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「ゼロからプロダクト開発に向き合ってきたエンジニア達が語る - 開発者体験をもっと良くするためのベストプラクティス」レポート
2024年9月5日、POLA・ORBIS、ウェルスナビ、タイミーの3社がそれぞれの0→1フェーズ(プロダクトの立ち上げ初期段階)で直面した開発のリアルや、エンジニアとして意識してきたポイントについて披露しました。化粧品メーカー、資産運用サービス、マッチングプラットフォームという一見バラバラな業界が、なぜ「開発者体験」に着目し、どんなノウハウを共有し合うのか。ここではイベントの内容を振り返りつつ、Q&Aでのポイントや、全体を通じて見えた大切な視点をまとめます。
各社の自己紹介と取り組み概要
POLA・ORBIS:ビューティブランドでの内製開発
化粧品を中心とするビューティブランド企業「ポーラオルビスグループ」。創業100年近い歴史を持ちながらも、デジタルプロダクトを活用した新たな顧客体験を目指しています。
発足背景
従来はITベンダーに委託開発していたが、変化対応力やスピードをより高める必要があり、内製化に着手。
まずは「近隣メンバーだけで利用する勤怠管理システム」からスタートし、徐々に規模を拡大。
着手プロダクト
グループ各ブランドが共通で使用している巨大な基幹システムをマイクロサービス化し、一部機能(商品管理や販促管理など)を切り出して新たに構築。
デザイン性や使い勝手を重視しながらも、長年使われていた業務の文脈をしっかり抑えたUIを実装。
チーム体制
0から立ち上げた内製開発チームが2つのプロジェクトに分かれて動いている。
社員エンジニアのほか、業務委託やオフショアのエンジニアを含む複合体制。
「あえて小さい領域から始める」「ユーザー(業務部門)と密に対話する」ことで信頼を得つつ、組織ノウハウを蓄積中。
ウェルスナビ:新規事業での01フェーズとチームビルディング
働く世代に資産運用サービスを提供してきたウェルスナビ。既存の長期積立・分散投資プラットフォームから踏み込み、金融教育や保険サービスの新規事業を立ち上げています。
01フェーズでの課題感
新たな金融アドバイザリープラットフォームを構想する一方で、不確実・不明確な領域が多い。
チームビルディングも「まさにこれから」であり、混沌とした状態で仮説検証を回さざるを得ない。
工夫したポイント
小さなスプリントを回し、まずはアウトプットを出してステークホルダーと早期にすり合わせ。
「クネビンフレームワーク」などを意識し、問題がカオスなのか複雑なのかを常に認識しながら対処。
チーム全体にはドキュメンテーションや非同期コミュニケーションを徹底し、オープンな意思決定プロセスを確保。
タイミー:サービスローンチ期から現在までの組織づくり
空き時間を使って働きたい人と、短期人材を求める企業を繋ぐ「スキマバイト」マッチングサービスを展開するタイミー。
急成長スタートアップならではの内製化
ローンチ当時は学生主体での開発だったが、徐々にエンジニア・デザイナーを拡充。
保険や税金などのローム管理を社内で一手に行うなど、多くのノウハウを内製で築く。
開発者体験に対する捉え方
「個人の観点から見た働きやすさ」「組織の観点から見た生産性」の2軸を意識。
リモートワーク中心なだけに、ドキュメンテーションやチーム内オンボーディングを強化。
モノリス構成ながらも小まめなデプロイやモジュラモノリス化を進め、アジリティや検証スピードを確保している。
クロストーク:0→1フェーズで意識すべきこと
イベント後半は、質疑応答を交えたクロストーク形式。主に「開発者体験を高めるうえで苦労したこと」「今になって思う過去の自分へのアドバイス」が語られました。
開発者体験と開発生産性の関係
キーワード:開発者体験は「個人目線」、開発生産性は「組織目線」
組織や経営からすれば「生産性」「ROI」が絶えず問われるが、個人としては「どう働きたいか」「チーム内でどんな気持ちになるか」の方が切実。
