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「30分でわかる『アジャイルデータモデリング』」イベントレポート
データやAIに関わるエンジニアが集う「データ・AIエンジニアBooks」。2025年5月27日に開催された今回のテーマは、新刊として話題の『アジャイルデータモデリング ― 組織にデータ分析を広めるためのテーブル設計ガイド』です。本書を翻訳したメンバーの1人、打出紘基さんが「30分でわかる」を合言葉に、エッセンスをぎゅっと凝縮して解説してくれました。
イベントでは、アジャイルデータモデリングが解決しようとしている課題や、従来のディメンショナルモデリングにアジャイルな方法論を組み合わせるメリットなどが語られ、エンジニアブックならではの、専門性と実務の両方を網羅した内容になりました。本レポートでは、その内容をかいつまんでご紹介します。
1. イベント概要と全体の流れ
データ・AIエンジニアBooksは、エンジニア向け技術書の著者・翻訳者によるライブトークをメインに据えたオンライン勉強会シリーズです。今回は 「30分でわかる『アジャイルデータモデリング』」 と題し、下記のタイムテーブルで進行しました。
19:00~19:05 オープニング
19:05~19:35 ゲスト講演(書籍内容の紹介)
19:35~19:40 Q&A
19:40~19:45 クロージング
司会は、データ分析基盤構築やビッグデータ活用に携わるエンジニアが担当し、書籍のポイントや当日の進め方をオープニングで手短に説明。そこから約30分にわたって翻訳メンバーの打出紘基さんがダイジェスト講演を行い、質疑応答へとスムーズに移行していきました。チャット欄やX(旧Twitter)で寄せられた感想や質問も盛り上がりを見せていました。
2. 『アジャイルデータモデリング』とは何か
本書の原題は “Agile Data Warehouse Design”。従来のディメンショナルモデリング手法を、アジャイルなプロセスと組み合わせてまとめた内容が特徴です。さらに、日本語版では 12件の国内事例 が寄稿されており、企業ごとのデータ分析組織や実際のテーブル設計がどのように運用されているかを具体的に掴めます。
「最初にすべてを設計し尽くす」やり方ではなく、小さな単位でモデリング→実装→フィードバックを繰り返す
事例集が豊富なので、初めてディメンショナルモデリングを学ぶ人にもイメージが湧きやすい
といった点が強調されていました。書籍は大きく以下の2パート+国内事例で構成されており、ディメンショナルモデリングの基礎を学んだあと、ステークホルダーとの対話やアジャイル実践が紹介されています。
3. ディメンショナルモデリングの基本構造
ディメンショナルモデリングは、データを ファクト(事象) と ディメンション(軸) に分割する考え方です。イベントを定義し、そのイベントが持つ測定値をファクト、分析の切り口をディメンションとしてテーブルを設計します。
たとえば「顧客注文」の例ならば、
ファクト:売上高、購入点数、割引金額 など
ディメンション:日付、顧客、店舗、商品 など という形に分解します。これをスタースキーマで表現すれば、ビジネスユーザーが理解しやすく、分析クエリもシンプルになります。
4. アジャイルなモデルストーミングとBEAM
本書がユニークなのは、モデルストーミング という概念を提唱している点です。ビジネスサイドのステークホルダーと協力しながら要件を収集(ストーミング)し、ディメンショナルモデリング(モデル)をアジャイルに行う方法論が整理されています。
● ビジネスイベント分析
「どんなイベント(取引や注文、在庫、広告配信など)が分析対象か」を洗い出す
リピート型(毎月・毎日など定期的)や発展型(状態が移り変わる)といったイベントの種類を見分ける
● BEAM と呼ばれるヒアリングフレームワーク
Beam Table にイベントの具体例(誰がいつどこで何を…)を並べる
アプリケーションのERモデリングではなく、ビジネスユーザーが慣れ親しんだ表形式で書くため、対話がしやすい
● イベントマトリックス/ディメンションマトリックス
どのイベントがどのディメンションと関係するかを整理
これにより、実装の優先度を可視化し、スプリント計画などにつなげる
5. Q&Aでの注目ポイント
質疑応答では、コミュニティならではの実務的な問いが多く寄せられました。特に印象的だった話題をピックアップします。
複雑な例外フローや「同じようで違う」アクターの扱い
発展型イベントとして状態変化をモデル化することで、細かい例外を収集しやすくなる
必要に応じてイベント自体を分割して考え、ステークホルダーと擦り合わせるアプローチも有効
性能向上した環境下でもディメンショナルモデリングは有効か
ビッグクエリやスノーフレークなど、モダンなDWHでは生SQLでの結合も高速
しかしビジネスユーザーがデータを理解しやすいよう、ディメンション・ファクトを設計し、加算性に配慮する価値は大きい
AI時代におけるモデリングの意義
単に膨大なデータを蓄積するだけではなく、ビジネス・ユーザーが解釈しやすい形に整えることが組織的には不可欠
AI活用にも、メタデータや共通項目を正しく定義・管理する重要性が増している
6. 全体を踏まえた感想
実務とビジネスを結ぶ「一歩先」のモデリング手法
今回のイベントを通じて感じたのは、ディメンショナルモデリングはもはや古い手法というイメージとは裏腹に、依然として有用な「枠組み」であるということです。データ分析基盤において、誰がいつどこで何をという形にイベントを切り分け、ファクトとディメンションにまとめる考え方は、ビジネス面から見ても理解しやすいだけでなく、柔軟な拡張とアジリティを得やすいからこそ長く使われてきました。
さらに本書では、定義を固めるだけでなく、ステークホルダーと協力して要件を発見し合う“モデルストーミング”が詳細に解説されています。単純に「星型スキーマを作る」という作業にとどまらず、チームの会話をどう設計し、どんなツールを使って合意形成するかのヒントが豊富です。
最新のクラウドDWHやAIの発展で、膨大なデータを吸い込むこと自体は容易になりました。しかし、 「何のために、どんな粒度で、どう分析するか」 は依然として事業側とエンジニア側のコミュニケーションが肝。そこにアジャイルなアプローチを取り入れることで、組織のデータ分析文化を加速させる――本書の狙いとその実践事例は、今の時代こそ求められているように思えます。
未読の方は、まず国内事例編で実践イメージを掴んでから「BEAM」や各種パターンを一歩ずつ読んでみると良いでしょう。既に読んでいる方も、モデリング作業の合間にさっと調べ直せるリファレンスとして何度も手に取れるはずです。「データが溢れているのに活かし切れない」「アジャイルで小さく高速に回したい」という現場を持つすべてのデータエンジニアにおすすめの一冊です。
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