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Cline指示通りに動かない? AI小説エージェントで学ぶ、指示書の書き方と自動アップデートの仕組み イベントレポート
2025年6月18日、オンライン開催された「Cline指示通りに動かない? AI小説エージェントで学ぶ、指示書の書き方と自動アップデートの仕組み」では、作家・研究員・AIエンジニアという三つの顔をもつ葦沢かもめ氏が登壇しました。モデレーターはフルスタック歴の長い大西政徳氏。 「生成AIで小説を書く」という最前線を題材に、コンテキストを保ち続ける方法、Memory Bankの応用、そして“人間が最後に担うべき範囲” を1時間弱で掘り下げる濃密なセッションとなりました。
1. 生成AIが長編でつまずく“忘却問題”
はじめに葦沢氏が取り上げたのは、コンテキストウィンドウに起因する「物忘れ」の課題です。
日本語は1文字あたり平均2トークン程度と英語より不利
GPT‑4でも約6.4万字、Claude Opusなら約10万字前後が限界
文字数を超えると冒頭の設定や会話履歴がスコープ外に押し出され、人物像や伏線が崩壊する
この制約を“物理法則”と捉え、要約で情報を圧縮するのが定石――そう前置きしたうえで、Clineが提供する解決策へと話を進めました。
2. Cline × Memory Bank──記憶を持つエージェント
Clineは「ゴールを宣言すると、自律的にタスク分割~実行まで走り切る」開発者向けツールです。 その核を成すのがMemory Bank。システムプロンプト内に「要約ドキュメントを自動生成・参照する」規則を埋め込み、チャットセッションをまたいでも一貫した文脈を維持します。
葦沢氏は小説用にWriting Memoryを自作。
Author.md
:作家の経歴・得意ジャンルStyle.md
:文体の約束事Character_*.md
:登場人物の外見・口調・背景IdeaPool.md
:ネタ帳
これらを自動更新させることで「書き進めて設定が変わったらメモリが追随し、次の生成に即反映される」ワークフローを実現していました。 実演では、メイド服で働く元ヤン女性キャラクターの設定が本文生成後にアップデートされ、Character_Hinata.md
へ差分反映される様子を披露。小説家の“赤入れ”をエージェントが肩代わりする構図が鮮烈でした。
3. 自動化を支える設計三原則
要約は常に“メモリ用ファイル”として残す
シーンやキャラが増えるほど差分更新が効いてくる
前提情報は最小限で投げる
詰め込みすぎると指示が散漫になり誤動作が増大
人間が“ビジョン”を握る
どのフェーズにどれだけ立ち入るか=作品の個性
4. 人間とAIの境界線──“ビジョン”の所在
葦沢氏が引用したのは、画家ハロルド・コーエンの言葉。
「人は外にあるものではなく、頭の中にあるものを描く。そして観察のたびに内なるモデルを更新する」
これを小説執筆に置き換えると、AIが各フェーズを自動化できても、ビジョン(テーマ性・観点)を定義し続けるのは作者しかいないという結論に至ります。 エージェントを“スタッフ”化し、監督=作者が最終編集権を持つ――映画制作モデルになぞらえた解説は参加者の共感を呼びました。
5. Q&Aハイライト
Clineが思い通りに動かない時は?
会話が肥大化したら途中までを要約させ、Memory Bankへ保存
キャラ口調が揺れる場合は「後から台詞部分だけを書き直させる」方が安定
他ツールとの比較
Cursor:コード補完とチャットを横断しやすい
Obsidian:ノート間リンクで設定管理は強いが自動実行は弱い
長編創作で“自走”させるなら現状Clineが一歩リードと評価
文章生成はどこまで代替可能?
各コンポーネントで6〜7割の性能
面白いアイデアや展開は依然として人の審美眼が必要
AI時代の「小説の良し悪し」は?
文学賞の審査は専門家の価値観+場のダイナミクスで決まる
商業では「誰が書いたか」より「面白いか」が直接評価される領域も増える
評価軸は複層化し、作者は自らのブランディングを設計する時代へ
6. まとめ ― ビジョンがエージェントを導く
小説執筆という“重く複雑な創作タスク”でも、要約ドキュメントの自動生成・自動更新というシンプルなテクニックがコンテキスト問題を突破口に変えました。 一方で、AIが巧みに文章を紡ぐほど、作品の核=ビジョンを誰が定め、どこまで介入するかが作者の個性となります。
全体を踏まえた所感 「ビジョンの設計図」を持とう
コンテキスト圧縮やメモリ管理は、もはやツールが肩代わりしてくれる時代です。だからこそ作者は、自身が何を描きたいのか、どこで判断し、どこをAIに委ねるのか——“創作プロセスそのもの”を設計図として言語化する必要があります。 ClineとMemory Bankは、その設計図をエージェントに伝える導管に過ぎません。道具に創造性を奪われるか、飛躍させるかは、ビジョンの明晰さ次第――そう背筋を正してくれるイベントでした。
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