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「データ分析集団ならではの課題解決 -顧客行動から『なぜ』を深掘りする分析プロセス- Honda Tech Talks #12」レポート
自動車やバイク、さらには航空機までも手がけるHondaが、「データ分析」をキーワードにどのような組織横断の価値創出を進めているのか。2025年3月13日に開催された第12回のHonda Tech Talksでは、データアナリティクス部から4名の登壇者が集まり、データドリブンな顧客理解とマーケティング領域での挑戦が赤裸々に語られました。
本イベントの狙いは、「車両データや外部データをどのように活用して、顧客が本当に望む価値を発見していくのか」という分析プロセスの実例を共有すること。近年、耐久消費財における購買行動はさらに多様化し、顧客ニーズの解像度を高めなければ製品・サービスの確かな改善や新規提案にはつながりません。そうした状況の中で、Hondaが培ってきた分析組織の実態と成功体験(または苦労話)に注目が集まりました。
はじめに: ソフトウェアでモビリティ価値を高める時代
冒頭、Hondaの森田氏が「ソフトウェア・デファインドによる開発」の重要性を強調しました。従来はハードウェア中心の物づくりで、「4~5年かけて完成させたクルマをリリースすれば完了」という流れでした。しかし今後はソフトウェアのアップデートにより、出荷後も価値を進化させ続ける開発体制が求められます。
そのためには、リアルタイムなデータ収集と継続的な改善プロセスが欠かせません。大きく変わるモビリティの世界で、顧客行動を瞬時に把握しながらスピーディに価値を届ける――森田氏はこれを「爆速価値の提供」と呼び、組織としての取り組みを紹介しました。
ポイント
Hondaはグローバルに事業を展開し、今や売上収益は20兆円を超える規模に。
電動化やコネクテッドが加速し、車の開発はソフトウェアを軸に「売った後もアップデート」する時代に。
爆速で顧客の変化を捉えられるかが、勝負を分けるカギになる。
データアナリティクス部の組織と役割
続いて登壇した三澤氏は、Hondaのデータアナリティクス部について「Honda全体のデータ活用を横断的に支援する」組織だと解説。多様なバックグラウンドのメンバーが集まり、各種プロジェクトの課題解決を担っています。
組織としての特徴
平均年齢37.2歳、女性比率32.7%、中途採用比率50%以上。
バラエティに富んだキャリアを持つ人材が集い、技術もビジネスも横断的にカバー。
東京・赤坂にオフィスを構え、より「デジタル×ビジネス」の価値創出に特化。
三澤氏自身は、デジタルマーケティングの知見を生かしながら「顧客の行動可視化・施策提案」を担うプロジェクトを牽引中。アジアなど海外市場での現地出張も多く、「現場に出向いて直接観察することで、データだけでは捉えきれない『リアルな体験』を吸収する」姿勢を大事にしているとのこと。
顧客理解を深め、“なぜ?”を引き出すデータ活用 (SNS編)
栗栖氏からは「SNSなど柔らかいデータ」を使った分析事例が紹介されました。
多様化する顧客ニーズへのアプローチ
自動車といっても、人によって「デザインが好き」「環境性能を重視」「家族用途を重視」「そもそも買わない」など理由はさまざま。
購買サイクルが長い耐久消費財だと、変化するライフステージを追い続けて顧客理解する必要がある。
そこで、SNSの投稿を集計する「ソーシャルリスニング」で、競合との比較やユーザーの本音を鮮度高く把握している。
ノイズ除去の泥臭さと自動化
SNSには「Honda(本田)」という苗字のツイートや、全くの無関係ワードも大量に混在します。そこで数多くの除外設定や機械学習を使い、関係のない投稿を厳密に取り除く工夫が必須だとか。 栗栖氏は「最終的には経営や開発の迅速な意思決定を促すため、データの信頼性を極力高くする」と強調。ノイズ除去の丁寧なプロセスを経ることで、ビジネス部門からの信頼を得ているのだそう。
さらに深い「ストーリーの把握」へ
