✅
「各社が語る品質保証の歩み QA組織の課題と今後の展望」イベントレポート
2025年4月21日に開催された「各社が語る品質保証の歩み QA組織の課題と今後の展望」は、さまざまな規模・業種の企業からQAエンジニアが集まり、自社の品質保証(QA)の取り組みや現場で直面する課題、そして今後の展望について語り合うオンラインイベントでした。 QAは単なるバグ検出だけでなく、プロダクト全体の信頼性向上や開発プロセス全般に関わる重要な領域に発展しています。それぞれの発表から、QA組織の進化、テストの効率化、自動化、そしてAI活用といった多様なトピックが浮かび上がりました。
KINTOテクノロジーズ株式会社 橋爪 祐子さん
会社・組織概要
KINTOテクノロジーズ株式会社は、トヨタグループのモビリティサービスを担う役割を担い、Webやネイティブアプリを多数開発しています。橋爪さんは「Qグループ」マネージャーとして、2020年に入社したころはQAメンバー数名でスタートし、現在は社員と協力会社のメンバーを合わせて24名の体制に拡大。「大規模プロジェクトはウォーターフォール寄り、小規模案件はアジャイルに対応する」多様な開発スタイルを支えていると話しました。
主導テスト×自動化
大規模案件では複数システムが連携するため、テストカバレッジを高めるには人手も時間も必要です。そこでKINTOテクノロジーズでは、初期から外部の第三者検証会社と連携し、主導テストを分担。さらにUIテストの一部を自動化(Appiumなど)してカバー範囲を拡張しています。ただしUIが変更されるとメンテナンスが増えるため、どこまで自動化するかの判断が重要とのことでした。小規模案件でのテストはアジャイルチーム内のQAが主導し、手動の強みを活かす。大規模案件と小規模案件で、自動化と手動テストの使い分けが鍵だといいます。
生成AIの試行
最近は「インシデントの再発防止策」「テストシナリオ」「テストスクリプト」の作成を生成AIに補助してもらう実験を始めたそうです。プロンプトによっては的確な補強案を出してくれることもある一方、プロンプトの質が結果に直結するため、チームがプロンプト作成力を身につける必要があると橋爪さんは強調しました。
質問と回答:自動化ツールの使い分け
質疑応答では「モバイルの自動化ツールとしてOTifiyもあるが、Appiumを選んだ理由は?」という問いがあり、「UI要素の指定方法や社内でのエンジニア経験がAppiumに合致しやすかった。結果として継続的なメンテがしやすい」という回答が印象的でした。
株式会社ニーリー 関井 祐介さん
プロダクト「パークダイレクト」
ニーリーが提供する「パークダイレクト」は、駐車場をWeb上で契約可能にするモビリティサービスです。利用者向けの契約手続き機能だけでなく、駐車場を管理する法人(管理会社)向けに顧客管理や賃料回収代行といった機能も備えています。QAチームは、こうした多機能を少人数で支えているとのこと。
QA組織の変遷と取り組み
23年2月に3名でスタートしたQAチームは、同年内には5名に増え、現在は9名体制まで拡大。インプロセスQA(各開発チームに入り込んで活動)と横断支援を担うメンバー、さらにテスト実行に特化した「セントラルテスティングチーム(CTT)」という3つのグループが連携しています。インプロセスQAがドメイン知識の濃い案件に集中し、CTTが幅広いテストをカバーする役割分担がポイントです。
問い合わせ対応をQAが担うメリット
開発チームが従来持ち回りで担当していたサポート問い合わせ対応を、QAチームがいち早く引き受ける体制に変更。結果として「問い合わせ対応から得られるドメイン知識をQA側が獲得できる」という副次効果が大きいと語りました。一方、問い合わせ件数が増加傾向にあり、「AIチャットボットで問い合わせ削減を図りたい」という計画を現在進めています。
テスト自動化ツール移行
以前のツールは実行回数に応じた従量課金で、頻繁なリグレッションテストが難しかったため、プレイライトへ移行を決断。シナリオ実行速度が大幅に向上し、「1回1時間半かかっていたものが20分程度になる見込み」とのこと。ただし複数のメンバーがメンテナンスできる体制づくりが今後の課題だとしました。
