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Mastraで変わるAIエージェント開発 レポート
はじめに
2025年4月22日に開催された「Mastraで変わるAIエージェント開発— 1時間で最前線を知る」は、AIエージェント開発の新たな手法や進化の方向性を探るうえで、大変注目度の高いイベントとなりました。ゲストに迎えたのは、『Mastraで作るAIエージェント入門』の著者であり、no plan inc. 代表取締役でもある芹川 葵さん。LangChainやChatGPT APIなど既存のフレームワークを触ったことがある開発者が「Mastraって何が違うの?」と疑問を持つなか、芹川さんはご自身の豊富な開発経験や実例を交えながら、その強みと今後の展望を披露しました。
質疑応答(Q&A)では、Mastraの導入事例や技術的な留意点をはじめ、AIエージェントを本番運用する際の課題などに話が及び、イベントは最後まで熱気に包まれた様子でした。本記事では、芹川さんの講演を中心に、約1時間にわたって繰り広げられた議論を振り返ります。
Mastraとは何か
既存のフレームワークと何が違うのか
AIエージェント開発において、これまでにもLangChainや独自のChatGPT API組み合わせなど、多彩な実装手段が存在していました。しかし芹川さんは、「AI開発のプロセス自体を大きく変革し、エッジ環境での実行から音声対話までスムーズに扱えるフレームワーク」としてMastraを強調しています。
TypeScriptベース MastraはTypeScriptで書かれており、型安全性を重視した設計が特徴的です。従来のPython主流のライブラリに慣れた開発者にとっては新鮮かもしれませんが、「フロント・バックをシームレスに扱える利点は大きい」と芹川さんは語りました。
エッジ環境への最適化 Mastraは「クラウドフレアワーカーズなどのエッジ環境」に強い点が特筆されます。コールドスタートが非常に短く、スケールする際の負荷が少ないため、応答速度を重視するAIエージェントには適した選択肢になります。
音声対話を視野に 標準で「音声とのやりとり(対話)」を提供するSDK要素も含まれています。チャットUIやテキストベースではなく、SF的な音声対話エージェントを手軽に実装できるのは、他フレームワークとの差別化要素となり得るでしょう。
開発者体験(DX)の向上
新しい技術を使いこなすには「開発者体験(DX)」が非常に重要で、Mastraでは下記のような仕組みを備えています。
デフォルトで生成されるデバッグ用UI
npm run dev
を実行するだけで、AIエージェントに対話や命令を送るための開発用UIが自動的に立ち上がります。追加でカスタムUIを用意しなくても、すぐに挙動確認が可能。ビルトインのオブザーバビリティ・ツール エージェントの内部動作ステップが可視化され、どのツールを呼び出し、どのような経路で情報が流れているかをリアルタイムに確認できる機能があります。デバッグコストがぐっと下がるため、素早いプロトタイピングを後押ししてくれるのがポイントです。
簡潔なコード量 MCP(Multi-Context Protocol)と組み合わせた事例として、会議情報のまとめやGoogleカレンダー・Slack連携を「わずか50行程度」で完成させるデモが示されました。冗長な定型コードに煩わされることなく、本質的なロジックを組むことに注力できる印象です。
デモ:Mastraで会議情報を一気通貫
芹川さんは実際に、会議情報をノーションで管理しているケースを想定し、以下の一連タスクを“わずか数十行のコード”でこなすデモを公開しました。
ノーションの議事録を検索して要点をまとめる
そこに含まれる「次回ミーティング」の日時をGoogleカレンダーに登録
イベント作成内容をSlackで共有
通常であれば、「ノーションから情報をコピペ → カレンダーに入力 → Slackに投稿」という流れを手作業で行うため、10分以上かかるケースも珍しくありません。それを数十秒程度で自動化し、開発者側のコードも50行ほどに収まったというのは大きなインパクトがありました。
ポイント:
MastraでエージェントとMCPを手軽に組み合わせられる
短いコードで「会議情報 → カレンダー作成 → Slack投稿」一連フローが実装可能
汎用的なRPAツールと異なり、LLMを利用するため多少の曖昧さにも対応できる
Q&Aピックアップ
Q: 他のAIフレームワーク(LangChainなど)との違いは?