現状は、SNSを使った「量的な分析」(ポジネガ比率・メンション数の推移など)が中心ですが、今後は「ユーザー個々のストーリー」(ライフスタイルや他ブランド嗜好)に踏み込む方向だといいます。 これによって、ユーザー一人ひとりが「なぜその商品を選ぶのか」を深堀りし、新規マーケティング施策や商品コンセプトをより的確に作り上げることが目標とのこと。
クルマのテレマティクスデータ分析による顧客行動理解
三輪氏は「車両が送信するテレマティクスデータ」を分析して、顧客のリアルな運転行動や評価ポイントを浮き彫りにする手法を紹介しました。
“ハード”なセンサー情報を使い、なぜを抽出する
車の加速度やエンジン回転数、アクセル開度など豊富なセンサー情報を得るテレマティクスデータ。
これをAIや統計手法で分析すると、「実際にいつ、どこで、どんな乗り方をして、どう感じていたのか」が想像しやすくなる。
例えば「高速道路で追い越し加速が不満」のコメントがあれば、その時の速度推移やACC(追従走行)使用状況をひも付けると、より詳細なシーンが浮かび上がる。
分析プロジェクトの進め方
ヒアリング: ビジネス部門が求めている課題の本質を、丁寧にヒアリングして相互認識をすり合わせ。
仮説&提案: 1枚の図で「課題構造」「原因」「分析方針」「期待できる価値」を整理し、両部門長から合意を得る。
分析(トライ&エラー): 車両センサー情報を抽出 → 特徴量設計 → 因果推定などの高度なアプローチで「何が問題で、どう直すか」を導く。
三輪氏は「複雑な分だけ分析は面白い」と熱弁。「車は機能も多く、一つ一つ丁寧に原因を考え、データクエリに落とし込む作業がパズルのように楽しめる」というエンジニアならではの視点が、印象的でした。
全体を通じたポイント
顧客ニーズを掘り下げる際に、AI/ML活用だけでなく、地道なクレンジングや因果構造の考察が重要。
SNS・検索など「柔らかいデータ」と、テレマティクスなど「硬いデータ」を組み合わせると、一層解像度高い顧客理解が可能。
分析のステップで「課題の構造」「原因」「分析で得られる価値」を一枚絵にまとめて、ビジネス部門とすり合わせることが成功のカギ。
Hondaはソフトウェアやデータで車をアップデートし続ける開発体制に移行中。「爆速価値の提供」を合言葉に、データ集団がさまざまな意思決定を後押ししている。
イベントを終えて
データ活用の重要性はあらゆる業界で叫ばれていますが、 「耐久消費財 × 顧客行動理解」 という文脈では、まだ成功事例が多くないのが現状です。その中でHondaは、SNSのような“柔らかい”外部データと、テレマティクスのような“硬い”車両データを掛け合わせ、スピード感をもって経営と現場を動かすというユニークなアプローチを取っています。
講演者たちの言葉からは、「データ分析はチームとして多様なスキルを活用し合い、本質的な『なぜ』を見つける作業だ」というメッセージが強く伝わりました。また、単純な集計にとどまらず、顧客のストーリーやライフスタイルまで推し量る視点が、まさにHondaの「顧客大事」な精神と噛み合っているのが印象的です。
今後はSNS分析の自動化やLLM(大規模言語モデル)の活用をさらに進めることで、より高度なインサイトを短時間で抽出し、爆速でビジネスに活かす姿が期待されるでしょう。車という長い購買サイクルを持つ商品でも、AIとデータ分析が“新たな価値”をドライブし続ける――このイベントは、その未来を力強く示してくれたと言えます。
最後に
新しいデータ活用に挑戦するには、「組織の枠を超えた連携」や「ユーザー体験をトータルに見据える視点」が欠かせません。特にモビリティの世界では、多様化するニーズとライフスタイルに伴い、センサー情報やSNSの生の声をどう融合し、どのようなストーリーを描くかが勝負のポイント。Hondaのデータアナリティクス部はこれからも、テクノロジーに人の温かさを掛け合わせる形で、新時代のモビリティを切り開いてくれそうです。
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