質問と回答:大規模テストへのドメイン知識共有
「インプロセスQAに任せると、担当領域以外の知識が偏ってしまいませんか?」という問いに関しては、「チームをローテーションして互いの領域を学び合う計画を進めている」と回答。品質全体を俯瞰するため、継続的なメンバー配置の調整が重要だと述べました。
株式会社マネーフォワード 角田 俊さん
幅広いサービスと海外開発拠点
家計簿アプリ「マネーフォワードME」で知られるマネーフォワードは、多数の法人・個人・金融機関向けサービスを展開しています。海外にも複数拠点を設けており、エンジニア組織では英語が標準的に使われる状況。角田さんは「CQO室 プロセスエンジニアリング部」に所属し、会社横断で品質とプロセスを支える役割を担っています。
テストプロセスの標準化
同社のエンジニアリング組織には、法人・個人・金融向けなど多彩なプロダクトが並行して動いています。そこでCQO室として、テスト計画の作成、リリース基準の確認、エビデンス整備を必須化。リリース時の合否判断の根拠を明確にし、ステークホルダー(カスタマーサポートやマーケティングなど)への周知を漏れなく行うことを徹底しています。
自動テスト構築とカバレッジ
マネーフォワードのテストピラミッドを意識し、「ユニットテスト→APIテスト→E2Eテスト」という順序で自動化範囲を決定。ユニットテストのコードカバレッジが70%超のプロダクトも増えてきており、今後はAPIテスト構築により一層力を注ぐとのこと。
生成AI活用
「AIでユニットテストコードを自動生成する研究プロジェクト」をソニーや大学と共同で実施したり、コードレビューでAIを活用するなど、技術的検証が進行中。さらに、ソフトウェアライフサイクル全体にAIを使える可能性を模索し、「AI × QA」の新しい形を探っているそうです。
質問と回答:リリース基準はどこまで適用?
「全てのリリースでリリース基準のドキュメントを作成するのか?」という問いがあり、角田さんは「大きめの機能リリースなど影響範囲が広い場合を中心に適用している。軽微なHotfixまで必ず適用とはしていない」と説明しました。
全体を踏まえた感想
今回のイベントでは、さまざまな規模のQA組織が取り組む課題と改善策が共有されました。大規模プロジェクトではウォーターフォール寄りの進め方を採りつつ、小規模案件はアジャイルのスピード感で回す――そんな柔軟な使い分けが必要とされる現場のリアルが印象的でした。
さらに、多くの企業で「テスト自動化」を推進しようとする一方、UI変更や運用負荷によりメンテナンスコストが増えるジレンマも語られました。その中で「どこを自動化すればリターンが大きく、どこは手動テストを残すのか」という判断は、各社とも試行錯誤のさなか。QAエンジニアがカバー範囲を拡げながらも、ドメイン知識を深く理解してこそ、継続的に質の高いプロダクトを支えられるという共通点も浮かび上がりました。
そして、生成AIの活用がQA現場にもじわじわと広がり始めています。バグ再発防止策のアイデア出し、問い合わせ対応のチャットボット、テストコード自動生成など、可能性は多岐にわたります。しかし、それらを業務全体に組み込むためにはプロンプトの精度やチーム体制が欠かせないとも強調されました。「AIに任せきりにしない」「テスト戦略を明確にしたうえで段階的に取り入れる」など、試験導入の慎重さも各登壇者からにじんでいました。
品質保証は、いまや開発プロセスにとどまらず、ユーザー体験やビジネス上のリスク管理まで含めた価値提供へと広がっています。人の手によるきめ細かい判断と、ツールやAIを活用した効率化を両立するには、QAエンジニア自身がドメイン知識や技術力を磨き続ける必要がある。そんなメッセージを改めて感じさせるイベントとなりました。
Yardでは、テック領域に特化したスポット相談サービスを提供しています。
興味がある方は、初回の無料スポット相談をお申し込みください。
また、資料請求やお問い合わせもお待ちしております。テック領域の知見を獲得し、事業成長を一緒に実現していきましょう。
Read next
Loading recommendations...