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Technical Writing Meetup vol.44 レポート
「テクニカルライティングって、結局“文章力”だけの話ではない。」 そんな合言葉が飛び交った第 44 回 Technical Writing Meetup。今回の主役は AI とライター です。 SmartHR の桑野 雄さん、LINEヤフーの古木亮太朗さんという二人の実践者が、ドキュメント制作現場に AI が入り込むリアルを余すところなく共有しました。本稿では、両セッションと Q&A を軸に当日の熱量をお届けします。
プログラム概要
時間 | コンテンツ | 登壇者 |
---|---|---|
19:00–19:05 | オープニング | 司会:古木亮太朗 |
19:05–19:35 | SmartHR のライティング × 開発 × AI 活用 | 桑野 雄(SmartHR UX ライター) |
19:35–20:05 | AI を仮想読者にしてドキュメントのインサイトを見つけよう! | 古木亮太朗(LINEヤフー テクニカルライター) |
20:05–20:35 | Q&A | 参加者 & 登壇者 |
20:35–20:40 | クロージング | 司会 |
1. SmartHR:AI エージェントにリリースノートを書かせるには
1‑1 会社とチームの背景
SmartHR の開発チームはスクラム体制。UX ライターは イネーブラー として、レビュー・ガイドライン整備・教育までを一手に担います。開発者自身がリリースノートを執筆するフローのなかで、「書く負荷を丸ごと下げたい」というニーズが沸騰していました。
1‑2 AI エディタの選定と“やばさ”
桑野さんが選んだのは VS Code 系 AI エディタ(Cursor ほか)。注目は AI エージェント機能。
ユーザーがタスクを投げる → エージェントが自律的に進行
シェル操作が可能=ローカル環境を“何でも”触れる
複合タスク(調査→構成→執筆→セルフレビュー→Git 操作)を一括で実行
1‑3 実装ステップ
カスタム指示ファイル方式
AI が常に読む設定ファイルに「SmartHR の書式」「リード文テンプレート」「禁止語」などを列挙。
プロンプトは PR URL を渡すだけで済む。
課題:エディタごと/リポジトリごとにファイルが必要、細部を無視されやすい。
MCP サーバー方式
Model Context Protocol で「リリースノート作成」専用サーバーを自作。
ステップを小出しに返し、終了条件を満たさなければ次へ進ませない設計。
エディタ依存がなくなり、運用がシンプルに。
1‑4 成果と学び
工数体感 2 倍短縮、精神的負荷は劇減—社内アンケートでは「とても楽になった」80 %。
情報量が足りない PR、曖昧な仕様には AI も迷う。実例付きガイドライン と テキストリンター の併用が鍵。
次の挑戦はヘルプページ自動化と、クラウド側エージェントによる完全自動デプロイ。
2. LINEヤフー:AI を“仮想読者”にしてドキュメントを磨く
2‑1 チームミッション
LINE プラットフォームの開発者向けサイトを管理するデブコンテントチーム(ライター5名+エンジニア1名)。目標は「役に立つドキュメントで開発をもっと楽しく」。
2‑2 取り組みの発火点
開発の現場では AI がドキュメントを直接読む時代へ。 → LLM に最適化された提供形態を整えよう と考えた。
2‑3 試した3つの手段
llm‑s.txt / llm‑s.full.txt
Website 全文をマークダウンで一括提供する新フォーマット。
GitHub 公開
ドキュメントソースを OSS 化し、Contextual 7 などの AI ツールから直接参照できるようにする構想。
MCP サーバー公開
外部 LLM へ検索 API を開放し、最新情報を返すハブにする案。
2‑4 検証:Notebook LM で仮想読者テスト
llm‑s.full を読み込ませ、FAQ を自然言語で質問。
結果
大半は期待通りの精度で回答。
ただし「ドキュメントに記載なし or 曖昧なコンテキスト」の箇所は誤答・無答。
事例:メッセージ API の料金質問
応答メッセージが「無料枠にカウントされるか?」を尋ねると、AI は 料金体系が不明瞭 なため判断を誤った。 → ドキュメントの前提説明不足 が浮き彫りに。これは LLM という“鋭すぎる新人レビューア”からの指摘とも言える。
2‑5 インサイト
書いていないことは AI も答えられない—FAQ だけで満足せず、本文へ統合を。
曖昧な用語・多義語は噛み砕く—「メッセージ通数」のような概念は図解・定義で補強する。
AI 検証は“ユーザーテスト”と同義。ログを解析すれば改善点がきれいに浮かぶ。
3. Q&A ハイライト
Q:新しい AI エディタ、社内で自由に使えますか?
桑野:情報セキュリティ審査を通せば全社利用可。最初は熱意あるエンジニアが道を開く。
Q:AI エージェントが予期せぬ結果 D を返したら?
試行をリセットしてガチャを回し直すのが現状。根本はコンテキスト不足なので、指示分割が有効。
Q:エージェント到来でライターは失業?
「得意領域の分業が進むだけ。曖昧さの解消や情報設計はむしろ重要になる」(両登壇者一致)。
Q:これから触るならどのエージェント?
桑野:まずは Cursor を試し、コード中心なら Claude Code が熱い。
古木:登壇前の資料確認には Notebook LM が面白い。
4. 今後の展望
課題 | 示された方向 |
---|---|
記載漏れ・曖昧語の残存 | AI レビュー→人間が修正→ガイドラインへ反映 |
エージェント導入コスト | MCP サーバーの共有・クラウド実行型の活用 |
ドキュメント配信形態 | llm‑s 系フォーマット + GitHub OSS 化 |
5. まとめ —— 「AI と書く」から「AI と育てる」へ
今回の Meetup は、AI を“ライターの代役”として見る段階を軽々と通過し、「AI を設計・指導し、共にドキュメントを成長させる」フェーズに入ったことを示しました。
SmartHR はエージェントを開発工程の一員に迎え、人の負荷を削ぎ落とす。
LINEヤフーは AI を読者役に据え、ドキュメントの穴を暴いて精度を高める。
どちらのアプローチにも共通していたのは、「AI が躓く場所こそ改善ポイント」という眼差しでした。コードでも文章でも、最前線は常に“わからなさ”との戦いです。その地図を AI から受け取り、私たちが言葉を磨く——それこそが、これからのテクニカルライターに託された仕事なのだと感じます。
ひとこと感想
AI はもう“賢いツール”ではなく“気難しい同僚”になった。丁寧に説明すれば大仕事を任せられるし、雑に扱えば仕事を増やされる。この相棒とどう付き合うか——それがライターの新しい腕の見せどころだ。
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