徹底――三層で考えると過剰設計を防げる。 |
生成 AI で QA 業務はどう変わる? | 単純作業は AI に移り、QA の知見は開発チームに分散する。一方で組織間コミュニケーションやリスク分析など “人にしかできない領域” への期待はむしろ高まる。 |
5. 井芹さんの新刊に詰まったエッセンス
書籍『ソフトウェアテスト徹底指南書』は、今回の内容をさらに深掘りし、
全体戦略の立て方
自動テストの設計と実装パターン
テスト容易性/運用容易性を両立させる設計指針 まで網羅した全 500 ページ超の実践書です。増刷が決まったばかりとのことで、参加者チャット欄でも「早速購入した」との声が相次ぎました。
6. まとめ ── 三本の矢で折れないチームへ
品質を高めようとするとスピードが鈍り、スピードを追うと障害復旧がもたつく――そんなジレンマを解く鍵は 「開発者テスト × テスト容易性 × 上流からのテストファースト」 という三本の矢でした。 これらをチーム全員の総合戦力として根付かせることで、
変更を恐れないスピード
想定外に屈しないレジリエンス
顧客が体感する品質を同時に伸ばせることが、講演と Q&A を通じて明瞭になりました。
感想 — テストは「守り」ではなく「攻め」のインフラ
井芹さんの語り口には一貫して「テストは開発の後処理ではなく、ビジネスを前に進める攻めの基盤」というメッセージが流れていました。 開発者が自ら品質を作り込み、設計段階でテスト容易性を仕込む。そこに QA が視座を与え、CI/CD が支える。 このサイクルさえ回り出せば、品質・スピード・レジリエンスはもはやトレードオフではありません。 折れないチームをつくる第一歩として、明日のプルリクに一行のテストコードを添えてみる――そんな前向きな余韻を残す一時間でした。
Yardでは、AI・テック領域に特化したスポットコンサル サービスを提供しています。
興味がある方は、初回の無料スポットコンサルをお申し込みください。
また、資料請求やお問い合わせもお待ちしております。テック領域の知見を獲得し、事業成長を一緒に実現していきましょう。
Read next
Loading recommendations...
