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iOSアプリ開発の裏側 〜開発組織が向き合う課題とこれから〜
本レポートは、2025年5月21日に開催された「iOSエンジニア特集」のイベント内容をまとめたものです。登壇企業の背景や技術スタックに加え、組織としての課題や今後の展望などを、実際のエンジニアの声とともにご紹介します。iOSエンジニアの皆さんにとって、技術・組織両面でのヒントが詰まったイベントとなりました。
1. イベント概要と全体の流れ
当日はオンラインで3社からiOSエンジニアの方が登壇し、それぞれのサービス・技術選択・組織体制やiOS開発の実情について発表が行われました。モバイルアプリならではの宣言的UI導入やモジュール化の苦労、レガシーコードの改善、開発生産性をどう高めるかといったテーマが各社に共通する話題として議論され、最後はQ&Aセクションで活発なやりとりが交わされました。
2. LT① dely株式会社
クラシリワードにおけるiOSアプリ開発
最初に登壇したのはdely株式会社の伊藤さんです。delyでは「クラシル」だけでなく「クラシリアード」というサービスを展開し、レシートや移動・歩数など日常的な行動をポイント化する仕組みを提供しています。iOSチームの人数は立ち上げ時点で6名程度でしたが、今は19名に増加。サービス規模が大きいため、単純に人手を増やすだけでなく技術スタックやアーキテクチャを整え、優先度の低いタスクをどう効率化するかが課題となっているとのことです。
スイフトUI×マルチモジュール
クラシリアードiOSでは、UIにほぼスイフトUIを採用。画面遷移だけUIKItを活用する構成となっています。モジュール分割はスイフトパッケージマネージャーで管理し、270個近いモジュールを保持。オンプレで動くような手間はないものの、モジュールが多い分「どれを参照しているのか把握が大変になってきている」課題も語られました。
課題と今後
タスクの優先度調整 やるべき修正やリファクタリングが多数あり、チーム内で「試してみよう」「まず任せてみよう」としながら回す文化を醸成している。
技術選択の最前線 位置情報やヘルスキット、ビジョンフレームワークなど多種多様なiOS APIを利用。新しいiOSの進化をどう取り込むか、スピード感をどう出すかが焦点。
定量評価の難しさ 「Devinなど生成AIを活用してみたが、その効果を数字で示すことがまだ難しい」との発言も。今後はデータ収集を強化していきたいそうです。
3. LT② 株式会社カウシェ
買うを楽しむサービスのiOS開発
2社目は株式会社カウシェの深谷さん。ユーザが野菜を育てる感覚でアプリ内ポイントをため、商品を無料でもらえる仕掛けなど、“偶然的な出会い”を楽しむEC体験を提供しています。iOSチームは少人数で、大きな負荷の中でも新しい機能をどんどん出していくスタートアップらしい開発スタイルが特徴です。
AI活用とモノレポ化
同社のポイントは、クロスプラットフォームを検討したうえで、「現在はAI活用×iOS/Androidを同時にスケールする」構想を重視。さらにiOSとAndroidをモノレポ化することで、コード共有やルールセットを一元管理し、生産性を高められないかと試みています。
今後の展望
新規実装に対してAIをどう活かすか ChatGPTやカーサーを使ってユニットテスト、ドキュメント、サンプルコードなどを高速生成したい考え。
組織拡大フェーズでの標準化 モジュールレイアウトやアーキテクチャが流動的で、それをルール化してチーム間のばらつきを抑えたい。
4. LT③ 株式会社TVer
リアーキテクチャ推進中のiOS開発
最後に登壇したのは株式会社TVerの小森さん。TVerアプリのiOS開発が内製化したのは最近で、元々は外部ベンダーに開発を委託していました。そこから事業成長のために内部のフロントエンド部を立ち上げ、現在はリアーキテクチャの真っ最中。
チームの共通認識づくり
小森さんのチームでは、UI設計レビュー、リデューサー設計レビュー、テスト設計レビューの3つのプロセスを明示的に用意し、iOSエンジニア間の意見食い違いや設計のばらつきを抑える仕組みを導入。レガシーコードを置き換えるタイミングで、いかに「差し戻し地獄」を回避するかが焦点です。また、ADRやチップス共有といったドキュメント整備で歴史的経緯やノウハウを見える化し、新メンバーのオンボーディングを容易にしています。
スピードと品質の両立
「テレビコンテンツを誇りたい」というTVerの使命感があり、今後は定量的な指標をもとに改善サイクルを回す計画。そのためにも、品質を担保する仕組み(E2Eテストなど)とアプリのアップデート速度を落とさない設計が重要と語られました。
5. Q&Aピックアップ
イベントの後半では、以下のようなQ&Aが行われました。
Q1. クロスプラットフォームの検討状況は?
カウシェ深谷さん FlutterやReact Nativeなど一通り調査しつつ、現在はiOS・AndroidそれぞれのアプリをAIで効率化する道を優先。クロスプラットフォームを全面的に導入するかは検討段階。
TVer小森さん テスト的に一部検証したものの、内製化の立ち上げ時期と重なり、現状はiOS/Android各々でリアーキテクチャを進行。
Q2. スイフトパッケージマネージャー移行の苦労は?
dely伊藤さん 270ものモジュールがあり、依存関係を整理しきるのは容易ではない。新しいモジュールの追加ルールやパス管理が複雑化する課題も。
カウシェ深谷さん 比較的小規模のため導入自体はそこまで苦労していないが、移行にあたり既存プロジェクトとの共存時期をどうデザインするかが鍵。
Q3. iOS/Androidの同時開発を少人数で回すコツは?
カウシェ深谷さん AndroidとiOSの境界を意図的に取り払い「モバイルエンジニア」として領域を超えるトライを進めている。モノレポ化して共通化しやすい環境を整備中。
TVer小森さん まだそこまでの横断運用はしていないが、レビューの仕組みやテスト方針をしっかり定義すれば、小規模でも高効率に回せると感じている。
6. 全体を踏まえた感想
「未整備」こそが面白い、進化し続けるiOS開発の最前線
3社の事例を見渡すと、スイフトUIやSwift Package Managerの活用、アーキテクチャ刷新、そして生成AIを絡めた開発効率の追求など、最先端の技術と組織運営の工夫が同時に走っているのが印象的でした。
dely株式会社では、膨大なモジュールを抱えながらも「AIが効果を出す指標をどう取るか」を模索中。
カウシェは「クロスプラットフォームよりもAIでモバイル開発を共通化する」戦略を展開。
TVerは外部から内製への大きな転換期にあり、段階的なリアーキテクチャを支える設計レビューやドキュメント整備を急ピッチで進めている。
共通するのは「まだゴールには遠いが、未整備ゆえに挑戦の余地が大きい」という点です。iOSアプリ開発は技術進化が激しく、チーム構成や開発プロセス自体も変わり続けます。本イベントを通じて、「未整備」をチャンスと捉え、自社に合わせた仕組みやAI活用など、自分たちで最適解を作り上げる楽しさを改めて感じられたのではないでしょうか。
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