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クラウドFinOps 第2版―協調的でリアルタイムなクラウド価値の意思決定 レポート
クラウドが浸透するほどに、予測が難しくなりがちな“クラウド利用コスト”をどう管理し、どう最大化すべきか――。2025年4月28日に開催された Forkwell Library #92「クラウドFinOps 第2版―協調的でリアルタイムなクラウド価値の意思決定」 では、まさにこのテーマを深く掘り下げる時間となりました。本書の翻訳を手がけた6名の方々が一堂に会し、FinOpsという概念の本質と実践について熱い議論を展開。ここでは、本イベントの内容を振り返りつつ、質疑応答のポイントも交えたレポートをお届けします。
全体の概要
FinOpsとは何か?
FinOps = Finance+DevOps。 「クラウドコストを正しく把握し、継続的に最適化しながらビジネス価値を最大化するためのアプローチ」
従来のオンプレ調達とは違い、クラウドは使った分だけコストが発生する(OPEX型)。この新しい世界では、エンジニアや各部署が協調し、データに基づく意思決定をすることが必須となる。
グローバル企業の多くは既にFinOpsを当たり前に取り入れており、日本でもこれから数年で急速に浸透する可能性がある。
書籍『クラウドFinOps 第2版』
FinOps Foundation の創設者である JR さんやマイクさんによる「FinOpsの包括的な解説書」。
翻訳を担当した6名(松沢さん、風間さん、新井さん、福田さん、門畑さん、小原さん)は、各章やコラムにおいて日本独自の事情を交えた解説も追加。
「クラウドコスト最適化のテクニック」に留まらず、組織文化やデータ駆動型のプロセスをいかに醸成していくかが丁寧に語られている。つまり、エンジニアだけでなく、経営層や財務部門も含めて読んでほしい一冊。
基調講演:クラウドFinOpsの全体像
松沢 敏志 氏(株式会社日立製作所 シニアクラウドアーキテクト)
「FinOpsは単なるコスト改善手法ではなく、クラウドの本質である“俊敏性”と“コスト”を両立するフレームワーク」というメッセージを中心に、本書の各章を概観する形で解説がなされました。
FinOpsの3フェーズ
Inform:コストや使用状況を可視化して、リアルタイムに近いデータを共有し責任を持たせる
Optimize:分析結果をもとにクラウドリソースの使い方・設計を最適化
Operate:継続的にサイクルを回し、文化として定着させる
文化・組織の変革が肝 「Techだけでなく、お金の使い方や組織のガバナンスをどう合わせるか。そこにエンジニアリング以上の苦労や楽しさがある」
ユニットエコノミクス クラウドコスト=単純に「使用量 × 単価」で増えがち。ただしビジネス価値とのバランスを見るなら、たとえば「1APIリクエストあたり何円か」「ユーザー1人あたり何円か」の指標を導入し、健全性を客観的に評価すると良い。
視聴者Q&Aパネルトーク
6名の翻訳者が登壇し、それぞれ現場での知見を交えつつ質問に回答しました。主なハイライトを抜粋します。
Q1. 「日本企業の年度予算文化」とFinOps
質問:国内は年度始めに固定予算を立てる小習慣が多いが、FinOps文化をどう受け入れてもらうか? 回答:
一部、半年ごとに予算を見直す仕組みに変え始めている例(メルカリ)がある。年度で一気に固定するのではなく、もう少し短いスパンでレビューしようと提案し続けると効果的。
経営層への説明では、「クラウドはリアルタイムでコストと価値を最適化できる仕組み」だと再三アピールし、固定予算だけに縛られない発想を促す。
Q2. 「FinOpsエンジニア」の魅力
質問:エンジニアがFinOpsに取り組む面白さは? 回答:
コストを抑えるだけでなく、アーキテクチャを再設計したり、クラウド活用の極限を追求できる醍醐味がある。
「使ってみたらこんなに安く、パフォーマンスが向上した!」といった成功体験は、エンジニアとしての達成感やプロダクトへの貢献度を強く感じられる場面。
結果として、ビジネスの仕組みを深く理解し、経営層や財務チームとも連携する必要があるため、技術だけでなく組織全体を見渡す視点が自然と身につく。
Q3. ツール選定の難しさ
質問:FinOps用ツールは多数あるが、どう選べばいい?失敗例は? 回答:
海外ではFinOps特化ツールが数十社あり、クラウドベンダー自身の無料ツールも存在。どれか1つ導入すればOKというより、ユースケースごとに複数ツールを併用している例が大半。
失敗例としては、重量課金型ツールを全社導入したものの一部でしか使わず、結局コストが大きくなり解約してしまったケースなどが挙げられた。
大事なのは「自社のFinOps成熟度と必要要件を整理したうえで、ツール導入のROIを見極める」こと。
Q4. 「AI/ML」とFinOps
質問:AI活用のクラウドコストが急増する中、AI×FinOpsは議論されている? 回答:
FinOps Foundationでは、すでに「AI活用時のFinOps」というテーマでコミュニティが盛り上がりつつあり、近く専用ドキュメントやトレーニングが公開される見通し。
現在のところ日本企業での大きな事例は少ないが、生成AIなどのトークン課金をどう最適化するか、GPUリソースをどう見るかなどが今後の焦点となる。
全体を踏まえた感想
「クラウドコスト管理」のその先にある、組織と文化の変革
イベントを通じて改めて印象的だったのは、「FinOpsは単なるコスト削減テクではなく、クラウド利用の文化を組織に根づかせる活動そのもの」である点です。翻訳者の皆さんが口をそろえて言うように、クラウドの俊敏性・パフォーマンスを阻害せずにコスト面を最適化するためには、どうしてもエンジニア、財務、経営層が協働するフレームワークが必要です。
書籍の中には、クラウド請求の複雑さを乗り越える実践知だけでなく、「人が動くためのコミュニケーション」「意図的な無視と評価基準」など、いわゆるテクノロジーを超えた要素がふんだんに解説されています。翻訳チーム自身も「この書籍は最終的に、人や組織がどう協調し、学び、クラウドから価値を生み出すかを示す本」だと強調していました。
今まさにクラウドの使い道が多岐にわたり、インフラ、AI、マイクロサービスと変化するなか、費用面の見通しや管理はややこしくなる一方です。FinOpsは、その迷路を抜け出すための体系的なガイドブックといえるでしょう。「クラウドフィンOps 第2版」は膨大なページ数と価格も確かに重厚ですが、エンジニアにとっても、経営・財務担当者にとっても、これからのクラウドを最大限に活用するうえで頼れるバイブルとなるはずです。
イベントで何度も言及されたように「FinOpsの文化は、すぐに根づくものではない」ものの、一歩ずつ導入を進め、試してみることが大切。クラウドの本質的価値とコスト意識を両立する――そんな未来をつくりたい人は、ぜひ本書とコミュニティを入口に、新たな学びを始めてみてはいかがでしょうか。
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