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Kubernetes Meetup Tokyo #70 レポート 〜KubeCon EU 2025 Recap〜
2025年5月20日に開催された「Kubernetes Meetup Tokyo #70」は、KubeCon + CloudNativeCon Europe 2025の内容を振り返るRecap会でした。ロンドンで催されたKubeCon EUのセッションを、参加者自身が肌で感じた話を持ち寄って語り合う場となり、最新のクラウドネイティブ動向や、大規模事例の裏側を知ることができました。 以下では、各セッションのポイントと、質疑応答で印象的だったやりとりをまとめてご紹介します。
1. KubeCon + CloudNativeCon Europe 2025 Overview(青山 雅也 氏)
最初に、サイバーエージェントの青山氏が、KubeCon EU 2025の全体像を振り返りました。ロンドンで開かれたKubeCon EUは、日程中にメンテナーサミットやコロケーテッドイベントが併催され、合計約1万2500人もの参加者が集まる大規模イベントとなったそうです。初参加者が約46%という高さも注目すべき点で、クラウドネイティブコミュニティのさらなる拡大が伺えます。
トピックス
CNCFの10周年 昨年はKubernetesが10周年でしたが、今年はCNCFが10周年を迎え、グローバルなユーザー数が920万人に迫るとのこと。
LLM活用事例の台頭 生成系AIをオブザーバビリティやマルチクラウド管理に組み合わせる発想が増え、今後さらに活発化する見込み。
次回以降のKubeCon 2025年秋は北米(コロラド州デンバー)、さらに2026年はアムステルダム、2027年はバルセロナで開催予定とのこと。
2. Journey at the New York Times: Is Sidecar-Less Service Mesh Disappearing Into Infrastructure?(杉山 祐介 氏)
東京ガスの杉山氏からは、ニューヨーク・タイムズ社がサイドカーを使わないサービスメッシュ「アンビエントメッシュ」を導入した際の旅路が紹介されました。Open SourceのIstioが提供するアンビエントメッシュは、サイドカー方式よりもリソース消費を抑えられ、運用負荷を減らせると期待されています。
ポイント
サイドカー方式の課題 プロキシが各Podに常駐するため、CPU負荷やデバッグの煩雑さが増大していた。
アンビエント導入のインパクト サイドカーレスにより30〜50%ほどCPU使用率が削減でき、トラフィック遅延も25%前後改善された事例が報告された。
移行戦略 ネームスペース単位で切り替え可能なため、サイドカー方式とアンビエント方式を同居させながら段階的に導入できる。
3. Observability Pipeline Query Languages: Present and the Future(蛭田 宗士 氏)
続いて、蛭田氏よりObservability Pipelineに関連するクエリ言語の進化について解説がありました。メトリクスやログ、トレースなど多様なデータを取り扱う際、従来はプロメテウスのような単一クエリ言語に依存しがちでしたが、近年の拡張要件では一筋縄にはいかないケースが増えています。
ポイント
複数言語の乱立 例:PromQL、LogQL、SQLライクなクエリなどを組み合わせて処理するシステムが増え、相互変換や可観測データ統合が課題に。
将来像 どこかで標準化が進む可能性があり、今まさに各ベンダーやOSSコミュニティが試行錯誤を続けている段階。
4. The GPUs on the Bus Go 'Round and 'Round(薮内 秀仁 氏)
Preferred Networksの薮内氏からは、GPUを多数搭載したクラスター運用における障害検知や復旧の取り組みがシェアされました。欧米の大規模クラスタ事例(NVIDIAなど)と照らし合わせながら、PFN社内でも同様の課題を抱えている様子が紹介されました。
ポイント
GPUの故障率 スケールが大きいほど、GPU故障が絶え間なく発生する状況になる。速やかな検知と復旧が鍵。
ノードプログラムデテクターの活用 各ノード上でデーモンセットとして動かし、GPUリンクの異常などをイベント化。さらにノードオペレーションコントローラーでリブートなど復旧措置を自動化。
ワーキンググループの動向 ノードライフサイクルを標準APIとして定義しようとする動きが強まっており、PFNとしても連携を模索中。
5. Kubernetes CRD Design for the Long Haul: Tips, Tricks, and Lessons Learned(小村 信吾 氏)
最後は小村氏が、KubeCon EU 2025で発表されたCRDの設計指針を紹介。長期運用を前提としたCRDの設計は、一度バージョンを上げると互換性維持が大変になりがちで、コミュニティでも多くの失敗やベストプラクティスが積み上がってきています。
ポイント
「ロングホール運用」には意図しないAPIバージョンバンプを避けることが重要 例:外部のAPI型を直接埋め込むと、外部が変わるたび自分のCRDもバンプが必須になってしまう。
曖昧なフィールド名を避ける 「Ready」など文脈次第でいかようにも読める名前は使わず、具体的な語彙を選択。
リストのマージ戦略に注意 サーバーサイドアプライの衝突を回避するため、Mapキーを指定するなどの工夫が必要。
全体を踏まえた感想 〜進むクラウドネイティブの境界領域で〜
KubeCon EU 2025は、参加者数・セッション数ともに過去最大級となり、「クラウドネイティブ」の定義が一層広がり、AIやGPU、生成系LLMの活用までもが当たり前の領域になってきた印象です。 今回のMeetupで扱われたテーマも、LLMを巡るオブザーバビリティや、サイドカーレス・サービスメッシュの可能性、CRD長期運用といった、数年前にはそれほど注目されていなかった最先端の課題ばかりでした。 それらに取り組むエンジニア同士が、同じコミュニティで同じ言葉を交わしている光景は、まさにKubernetesがもたらす拡張性・連携力の成せるわざとも言えます。
セッションを通じて浮かび上がったポイントは、大規模運用でこそ初めて見えてくる問題に着目し、それをクリアにしながらコミュニティ全体で標準化していく流れでした。CRDやノードライフサイクル管理、そしてGPU運用などは、各社が独自実装をするのではなく、お互いの成功例や失敗談を公開し合うことで多くの開発者が恩恵を受けられるはずです。
クラウドネイティブの境界は、AIに広がり、エッジやデバイス管理へと深化し続けています。Kubernetes Meetup Tokyoでは、今後もこうした最先端動向を共有する場が定期的に催されるとのこと。今回のRecapをきっかけに、ぜひ次回以降のイベントにも足を運んでみてはいかがでしょうか。
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