しかし実際には開発の現場が小さくまとまりがちで、「開発者体験」という概念を改めて意識していなかった場合が多い。
ポイントは「チームやプロセスに投資すると、変化や曖昧さに強い組織ができる」こと。この恩恵を事業サイドに伝える形で、開発者体験を下支えできる。
初期フェーズでの仲間集め・チーム設計
コアメンバーがいない状態でスタートする苦労
若手エンジニアや未経験メンバーをどこまで巻き込むか、そもそも組織として投資する意義をどう社内説得するか、など課題は多い。
味方づくりには「小さな成果物」を早めに見せるのが効果的。数日~数週間で動くデモを作り、ステークホルダーに「できるかも」と思わせる。
リモート中心だと、味方(メンターや先輩)との距離感がつかみづらい問題も。オープンなドキュメンテーションやオンラインルームの常時解放などで補う。
チームでやること・やらないことの決め方
優先順位づけは、たいていPOやリーダーが担う
ただし曖昧な領域が多く、事業部門やカスタマーサポート、経営層から多方面の要求が舞い込む。
スプリントやタイムボックスを活用し「2週間だけやらせてください」「小さく成果を見せる」ことで合意形成するのが効果的。
運用を考えずに内製すると後で苦労…
例えばセキュリティの脆弱性対応や、想定外のユーザー追加が起きた際にメンテ担当が必要。
内製のメリットは曖昧さや変化への柔軟対応にあるが、運用面も誰がどう担うのかを早めに意識するとスムーズ。
過去の自分へのアドバイス:小さく行動し、対話し続ける
何もない時でもステークホルダーとコミュニケーション
大きな課題や要求が来た時だけ話すのでは遅く、いきなり交渉モードになりがち。
普段から雑談や状況共有の場を持つことで「これ、実はできそう」といったアイデアが自然発生する。
問題の改造度を上げるためにも、まず行動して小さなアウトプットを出す
予測不可能な領域では、議論だけでなく動くものや画面イメージを見せるほうが理解されやすい。
しかし「リリース期日やゴール設定」はどこかで決めないと、延々と改善に没頭してしまうリスクがある。ある程度形が見えたらマイルストーンを設定しよう。
全体を踏まえた感想
今回のイベントでは、「そもそも開発者体験とは何か」をそれぞれの立ち位置から改めて深掘りする場面が印象的でした。エンジニア個人の目線であれ、事業会社という視点であれ、最終的には“変化・曖昧さとの向き合い方”が共通テーマになっていたように思えます。
POLA・ORBISは100年企業だからこその文化・業務フローがある中で、新しい内製開発チームを立ち上げる道のりを実直に進めています。ほんの小さな勤怠管理システムを足がかりに、徐々に信頼を得て大きな基幹システムのマイクロサービス化へステップアップしている姿からは、地に足をつけた挑戦の重要性が伝わります。
ウェルスナビは既存サービスであるロボアドバイザーを軸に、新たな金融アドバイザリープラットフォームを構想するうえで、「クネビンフレームワーク」などを活用して混沌や複雑な問題に対処しているのが印象的です。まずは2週間、まずは小さな機能、とにかく行動と検証を回す姿勢が共感を呼びました。
タイミーは立ち上げ当初から「変化への柔軟さ」を最大の強みにしてきたといえます。ただリモートワーク主体ならではの味方づくりやコミュニケーションの難しさもあり、そこをドキュメンテーションやチーム分割でカバーする工夫をしているのが興味深いところでした。
組織・チーム・開発者各々の目線で、どう「開発体験」を向上させるかという問いは、従来の開発生産性とは少し違う新鮮な視点でした。おそらくこれから、より多様な現場で「開発者体験」をキーワードに議論が広がっていくことでしょう。変化が止まらない時代だからこそ、プロダクト立ち上げ期の暗中模索を楽しみつつ、小さな成功・失敗を積み重ね、徐々に組織を成熟させる――本イベントは、その大切さを改めて示した場となりました。
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