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ポストモーテムを実践へ ─学びを組織に定着させるには─ レポート
「障害対応が終わっただけで満足していませんか?いかに“学び”を次に活かし、組織全体で定着させるか?」
2025年4月24日、この問いをテーマに「ポストモーテムを実践へ ─学びを組織に定着させるには─」が開催されました。SNSやゲーム、飲食店向けクラウド、そして小売業界の事業を支える3社のエンジニアが、実際の取り組みや学びを共有。「どうすればポストモーテムの文化を根付かせられるのか」「ツールやチーム編成で何が変わるのか」――充実のディスカッションが生まれた本イベントの内容を、ここにまとめます。
イベント概要と本日の登壇者
今回のイベントは、「ポストモーテムの実践」をキーワードに、いかにインシデント後の振り返りを形骸化させず、組織が一丸となって学びを深め続けられるかを探る企画です。 登壇者には以下の3名をお招きしました。
清水 勲(@isaoshimizu) 株式会社MIXI みてね事業本部 みてねプラットフォーム部 部長 国内外2500万人超のユーザーを抱える「家族アルバム みてね」のSRE・CRE・セキュリティ領域をリード。
唐澤 弘明(@karszawa) 株式会社ダイニー VP of Technology モバイルオーダーを軸に、飲食店向けクラウドを包括的に展開するスタートアップで、過去4年で200回に及ぶポストモーテムを実施。
もりはや aka Yukiya Hayashi(@morihaya55) イオンスマートテクノロジー株式会社 SRE 小売業界大手イオンのDX・SREを担い、PagerDuty導入で障害対応のハブを築く。ポストモーテムの文化を浸透中。
各社それぞれの事業背景や技術スタック、組織フェーズが異なるなかで、ポストモーテムをどのように活かし定着させているのか。ここでは3名の講演内容をポイント別にご紹介します。
MIXI 清水さん:Notionでポストモーテムを広げる組織づくり
2500万人超「家族アルバム みてね」の障害振り返り
清水さんが所属するのは、株式会社MIXIが提供する「家族アルバム みてね」のプラットフォーム部。国内外であわせて2500万人以上が利用する同サービスにおいても、インシデントは避けられない現実です。そのため「ポストモーテムを行う際にどこへ書くか、どのように浸透させるか」が極めて重要なテーマになっています。
「形だけで終わらせない」ためのNotion活用
清水さんは「Notionでポストモーテムを管理している」と強調しました。特に、ノーションAIを活用している点が印象的です。
テンプレート機能 「ポストモーテム作成」ボタンで、自動生成された構成を用意。本番障害だけでなく、開発環境の失敗などもテンプレートに沿って記載しやすい。
AIサマリーと検索 長文のドキュメントでも、ノーションAIが3行程度の要約を自動生成。さらにプロンプトを与えれば「直近1ヶ月のポストモーテムまとめ」をざっと出してくれるなど、後から探すのが容易。
組織全員がアクセス可能な場所に置く 事業本部の最上位階層に配置し、エンジニアでなくても書ける環境を整備。スラックのジェネラルチャンネルでも適宜共有し、学習機会を逃さない。
「人を責めない」「再発防止は人頼みではなく仕組み」
MIXIでも「避難しない」「仕組み・プロセスを変える」を基本姿勢に掲げています。「次回は気をつける」「精神論」ではなく、ミスを前提にどうシステム設計を変えるかにフォーカスすることで、しっかり組織にポストモーテムが根づいているとのことです。
ダイニー 唐澤さん:スタートアップで4年200回のポストモーテム
全方位のレストランクラウドでトラブル数も膨大
飲食店向けのモバイルオーダーやPOSを軸に、レジや会計、従業員管理、経理周りの仕組みまで包括的に展開しているダイニー。QR注文の利用が増えるほど、日々の問い合わせ件数は膨大です。システムアラートだけでなく「店舗からの声をインシデントとして起票し、そこからポストモーテムへつなげる」という独特な流れが存在するそうです。
「1件1件でなく週ごとにまとめて振り返る」運用
4年で200回のポストモーテムを回せているのは、定期(週次)の振り返りが習慣化しているから。 1週間分のインシデントをすべて起票→ポストモーテム用のテーブルに並べ→共有・検証するスタイルで、開発・運用メンバーが集まる場が半ば自動的に確保されています。
正常性バイアス・人的判断に頼らないルール
ダイニーでは、インシデント報告が何かの拍子で「仕様質問」に流れてしまうことがあり、実質的な影響度が隠される事例も出ていました。「人は誰でもミスを嫌うし、問題を小さく見せたい」という心理は避けられません。そのため「すべて報告する・緊急性は発生時間で機械的に決める」という、人的判断を介さないフローを選んでいるそうです。
イオンスマートテクノロジー 森はやさん:PagerDuty×ポストモーテムで学びを定着
小売大手のDXを支えるSRE
最後は「イオンのSREが実践する学びの定着」というテーマで、イオンスマートテクノロジー(AST)の森はやさんが登壇。イオンアプリ「iAEON」を支える基盤や運用を中心に、ポストモーテムをはじめとしたSREの取り組みを紹介しました。
PagerDuty導入+インシデント訓練が意識を変える
初期段階では、数多くのアラートを一括で受ける専任チームがいて、エンジニア各自が「自分ごと」になりにくい課題がありました。 しかし、PagerDutyを導入し、開発チーム自身がオンコールを担当するようになったことで「障害対応は自分たちがやるもの」という意識が浸透。さらにPagerDutyにはポストモーテム作成支援AIもあり、下書き段階で相当の労力を省けるといいます。 今後は「障害対応訓練」を定期的に実施し、ポストモーテムにおける振り返りを当たり前の文化にしていくとのことです。
Q&Aピックアップ
質疑応答では、参加者から下記のような質問が寄せられました(一部抜粋)。
「避難しない文化をどう醸成するか?」
清水さん:会社の行動指針などで日頃から心理的安全性を重視。結果として「人でなくシステムに注目する姿勢が根づいた」
唐澤さん:チェックリストや機械的なフローで当事者意識を持ってもらうと、人を責める構図が生まれにくい
「ロール分担(コマンダー・初期係など)はどう広がった?」
森はやさん:まだ全ロールが完全に実践できているわけではない。まずはテンプレに役割を明示し、少しずつ体得していく段階
全体を踏まえた感想
今回のイベントでは、3名のエンジニアからポストモーテム活用の具体的事例が共有され、「ポストモーテム=障害振り返り」だけでなく、組織の成長やサービス全体の“学習”にも大きく寄与することが改めて浮き彫りになりました。
Notionなどの汎用ドキュメントツールで管理する場合でも、テンプレート + AIサマリーを駆使すれば分かりやすく蓄積できる
「インシデントはすべて適宜起票→週次や月次など定期リズムでポストモーテムを回す」といった仕組み作りが、“1回限り”で終わらず継続する秘訣
ツール導入(PagerDutyなど)が障害対応の自走化や全体巻き込みの後押しになる
最終的に、ポストモーテムは「人を責める」ためではなく、「同じ失敗を繰り返さずにユーザーに安定したサービスを届ける」ためにある。だからこそ、どんなフォーマットで記入し、誰が閲覧し、どう学習を定着させるか――ここにこそ各社の創意工夫が詰まっていました。 これからポストモーテムを導入・強化していきたい方は、ぜひ3社の事例を参考に、まずは「定期的な仕組み」「避難しないルール」そして「使いやすいツール」を意識して始めてみてはいかがでしょうか。
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