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IT エンジニアのためのコーポレートファイナンス入門シリーズ! #3 財務分析の基本 レポート
はじめに
2025 年 4 月 10 日、「IT エンジニアのためのコーポレートファイナンス入門シリーズ! #3 財務分析の基本」がオンラインで開催されました。過去 2 回の勉強会では、ファイナンス全体像や会計(B/S・P/L・C/F)の基礎に焦点が当てられてきました。3 回目となる今回は、いよいよ「財務分析そのもの」に踏み込み、代表的な指標(ROA、ROE、ほか)をざっくりと理解することを目指した内容でした。
本レポートでは、イベントの概要から各セクションのポイント、そして参加者の質問(Q&A)をまとめ、コーポレートファイナンス初学者にも分かりやすい形で紹介します。前回の会計知識を下支えに、「企業の実力や将来性をどう測るのか?」という疑問に迫った勉強会の様子を、ぜひ最後までご覧ください。
勉強会の背景とシリーズ概要
なぜ IT エンジニアにコーポレートファイナンス?
IT 業界は AI や DX の波を受け、いまや社会や企業の成長を大きく左右する存在となっています。政府や企業からの IT 投資は莫大な金額に上り、それらが具体的なプロジェクトを支えています。その投資の背景やリターン、そしてプロジェクトの成果が企業全体にどう影響するのかを理解するためには、ファイナンスや金融リテラシーが欠かせません。
一方で、「ファイナンスを学びたいけれど、敷居が高くて断念した」「そもそもどこから手をつければいいか分からない」という声も多く聞かれます。本シリーズでは、細かな計算や簿記の知識にとらわれすぎず、エッセンスをざっくりと理解しながら「ファイナンスを身近に感じる」勉強会を目指してきました。
第 1〜2 回の振り返り
第 1 回 全体像理解コーポレートファイナンスとは何か? 企業が資金を「負債(デット)」と「株主資本(エクイティ)」で調達し、それをどう運用していくかという基本構造を紹介。AI・DX も投資活動として捉えれば、ファイナンスとのつながりが見えてくる。
第 2 回 最低限の会計基礎貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)の三表を取り上げ、財務情報をどのように読み解くかを解説。帳簿上の利益と実際の現金収支が異なる例として「黒字倒産」が登場するなど、キャッシュフローの重要性が改めて強調された。
今回のテーマ:「財務分析の基本」を押さえる
今回の主役は、企業の財務データを分析する指標たちです。会計で用意された B/S・P/L・C/F を読んだだけでは、「この会社はどれだけ稼ぐ力があるのか?」「資本をうまく活用しているか?」といった大きな疑問には答えきれません。そこで登場するのが各種の財務指標です。
1. 代表的な分析指標は多すぎる?
一口に「財務指標」といっても、ROA、ROE、ROI、ROIC、EBITDA、D/E レシオ、PBR、PER…などなど、非常に多くの種類があります。初学者が一度にすべてを覚えようとすると、頭が混乱してしまうでしょう。したがって本勉強会では、まずは 「収益性」と「生産性」 を指標化しているROAを中心に学びました。次回以降で、ROEやレバレッジ、その他の高度な指標に踏み込む予定とのことです。
2. ROA(Return on Assets)とは何か
「リターンオンアセット」と呼ばれる ROA は、企業が保有する総資産をどれだけ有効活用できているかを示す指標です。
式:ROA = 利益/総資産
収益性 × 生産性論理的には、営業利益率 × 総資産回転率 に分解できます。前者が「どれだけ売上を利益に変えられているか」を表し、後者が「どれだけ効率よく資産を回転させているか」を表します。
例:利益率が高くても回転率が低ければ ROA は低いたとえば、1 億円の資産を使って年間 200 万円の売上しか上げられないのであれば、どれほど一取引あたりの利益率が高くても、結果的な ROA はかなり低くなる。逆に利益率が多少低くても回転率が高ければ、ROA は大きくなる。
3. 実際に財務三表を読んでみる
前回の会計基礎を踏まえ、今回は実在の大企業(日本製鉄など)の有価証券報告書を使って演習しました。
B/S(貸借対照表)「流動資産」「固定資産」「流動負債」「固定負債」「純資産」など、多くの科目を通して企業の資産構造や借入状況を把握する。製造業の場合は「在庫」や「建物」などが大量に並び、ビジネスモデルならではの特徴が表れる。
P/L(損益計算書)売上高、売上原価、販売管理費、営業利益、経常利益、当期純利益…といったフローを改めて眺める。製造業と IT 企業では利益率が大きく異なるため、業種比較や多年度比較が有効。
C/F(キャッシュフロー計算書)営業・投資・財務の 3 つのキャッシュフローの流れを確認。数字だけでなく、「どこからキャッシュが入って、何に出ていったか」という実態が重要。
このように、実例をチェックすると、「どのくらい投資しているか」「ビジネスモデルの特徴」「借入や株式発行の動向」など多くの情報が読み取れます。ただし、単年度・単企業の数字だけでは全体の評価が難しいため、複数年や競合企業との比較が欠かせないという点も強調されました。
Q&A ハイライト
今回も質疑応答の時間には、具体的な疑問がいくつも飛び出しました。その中で印象的だったのが以下のようなものです。
「ROA、ROE、ROI などで使う“利益”はどれを指す?」
一般に ROA や ROE は、営業利益か当期純利益を用いることが多い。ただし企業や分析者の狙い(税や特別損益を考慮するかなど)によって使う利益の種類が異なるため、一概に「これだけ」とは言いにくい。
「投資のリターンを表す ROI と、企業評価としての ROA/ROE は何が違う?」
ROI は個別プロジェクトなど、投資に対する成果を測る場面で使われることが多い。一方、ROA や ROE は企業全体の財務指標として広く使われる。
「ROA や ROE が高すぎる場合、逆に経営上のリスクはないのか?」
指標が大きいほど望ましいとされることが多いが、背後に借入を過度に増やしたり(レバレッジ)、偶発的要素が影響したりしている可能性もある。最終的には企業の実態(ビジネスモデルや回転率など)や他指標を合わせて判断が必要。
「財務三表を取得するには?」
有価証券報告書を公表している企業であれば、公式 Web サイトの IR 情報(投資家向け情報)や、エディネットなどの金融庁提供サービスを利用可能。また民間が運営する検索サイトもある。
全体を踏まえた感想 〜「数字」が語る企業の可能性〜
今回の勉強会では、前回までに学んだ「B/S・P/L・C/F」という“三種の神器”をどう扱い、どう数字を読み解くかをさらに一歩進めました。特に ROA のような指標の登場は、エンジニアにとっても「企業全体が生産性と収益性をどう両立しているのか?」を見渡すうえで有益です。
ただし、指標だけに振り回されるのは危険でもあります。経営者や投資家の目的、業種の特性、借入や投資リスクなどを総合的に勘案しなければ、単に数字が高い/低いだけでは判断がつきません。Q&A でも「どの利益を使うか」「どの指標が本当に大切か」は立場や狙いによって異なるという意見が多くありました。
とはいえ、複雑な要素が絡み合うからこそ、ファイナンスを学ぶ意義があるとも言えます。今回の勉強会で紹介された ROA のような指標を入り口に、少しずつ別の指標にも触れていくことで、企業価値の評価をより深く理解できるでしょう。次回は、いよいよ ROE やレバレッジ、さらには将来キャッシュフローを見据えた分析にも話題が及ぶとのこと。ぜひシリーズを継続して追いかけ、「数字が語る企業の可能性」を一緒に読み解いていきたいところです。
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