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30分でわかる「改訂新版エンジニアのためのデータ分析基盤入門」イベントレポート
はじめに
2025年3月3日、オンラインで開催された「データ・AIエンジニアBooks 30分でわかる『改訂新版エンジニアのためのデータ分析基盤入門』」。本イベントでは、クラウド環境の普及やデータ活用の多様化が進むなか、どうやってエンジニアがデータ分析基盤を構築・運用し、組織で活かしていくのか――という大きなテーマを、著者の斎藤友樹さんが30分という限られた時間で解説しました。
本書は「エンジニア視点で、データ分析基盤を総合的に捉えられるように」との想いから生まれた入門書として、多くの読者を獲得してきました。今回の改訂に伴い、追加・更新されたトピックや近年の動向を交えたお話は、未読の方のみならず、既に読了済みの方にも新鮮な学びを与える内容になっていました。
この記事では、イベントの流れとキーポイント、そしてQ&Aで話題になったポイントを振り返ります。
1. イベント概要
データ・AIエンジニアBooksは、エンジニア向けの技術書をピックアップし、著者や翻訳者を迎えてのライブトークを行うオンライン勉強会シリーズです。今回のテーマは以下のスケジュールで進行しました。
19:00-19:05:オープニング
19:05-19:35:ゲスト講演(改訂新版の見どころ解説)
19:35-19:40:Q&A
19:40-19:45:主催者からのお知らせ・終了
「データ分析基盤に興味があるけれど、どこから始めればいいかわからない」という声は多く、参加者アンケートでも「自社ではまだ導入していないが検討中」という方が半数近くを占めていました。まさに今回の内容は、そうした方々に向けた入門から最新動向までをギュッとまとめた時間となりました。
2. 書籍概要:何が「改訂新版」なのか
斎藤さんによると、本書は「データ分析基盤の基本を幅広くおさえ、クラウド時代の新しい技術スタックを理解したうえで自社固有の要件にあった判断をする」ために書かれています。初版から数年が経ち、クラウドやデータレイク技術が大きく進化したことで、組織がデータを分析に活かす敷居も下がりました。
改訂新版にあたっては、
データ分析基盤の外へ: データの取り込みから可視化だけでなく、外部システムやSaaS連携など、データを活用する範囲が広がった点を追記
ソフトウェアエンジニアリングとの融合: トランザクション管理やCI/CDなど、アプリケーション開発でおなじみの概念が、データ基盤でも取り入れやすくなった経緯を補強
周辺概念の整理: レイクハウス、オープンテーブルフォーマット、リバースETL、セマンティックレイヤーなど、新しいキーワードをまとめた章を用意
といった形でバージョンアップしているとのことです。
3. 新たに補強された主なテーマ
● オープンテーブルフォーマットとレイクハウス
イベント中盤では、「Iceberg や Delta Lake といったテーブルフォーマットの登場で、データレイクでもトランザクション管理やタイムトラベルが可能になった」との説明がありました。これにより、オブジェクトストレージ上でも「小さく始められる」「スピーディに柔軟なデータ管理が可能」といったメリットを享受できるように。 斎藤さんいわく「データウェアハウス一択ではなく、必要に応じてレイクハウス的なアプローチを選択する動きが急速に普及している。開発者にとっては、ソフトウェアエンジニアリングの感覚でデータ基盤を扱うチャンスが増えた」とのことです。
● リバースETLで広がる外部連携
以前は「分析したデータを可視化して終わり」だったのが、外部SaaSへデータを書き戻すパターンが注目されています。CRMやMA(マーケティングオートメーション)とつなげて、分析結果をそのまま施策に反映する流れです。 従来、外部への出力は「個別のパイプライン開発が大変」で、後回しになりがちでしたが、クラウド活用やオープンテーブルフォーマットによる管理性向上で実装負荷が減り、「データが経営や現場施策に直結する」基盤が作りやすくなってきたと語られました。
● セマンティックレイヤーとヘッドレスBI
本書改訂では、セマンティックレイヤー(データの意味付けと一貫性を保つ層) の考え方や、APIベースでデータを提供する ヘッドレスBI の存在がトピックとなっています。 利用者が自由にクエリを組んでしまうと、同じ指標でも計算式が異なり、結果がズレる問題が起きる。そこでセマンティックレイヤーが「売上」「割引」などを標準化し、さらにヘッドレスBIでAPIとして公開すれば、アプリやダッシュボードなど多様なクライアントでも一貫した計算結果が得られる。 斎藤さんは「セマンティックレイヤーはあくまで一貫性のフレームワークであって、最終的には利用者との認識合わせが鍵。データレイク段階ではなく、ある程度整備されたウェアハウスやレイクハウス上で導入を検討すべき」と強調していました。
4. Q&Aハイライト
最後のQ&Aセクションで、特に目を引いたのがセマンティックレイヤーとヘッドレスBIの導入タイミングに関する質問です。
「レイクでもセマンティックレイヤーを直接導入できるのか?」
斎藤さんによると、「レイクはバラバラのデータを置く領域ゆえ、まずは整備が必要。レイクハウスやDWHのように、ある程度のデータ統合が済んだ状態で適用する方が現実的」との回答でした。
「なぜヘッドレスBIが注目されるのか?」
従来のBIではビジュアル機能とデータ定義が一体化しているため、アプリの都合に合わせて細かな編集がしにくい。そこでデータ定義をAPI化しておき、フロント部分は自由に拡張できる利点が注目されているそうです。
5. 全体を踏まえた感想
データ分析基盤が「プロダクト」になる時代
数年前まで、「データ分析基盤=裏側の仕組み」で、見えないところで動きさえすれば問題ない――という捉え方が少なくありませんでした。ところが今日では、クラウドやレイクハウスの登場で構築がラクになる一方、ビジネス部門・開発部門・外部SaaSなど多方向からの利用要求が絶えず増えています。
斎藤さんのお話を聞いていると、それに伴い、データ分析基盤そのものを1つのプロダクトとして捉え、利用者にとっては「使いやすい・自分たちで拡張しやすい・品質を保証されている」 という観点を強く意識せざるを得ない段階に来ているのだと感じます。 改訂新版では、とりわけ「周辺サービスや外部連携、セマンティックレイヤーなどとどう向き合うか」という点が大きく強化されており、既存のアプリエンジニアがこれからデータ基盤にも携わるというケースでも無理なく読み進められる構成になっています。
もし読了後に「もっと具体的な技術の使い方を知りたい!」となった場合でも、まずこの本に書かれた概念を整理しておけば、最新ツールやフレームワークのドキュメントを読み解く下地ができるはず。データ分析基盤をこれから導入する方、既に導入済みで拡張に悩んでいる方、そしてエンジニアリングチームを率いる方にとって、改訂新版はまさに「いま」のデータ基盤を総覧できる頼もしい一冊と言えるでしょう。
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