🤖
AIエージェントのオンボーディング イベントレポート
はじめに
2025年5月28日、初夏の昼休みを突っ走るオンラインイベント 「AIエージェントのオンボーディング −ヒトとAIの協同を支える“役割設計”とは」 が開催されました。視聴登録は800名超。LayerX、ジェネラティブエージェンツ、スマートバンクという“いま現場で汗をかいている”3社の実践者が、15分ずつに濃縮した知見を連射。チャット欄には「Devin派?Cursor派?」「社内ルールをどう食べさせる?」とリアルタイムで議論が沸き起こりました。
以下、技術的エッセンスと現場の空気感を丸ごとお届けします。
1. AIを「採用」したら最初にやること
中村龍矢氏(LayerX)
キーメッセージ:LLMは魔法ではなく“新人社員”。まずはオンボーディング設計を。
着眼点
GPT‑4世代までのLLMは「知的単純作業」を肩代わりする段階だった。
O1・水論系モデルの登場で“厳密機”を突破。業務プロセス全体に踏み込める体制が整った。
AIプロセスマイニング
縦(部署固有)×横(歴史的文脈)の暗黙知を、ログや文書から逆算して抽出。
抽出済みフローを AIワークフロー としてノーコード編集し、60点で本番投入 → フィードバックで100点へ。
インパクト
「ルンバブル」になぞらえ、AIが通りやすい業務動線を先に整える姿勢が肝。
人間のレビューを“AIが惑わない粒度”でフィルタする仕組みもセットで設計する。
2. Devinと働く開発組織のリアル
西見公宏氏(ジェネラティブエージェンツ)
スケールアップ/アウト/アンビエント
Cursor=同期協調、Devin=非同期並列、イベント駆動Bot=常駐監視。
タスクの特性に応じてエージェントに渡す粒度を切り替えるのが役割設計の本質。
Devin導入3ステップ
環境の下ごしらえ — devcontainer が鍵。まずは“起動してテストが通る”状態を保証。
伴走フェーズ — チャットでこまめにレールを敷きながら、小さなタスクで学習させる。
プレイブック化 — 確実に再現できた手順をナレッジとして登録、以後は非同期・並列処理へ。
ワークスペースとナレッジ管理
Devinは単一VMをコピーして隔離環境を作る設計。依存の衝突を防ぐにはコンテナ必須。
システムナレッジ(固定)/リポジトリインデックス(自動更新)/ユーザーナレッジ(編集可)の3層を理解し、**知識の“腐敗防止バッチ”**を用意する。
3. AIのためのオンボーディングドキュメント
hirotea 氏(スマートバンク)
課題意識
LLMは自社コーディング規約を知らない。結果、車輪の再発明や誤継承が頻発し“失望フェーズ”入り。
解決策:リポジトリ直下に
共通ガイド×レイヤ別ルール×メンテ手順の6ファイルを用意(総2,200行)。
目次を先頭に置き、LLMが「最初に読む」ことを保証。
生成プロセスも自動化
O1Proに 「あなたはRailsコミッター」 とロール付与し、コードをサンプリング→ルール抽出→Markdown化。
生成された手順書は再プロンプトで自動リフレッシュ可能。
効果
Cursorにガイドを読ませるだけで APIベースコントローラ/ベースシリアライザ を正しく継承。
レビュー工数が劇的減少、エンジニアの「AIを信用できる」度が上昇。
4. Q&Aダイジェスト
質問 | 登壇者の回答(要旨) |
---|---|
AI導入前に業務フローへ“メス”を入れる企業は多い? | 多い 。ルンバブル化=オンボーディングコスト削減の近道(中村氏)。 |
Devinの情報整理バッチは人手?自動? | 基本は 自動 で重複排除。人はポリシー設定に集中(西見氏)。 |
フィードバックの品質をどう担保? | 「上司が変ならAIも誤学習」。フィードバックを選別するメタレイヤを設ける(中村氏)。 |
ドキュメントの更新フローは? | プレイブック+API駆動エージェントで 定期差分チェック を設計中(hirotea氏)。 |
5. 明日から使えるオンボーディング三箇条
“AIが読める場所”にまとめよ
リポジトリ直下・Markdown・目次必須。
60点で本番投入、フィードバックで磨く
完璧主義は敵。まずは動かし、人とAIの対話ログを肥料に。
役割はタスク特性で切る
同期(Cursor)、非同期(Devin)、イベント駆動(GitHub Bot 等)。“お願いの仕方”を変えるだけで生産性は跳ね上がる。
おわりに ― 人とAIが同僚になる日へ
イベントを通じて浮かび上がったのは、「オンボーディングは技術ではなく文化づくり」という事実です。AIエージェントは新人と同じ。任せる領域を宣言し、ルールと期待値を言語化し、フィードバックの通り道を用意してはじめて“戦力”になります。
LayerXが示したプロセスマイニングの大局観、ジェネラティブエージェンツが語ったエージェント役割論、スマートバンクが披露したドキュメント自動生成の手触り。三つのピースが組み合わさり、「AIと人間が肩を並べ働く」具体像が一気に輪郭を持ちました。
編集後記 ― コードベースに刻む共通語
コンテキストはドキュメント、ルールはプレイブック、改善はプルリクで回す。私たち開発者が長年磨いてきたソフトウェア工学の武器は、AIエージェントに対してもそのまま有効でした。違いはただ一つ——読者が“人間だけではなくなった” こと。
オンボーディングドキュメントのコミットボタンを押すたびに、目の前のAIが少しずつ“社内の仲間”へ進化していく。その未来を確信させてくれる90分でした。
Yardでは、AI・テック領域に特化したスポットコンサル サービスを提供しています。
興味がある方は、初回の無料スポットコンサルをお申し込みください。
また、資料請求やお問い合わせもお待ちしております。テック領域の知見を獲得し、事業成長を一緒に実現していきましょう。
Read next
Loading recommendations...