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モノタロウCTOとマネーフォワードVPoEが語る「大規模リアーキテクチャ」レポート
国内を代表するEC企業と、FinTechスタートアップから大規模組織へと成長を遂げた企業──。それぞれの企業が事業のスケールに合わせ、どのようにアーキテクチャや組織を変革してきたのか。2024年12月17日に開催された「モノタロウCTOとマネーフォワードVPoEが語る『大規模リアーキテクチャ』」では、モノタロウCTOの普川泰如さん、マネーフォワードVPoEの黒田翔太さんが、それぞれの変遷や知見を語りました。
本記事では、両社の発表内容をまとめ、インシデントにつながりそうな“負債”をどのように解消し、アーキテクチャを再構築してきたのか。さらに組織やカルチャー面ではどのような工夫をしているのかを、詳しくご紹介します。
競争力強化とビジネス価値創出への挑戦 - モノタロウの事例
事業規模と「モダナイゼーション」の必要性
ECで間接資材を取り扱うモノタロウは、2000万点を超える豊富な商品数を武器に急成長。執行役CTOの普川泰如さんによると、在庫をあえて大量に持ち「翌日配送」を可能にすることで顧客満足度を上げるビジネスモデルを採っています。しかし、こうした戦略は業務とシステムの複雑性を増大させ、成長の歪みとして“開発しづらさ”が顕在化したそうです。
競合優位性を再び高めるため、数年前から大規模なモダナイゼーションに着手。ビジネスロジックが一枚岩となってしまったモノリス型の機関システムを、業務ドメインに沿って細分化し、 「必要な複雑性」と「不要な複雑性」 を分離する戦略に至りました。
ドメインモデリングとアーキテクチャ再構築
モノタロウではまず、イベントストーミングというワークショップ形式で全社的に業務の流れを俯瞰し、各ドメインや関連イベントを洗い出しています。「在庫」「受注」「出荷」など重要度の高い部分では、さらに深い分析を行い、ドメインの構造図やプロセスモデルを詳細に作成。そこから新しいアーキテクチャを導き出し、順次モノリスを切り崩しているとのこと。
在庫ドメインの例では、変更や履歴管理を見据え、イベントソーシング+CQRSを導入。段階的に既存DBとの両立を図りながら、クラウド活用へと移行中だそうです。
開発組織とプラットフォームの整備
技術的な再構築に並行して、プラットフォームエンジニアリング部門を新設。ドメインチームがビジネスロジックに集中できるよう、コンテナ基盤やツール整備、トレーニングの提供を行っています。
さらに「モノタロウ道場」と呼ばれる社内ワークショップでは、新アーキテクチャに必要な技術や設計手法を体系立てて学べる環境を用意。約180~190人規模のエンジニアが積極的に参加し、知識を深めているとのことです。
スケールし続ける事業とサービスを支える - マネーフォワードの事例
多角化するプロダクトと成長期ごとの課題
FinTechのスタートアップから始まったマネーフォワードは、個人・法人向け含めて60以上のプロダクトを展開し、社員2400名超(うちエンジニア・デザイナー約1000名)へと拡大。VPoEの黒田翔太さんは、過去を「生き残り戦略」と評し、成長段階ごとにアーキテクチャと組織をダイナミックに変化させてきたと語りました。
スタートアップ期(2012~2016年) 「東園の誓いアーキテクチャ」と揶揄されるように、共通DBを全プロダクトが依存するモノリス構成を選択。迅速な開発スピードを優先し、技術的負債と引き換えに躍進。
充電期(2017~2019年) 上場後の資金調達で余力が生まれ、「東園の誓い」脱却プロジェクトを始動。共通DBを分離しつつ基盤を整え、AWS活用やインフラのセルフサービス化を進めた。
拡大期(2020~2022年) 複数拠点やグローバル採用でエンジニアを大量増員。共通基盤を元に新サービスが次々リリースされ、マイクロサービス化も進行。 しかしプロダクトの乱立や個別最適化が進み、やがて組織・技術の標準化を再度見直すフェーズに入る。
再編期(2023年~現在) プロダクト数やメンバーの増大によるUX・開発効率の低下を解消すべく、共通ルールやツールを強化しはじめている。プラットフォームエンジニアリングなど横断組織の整備でさらなる連携向上を図る。
「東園の誓い」から得た教訓
中でも、長年の負債とされた共通DBは「東園の誓い」と名付けられ、各サービスの負荷や障害が全体に波及する問題が深刻化。2017年から8年かけて、段階的にデータ分離・専用基盤化を進め、ついに主要サービスが抜け出したそうです。
「4年で積み上げた技術負債を返すのに8年かかった」と振り返りつつも、当時はスピード重視のモノリスが最適だったと黒田さんは語ります。「創業期の生存を支える選択だった」というスタートアップの現実があり、その後のアーキテクチャ刷新によって急拡大に対応できた、という流れです。
Q&Aハイライト
モノタロウ:ドメインモデルのメンテナンスはどう進める?
モデリングを大規模に実施しているモノタロウでは、その後の更新については「今はまだ試行錯誤中」とのこと。ドメイン理解を深めるためにイベントストーミングや構造分析を重ねたものの、メンテナンス性は今後の課題。モデルと実装をどのように同期するか、引き続き検討しているそうです。
マネーフォワード:新機能と技術負債の配分をどう決める?
公園の誓いアーキテクチャを脱却する際、プロダクトごとの開発チームでは優先度が下がりがちな負債返却。そこで専用のチームを組成し、「何年までにこの部分を脱却する」などマイルストーンを設定。プロダクトチームに任せきれない部分は支援チームが率先して進めたため、メリハリのある推進ができたそうです。
全体を踏まえた感想
両社の発表を比較すると、事業規模やビジネスモデルは異なるものの、「初期はスピード最優先でモノリスを組み上げ、その後に段階的な分割・共通基盤整備へ移る」という構図はよく似ていることに気づかされます。 いずれもアーキテクチャ刷新と組織改革を切り離さず、 「ドメインごとに小さく責任を持ち、プラットフォームチームや横断の場で標準化を進める」 というアプローチが重要なカギでした。
さらに各社とも、創業当初のアーキテクチャや技術選定が「結果として悪ではない」と振り返ります。スタートアップ期に大きな負債を抱えるのはむしろ当然で、「あの時点であの選択をしなかったら生き残れなかった」という大前提があるのです。 そのうえで、いつどのタイミングで負債を返すか、ビジネスモデルの複雑性をどうアーキテクチャに落とし込むか、組織をどう自律分散型に再設計するか。これらの意思決定が、サービスの継続的な進化を支えていると感じました。
成長速度が速いと負債も速く膨らむ――この両社の事例は、まさにスタートアップから大規模企業になるうえで生じる“宿命”をどのように乗り越えるかの好例といえそうです。今回の知見をもとに、自社のアーキテクチャや組織を改めて見つめ直す機会にしてみてはいかがでしょうか。
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