芹川さん曰く、TypeScript/エッジ環境/音声対話がMastraを特徴づける要素だと強調。たとえばLangChainがPython中心の環境に向く一方、MastraはWebスタックとより親和性が高い。また、オールインワンで整った体験を提供する点も魅力の一つとのことでした。
Q: プロトタイピング向けなの?本番運用もできる?
エンジニア目線では十分本番にも対応可能と考えられています。特にクラウドフレアワーカーズを活用する場合、スケーラビリティやレスポンス速度の面で強いアドバンテージがあると芹川さんは指摘。ただし、より高度なGPUリソースが必要な推論については外部サービスと連携する設計がベースになるようです。
Q: コードリーディングや評価(テスト)はどうする?
Mastraには「evaluation」というAI出力のテスト支援機能が設計段階から組み込まれている。ハルシネーションやファクトチェックなど、LLM特有の問題を検知・緩和する仕組みを提供し始めている。現状は発展途上の部分もあり、今後のバージョンアップで強化される可能性が高い。
Q: 今後の展望は?
「Mastra Cloud(仮称)」のようなクラウド環境との統合が進む可能性が示唆されました。開発者にとっては、ローカルで素早くプロトタイプを作成し、本番へのデプロイもスムーズに行えるとなれば理想的。音声対話機能も含め、まさに「次世代のAIアプリ開発」支援を狙うプラットフォームとして期待が高まっています。
全体を踏まえた感想 —— 次のエージェント開発の当たり前を目指して
「Mastraで変わるAIエージェント開発— 1時間で最前線を知る」を通じて感じられたのは、AIエージェント開発は“フレームワークが主導している”時代に突入しつつあるということです。LangChainがAPI/Python開発のデファクトになりかけたタイミングからさらに進み、TypeScriptでエッジ特化のMastraが台頭してきたことで、「手戻りを減らし、最速でAIを組み込む」方向性が加速しています。
芹川さんのデモでは、MCP連携やラグとの組み合わせが非常にシンプルで、あれほどのタスクをわずか数十行のコードで実現できたことに驚きを感じました。「もう一度、自分の業務のうちコード50行で自動化できる部分はないか?」と考えるだけでも、新たなイノベーションの種が見つかるはずです。
また、「音声によるAIエージェント体験が当たり前になる未来」を芹川さんが語ったとき、チャット欄でも大いに盛り上がりを見せました。高性能のLLMがコモディティ化し、クラウドフレアワーカーズのような超高速レスポンス環境が手に入る時代だからこそ、「声だけでタスクを依頼し、それを自動実行する」シーンはそう遠くないかもしれません。
AIエージェントは特定のタスクを超えて、今後ますます多様な業務や個人ユースに浸透していくでしょう。Mastraが指し示す“エッジ主導型”の流れや、開発者に寄り添った豊富なデバッグ機能は、その未来を現実的なものに近づける大きなステップといえます。
全体を踏まえた感想:「次の波を、誰が作るか」
「既存の仕組みや発想のままで、果たしてこの激変する時代に置いていかれないか?」という問いを、芹川さんの講演は強く投げかけてくれました。LangChainや旧来のクラウド環境がまだまだ現役であることは確かですが、TypeScript×エッジ×音声といった新しい組み合わせが次のスタンダードになり得る可能性を強く感じます。
ただ、フレームワークがどんなに優秀であっても、“何を実現したいか”という問いがぼやけていては、真の価値にはつながりません。今回のデモで示されたように、「社内会議情報をあっという間に整備し、Slackやカレンダーへ通知する」など具体的なタスクを絞り込むことで、LLMの恩恵が一気に開花するのです。
「アイデアと課題を明確にし、あえてコード量を減らす。そのためにMastraを使い倒す」——芹川さんの開発観は、エンジニアにとっての大きなヒントといえるでしょう。圧倒的なDXとエッジでの実行性能を備えたMastraは、まさにAIエージェント開発の新しい“当たり前”になりうる存在かもしれません。この波に乗って、実践的なAI活用を一気に加速するのは、いまを生きる開発者たち次第です。
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