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情シス着任後、最初に導入したツールが SaaS管理であった理由 イベントレポート
2025年6月25日に開催されたオンラインイベント「情シス・コーポレートITのSaaSアカウント管理 効率化の取り組み」は、 “ひとり情シス”から400名規模の組織まで、それぞれが直面するアカウント運用のリアル を一気に俯瞰できる贅沢な60分となりました。 登壇したのは──
登壇者 | 所属 | テーマ |
---|---|---|
高島 弘樹氏 | フクロウラボ 情報システムMgr. | 情シス着任後、最初に導入したツールがSaaS管理であった理由 |
小笠原 みつき氏 | JX通信社 CTO | ひとり情シスなCTOがLLMと始めるオペレーション最適化 |
Yuya Takeyama氏 | LayerX コーポレートエンジニア | 標準技術と独自システムで作る「つらくない」SaaSアカウント管理 |
「規模も役割も違う3者の視点が並ぶと、明日使えるTipsの密度が跳ね上がる」。そんな体験を時系列でレポートします。
1. 情シス着任後、最初に導入したツールが SaaS管理であった理由──フクロウラボ高島氏
1-1. 到着して最初に見た“崖”
従業員100名弱に対し、入退社時のアカウント発行/削除とPCキッティングが完全手作業。さらに個人端末からSaaSへログインできる状態が放置されており、セキュリティも不安──。
「まず“ゴール”を決め、課題を逆算で潰す」
と高島氏は宣言します。
1-2. ゴール=“ヒューマンエラーと定常工数の最小化”
アカウント自動プロビジョニング
ゼロタッチキッティング
デバイス・トラストによる私物端末遮断
この三つを実現するためにIDaaS(Okta相当)+MDMが不可欠と判断。しかし着任早々に高価なIDaaSを導入する自信も見積もり材料もない。
1-3. だからこそ「SaaS管理ツール」から入る
利用状況の棚卸し→Shadow IT検知→ID連携可否の一覧化… ここで採用したのがジョーシス。端末情報も同じ画面で可視化できる点、コミュニティが活発な点を評価したといいます。結果、
IDaaS導入の下調べが自動で進む
Shadow IT由来のコスト&リスクが即時減少
「SaaS管理は“ゴールへの迂回”ではなく、“本道を踏み固める側道”だった」
ひとり情シスでも再現できるロードマップが会場のメモを加速させました。
2. ひとり情シスなCTOがLLMと始めるオペレーション最適化──JX通信社 小笠原氏
2-1. CTO+情シス=時間は常に赤字
Slackチャンネル、メール、契約更新…あらゆる問い合わせが本人に集中。「待ち時間こそ最大のムダ」と定義し、まず業務を粒度細かく分解。その上で “LLMを“副操縦士”にする” 戦略を取ります。
2-2. CLI×GPTで“言い訳のない自動化”
ラスト製OSS AI Chat でメール返信や翻訳をワンライナー化
Googleスプレッドシート関数をLLMに生成させ、アカウント台帳の関数地獄から解放
ブラウザ操作をエージェントに実行させ、パスワード入力だけ人間が担当──セキュリティと自動化の折衷を実現
「モデル × エージェント × コンテキスト、この三角形を調律すると '突然' 実用域に入る瞬間が来る」
2-3. Slack内“情シスエージェント”のプロトタイプ
育休を前に、問い合わせ一次対応をAIに任せるべく業務フローをコード化。「AIの誤答はドキュメント不足のシグナル」と捉え、ナレッジ整備のトリガーにもしている姿勢が印象的でした。
3. 標準技術と独自システムで作る「つらくない」SaaS アカウント管理──Layer X Takeyama氏
3-1. 標準技術を極める
Microsoft Entra ID をSSO基盤に統一
SCIM でGoogle Workspace / Slack / GitHub / AWS 他とユーザー・グループを自動同期
しかしSCIM未対応SaaS、そして階層型組織権限(Layer Xの「バクラク」など)が残ります。
3-2. ABACジェネレーター で“属性×ロール”を擬似実装
SmartHRの人事データをもとに、条件に合致するメンバーを抽出し Terraformファイルを自動生成。Pull Requestとして差分が提示され、レビュー後にEntraグループへ反映。月末に数時間かけていた作業が数分で収束しました。
3-3. データ連携フレームワーク Synthetics
将来のシステム変更にも耐えるよう、
共通スキーマ(TypeScript zod)でデータを正規化
“Processor” を差し替えて各SaaSへETL という純粋関数ベース/最終状態収束型パイプラインを設計。爆速で成長する組織でも「辛くない」運用を保つ土台を示しました。
4. Q&Aで浮き彫りになった“共通のつまずき”
質問 | スピーカーの要点 |
---|---|
「結局すべてを情シス管理できていますか?」 | 高島氏「小規模SaaSは部門管理を容認。ただし利用申請と棚卸しだけは情シスが握り、リスクを可視化する仕組みを残す」 |
AIエージェントにパスワード入力は任せられる? | 小笠原氏「入力だけは人間が行い、以降の操作を自動化。'AIを完全に信用しない設計' が現場では効きます」 |
“属性ドリブン”に乗れないサービスはどうする? | Takeyama氏「SyntheticsでETLを自前実装。長期的にはSaaS側がSCIMに対応してくれるまで待てばよいが、業務を止めない回避路は持っておく」 |
現場の悩みは似ている──しかし “正解”は組織フェーズとリソースで変わる。そんな当たり前を再確認できる時間でした。
おわりに ― 「最速より、“続く速さ”を」
三者三様のアプローチに共通していたのは、
棚卸し → 可視化 を最初の一手に据える
“人がやるべき領域” と “機械に委ねる領域” を冷静に線引きする
改善プロセスそのものをツールやコードで“記憶”させ、来月の自分を楽にする
という姿勢でした。AIもIDaaSもSCIMも、導入した瞬間がゴールではありません。明日からの入社・異動・退職を「いつも通り」に回せる仕組みを育て続けることこそ、本質的なスピード。
余韻と展望
“自動化は魔法ではない。だが魔法のように再現できる”
そう背中を押された60分でした。SaaSアカウント管理に追われる読者の皆さんが、来月の棚卸し作業で「今日は早く帰れるかも」と笑えることを願いつつ、レポートを締めます。
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