📱
Androidアプリ開発 開発組織が向き合う課題と戦略 レポート
はじめに
2025年4月23日に開催された「Androidアプリ開発 開発組織が向き合う課題と戦略」は、各社のAndroidエンジニアが集まり、モバイルアプリ開発におけるリアルな課題や挑戦、それらをどのように乗り越えているかについて語られました。実際のプロダクトの裏側や組織体制、技術選定の工夫など、普段はなかなか表に出ない情報が共有された貴重なイベントでした。
本記事では、登壇された3社の発表内容を中心に、ディスカッションのエッセンスやQ&Aでのやりとりをまとめてご紹介します。いずれの登壇企業も「組織としての成長」と「開発プロセスの改善」を強く意識されており、実践的なノウハウやチームビルドの手法が多数共有されました。モバイルエンジニアや開発体制の整備に興味がある方の参考になれば幸いです。
日本経済新聞社:Androidエンジニア 尾形 卓哉さん
主な発表内容
尾形さんは「日経電子版(Android)の技術課題と取り組み 令和最新版」というテーマでご登壇されました。日経電子版アプリは2011年リリースと歴史が長く、社としての創業は1876年と非常に長い歴史を持つため、「社会的に信頼されるアプリ」を目指す姿勢が一貫しているのが印象的でした。
大規模ゆえのレガシーコード問題 成長を続けるサービスの裏側には、さまざまな技術スタックが混在しており、「レガシーコード」の蓄積が課題になっているとのこと。チームが拡大し、開発リソースが機能追加や外部品質の維持に割かれる中、リファクタリングが後回しになりがちな現状があるそうです。
改善チームの発足 課題解決のため、開発チームとは別に「改善チーム」を新設し、一定のリソースをリファクタリングやコードの近代化に充てる取り組みを始めています。レガシーを“ゼロにする”というより、チーム全体が日常的に改善できる文化をつくることを目標にしていると語られました。
モブプロ導入によるモダン技術の平準化 毎週1時間半を使い、全員で同じ画面を見ながらコーディングするモブプログラミングを実施。AI支援ツールなども試し、Googleの推奨設計を改めて体験しながら学ぶことで、最新技術を使う際の心理的ハードルを下げる狙いがあるとのことです。
Q&Aピックアップ
Q: リファクタリングと新機能開発はどうやって両立させていますか? A: 改善チームと機能開発チームの間で「今どの範囲をリファクタリングしているか」を情報共有し、衝突が起きそうな場合は順番を調整して進めているそうです。Androidチーム全体で毎日短いミーティングを行い、コンフリクトをなるべく事前に防ぐようにしています。
Q: モブプロではAI支援ツールをどんなふうに活用していますか? A: Android Studio上でのコード補完やテストコード作成のヒントとして試行錯誤中とのこと。どんなプロンプトを入力すると望みのコードが生成されるのか、皆で画面共有しながら学習しているそうです。
Q: リリース前のテストはどのように行っていますか? A: 社内には専任のQAチームがおり、主要なOSバージョンと端末をカバーする形でリグレッションテストを行っています。台数はおよそ7~8台とのことでした。
株式会社アルダグラム:Androidアプリエンジニア 渡邊 陽介さん
主な発表内容
渡邊さんは現場DXサービス「カナ」のAndroid開発体制を紹介されました。リアクトネイティブからネイティブへの段階的移行や、複雑な機能をネイティブコードで書き起こす際の工夫など、移行期ならではの知見が多数語られました。
現場DXサービス「カナ」の特徴 写真やPDFに手描きで線を引いたり、テキストを書き込む編集機能、Excelライクな表計算の要素を取り込んだ「帳票機能」など、従来は紙で行っていた業務をデジタル化することで効率を上げているとのことです。
リアクトネイティブとネイティブ実装の共存 もともとは少人数で開発を始める都合上、リアクトネイティブが選定されたそうですが、要求が高度になるにつれネイティブ実装を併用する方針にシフト。Kotlin Multiplatform(KMP)とCompose Multiplatform(CNP)に着目し、UI/UXの統一とコード共通化を狙っている点が興味深いです。
今後の展望 すでに一部画面をKMPとCNPで書き換え始めており、2年後にはリアクトネイティブを完全排除したいという大胆な目標を掲げています。海外ユーザーも増えているため、Androidエンジニアの需要がますます高まると強調されていました。
Q&Aピックアップ
Q: 海外展開しているが、実機テストなどはどう行っていますか? A: 現状は日本国内の端末でQAチームがテストを行っており、海外専用の端末を使ったテストまではできていないそうです。ただ、翻訳や言語対応に力を入れており、UI部分もローカライズを適宜行っています。
