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ITエンジニアのためのコーポレートファイナンス入門シリーズ! #5 「現在価値」を理解する イベントレポート
「ITエンジニアのためのコーポレートファイナンス入門」も折り返し地点。 第 5 回となる今回は、投資判断の羅針盤となる「現在価値(Present Value)」 をテーマに、6 月 7 日に Zoom ウェビナー形式で開催されました。本レポートではオープニングから Q&A までの流れを振り返りつつ、エンジニアにとっての学びをまとめます。
シリーズの位置づけと今回のゴール
これまでの 4 回で取り扱ったのは
全体像
会計の最低限の基礎
財務分析の基本
財務分析のおかわり(ROA/ROE/ROIC/EBITDA など)
財務諸表という「現在の姿」を読み解いてきた流れに対し、今回からは時間軸を持ったお金の価値へ視点を拡張します。講師の江﨑崇浩氏は冒頭で
「企業価値を測る道具箱を揃えるために、現在価値と割引率の概念だけは腹落ちさせましょう」
と強調しました。
オープニング|運営からの案内とアイスブレイク
司会の大島氏から Zoom 操作や資料共有、アーカイブ配信に関する案内の後、恒例のアイスブレイクへ。 「Nintendo Switch 2、買いますか?」という軽めの質問に、チャットは
欲しいけど抽選に外れる
64 とゲームキューブがあるから十分
などの反応。和やかな空気のまま本編へ進みます。
本編ダイジェスト
1. 前回の復習―RO 系指標を“英語で”捉える
ROA=Return on Assets(総資産に対する利益)
ROE=Return on Equity(自己資本に対する利益)
ROIC=投下資本利益率(経営者視点での効率指標)
ROI=投資案件毎のリターン
「日本語訳より英語の並びで覚えた方が分子・分母の意味が直感的」とアドバイス。さらにバフェット・コードを用いたトヨタ vs. 日産の比較実演もあり、財務指標が企業ごとに大きく異なる事実を再確認しました。
2. 現在価値の発想
1 年後の 100 万円より「今日受け取る 100 万円」が好まれるのはなぜか—講師は Zoom 投票で感覚を確かめながら、期待収益率と割引率が同じ概念であることを示しました。
1 年後の 100 万円を年 5 %で割り引くと現在価値は 95.2 万円
将来価値(FV)=現在価値(PV)×(1+r)^n
現在価値(PV)=FV ÷(1+r)^n
ここで r が「割引率=期待収益率」です。
3. 福利(Compound Interest)の威力
単利と福利を 10 年・20 年…と比較するグラフを提示。
年 5 %でも 30 年で 元本の 4.3 倍
72 の法則(72÷金利 ≒ 元本が 2 倍になる年数)で直感確認
「指数関数的に増える/減る」という視点が企業価値評価で欠かせない、と繰り返し強調されました。
4. うちでの小槌と永久債の例え
毎年 100 万円を生む“魔法のアイテム”があったらいくらで買うか? 参加者のチャット回答を元に、割引率 5 % を当てはめて 10 年間の PV を合計。 1,000 万円では高すぎるという計算結果を示し、割引率設定の重要性を体感させました。さらに永久に利払いを続ける コンソル(永久債) を引き合いに、PV=キャッシュフロー÷r のシンプルな公式を紹介。
5. 企業価値算定への橋渡し
将来キャッシュフローを見積もる
適切な割引率(=資本コスト=WACC)で現在価値へ
初期保有資産と合わせて企業価値を導く
次回以降は **WACC(加重平均資本コスト)**の算出方法に踏み込み、DCF 法による企業価値評価へ進むことが予告されました。
Q&A ハイライト
質問 | 回答(要旨) |
|---|---|
老齢年金のように「死ぬまで受給」する仕組みは永久債と同じか? | 人は有限の寿命を持つため純粋な永久債とは異なります。実務では被保険者の余命や金利見通しを織り込んでアクチュアリーが割引計算を行います。現在価値の考え方は共通しつつ、前提の複雑さが段違いです。 |
Switch 2 抽選に外れた悲しみを現在価値で表すと?(チャット雑談) | 「今日遊べる楽しさ」を割引くと非常に大きな価値になるので、現時点で手に入らない痛手は想像以上…とのユーモア交じりのコメントで締め。 |
まとめと次回予告
現在価値は「時間を含んだお金の物差し」
割引率=期待収益率。設定次第で PV は大きく変わる
福利の力を数式とグラフで体感し、指数関数的な増減を腹落ちさせた
次回は WACC を通じて「割引率をどう決めるか」に挑戦
終わってみて 〜ファイナンスが“技術的問題”になる瞬間〜
エンジニアリングの世界では、遅延やスループットを数字で捉え最適化するのが日常です。その感覚をファイナンスに持ち込むと「お金もシステムの一部」という見え方に変わります。
今回学んだ現在価値は、まさに時間というレイテンシを持つデータを現在へ正規化するプロセスでした。割引率がわずかにぶれただけで最終アウトプットが激変する点は、パフォーマンスチューニングそのものです。
シリーズ後半では WACC や DCF が待っています。ソースコードを読むようにキャッシュフローを読み解き、運用設計をするように資本コストを設計する。そんな「技術者ならではのファイナンス理解」がさらに深まることを期待しつつ、次回を楽しみにしています。
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