Q: 海外ユーザー向けのUIで日本向けと大きな違いはありますか? A: 大きな違いはないとのこと。文化や業務フローが似ているユーザー層が中心という背景もあり、ほぼ共通の画面設計で対応しているそうです。
ウォンテッドリー株式会社:Mobile Tech Lead 久保出 雅俊さん
主な発表内容
久保出さんは「ウォンテッドリーのAndroid開発組織とネイティブ体験の強化」というテーマでご登壇。技術的にはKotlin Multiplatformでビジネスロジックを共通化し、UIにはJetpack Composeを導入する形で、モダンな開発スタックを積極的に取り入れているのが印象的でした。
一気通貫のモバイルチーム AndroidとiOSでチームを分けるのではなく、あくまで「モバイル開発チーム」としてまとまっているそうです。AndroidだけでなくiOS実装も共有し合い、コードレビューも相互に行うことでUI/UXのブレを抑え、開発体制を効率化しているとのことでした。
レガシーコードとの併存 Compose導入以降は生産性が向上している反面、古いXMLベースの画面などがまだ残っており、それらをどうモダン化するかが大きなテーマとして挙げられました。月に一度は「負債返済デー」を設け、組織として計画的にリファクタリングを推進しているそうです。
ネイティブ体験を活かす展開 Webとモバイル双方からサービスを利用できる強みがある一方、さらにプッシュ通知や端末機能を活用し、モバイルアプリならではのUXを強化していく意欲を示されていました。
Q&Aピックアップ
Q: 負債返済に1日使うと、機能開発が遅れる懸念はありませんか? A: 組織全体で「定期的に負債を返していくことが、結果的に開発効率を高める」という共通認識があるので、経営陣や他チームからも理解が得やすいとのことです。
Q: iOSとAndroidのコードレビューはどのように行っていますか? A: 同じモバイルチーム内で、仕様面はiOSエンジニアがレビュー、Androidの技術的な部分はAndroidエンジニアが見るという二重体制を組むことが多いそうです。UI/UXの整合を保ちながら、プラットフォーム固有の最適化も狙えるとのことでした。
全体を踏まえた感想
今回のイベントは、組織と技術の両面からAndroidアプリ開発を深掘りする内容で、大規模アプリに共通する課題や、各社独自の取り組みが際立っていました。レガシーコードの扱い方、改善タスクと新機能開発のバランス、そして最新技術を取り入れる際のチームビルディングなど、実践的なノウハウが非常に豊富だったと感じます。
各社の共通点としては、「レガシーコードの自然消滅を目指して日々改善し続ける仕組み作り」と「モダン技術で開発効率を向上させる挑戦」を同時に進めている点が挙げられます。なかでも、「改善専任チームの設立」や「負債返済デーを定期実施する」などの具体的な手法が光っていました。また、スケールするチームであっても、モブプロやコードレビュー文化によって情報を共有しながら、最新技術を積極的に取り入れている様子が印象的です。
さらに、海外展開や組織拡大を見据え、Kotlin MultiplatformやCompose Multiplatformなどを活用することで、両OSの開発をうまく一元化しようとする動きも興味深いトピックでした。リアクトネイティブから段階的にネイティブへ移行するケース、あるいはUIは個々に実装しつつビジネスロジックを共通化するケースなど、各社がサービスと組織の状況にあわせて柔軟に取り入れている点が印象的です。
Androidアプリ開発を取り巻く環境は日進月歩で変化し続けていますが、イベントを通じて改めて「組織としての成長と技術スタックの最適化は切り離せない」ことを実感しました。そして何より、大規模サービスでもエンジニアに施策提案の裁量を与えている姿勢が共通しており、新しい技術を積極的に採用する風土が感じられます。今後もさらに洗練された手法や文化が広がることを期待したいと思います。
以上が「Androidアプリ開発 開発組織が向き合う課題と戦略」のレポートです。本レポートが皆さまの開発現場やキャリアを考えるうえでのヒントになれば幸いです。今回登壇された各社は積極的にエンジニア採用を行っているとのことでしたので、興味のある方はぜひ情報をチェックしてみてください。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Yardでは、テック領域に特化したスポット相談サービスを提供しています。
興味がある方は、初回の無料スポット相談をお申し込みください。
また、資料請求やお問い合わせもお待ちしております。テック領域の知見を獲得し、事業成長を一緒に実現していきましょう。
Read next
Loading recommendations...