🏗️
ダイナミックリチーミング - Forkwell Library #90 レポート
2025年4月22日に開催された「Forkwell Library #90」では、『ダイナミックリチーミング 第2版 ―5つのパターンによる効果的なチーム編成』を取り上げました。著者・訳者・実践者を招き、書籍の内容を深堀りするこの勉強会シリーズ。今回はその中でも、チームの再編や組織変化をどのように捉え、どのように進めていくかを丁寧に解説する書籍に焦点が当たりました。
登壇者は、同書の共訳者の一人であり、株式会社アトラクタ・ファウンダーCBO/アジャイルコーチとして活躍する長瀬 美穂さんです。数々のアジャイル関連書籍を執筆・翻訳してきた長瀬さんが、ダイナミックリチーミングの本質や背景、そして組織づくりにおいて重要になるポイントを具体的に語ってくださいました。
以下では、イベント全体の流れとあわせて、本書の鍵となるエッセンスやQ&Aで盛り上がった話題を振り返ります。
1. イベント概要と書籍の紹介
Forkwell Library シリーズは、ソフトウェア開発やマネジメントにまつわる数多くの書籍を題材に、著者・訳者・実践者が直接そのエッセンスを解説する勉強会です。90回目に当たる今回は、『ダイナミックリチーミング 第2版 ―5つのパターンによる効果的なチーム編成』を取り上げました。
「リチーミング」とは、チーム編成を再度やり直すことを指す言葉です。さらに「ダイナミック」と組み合わさることで、常に変化が訪れるチームや組織を、前向きに再編し続けるアイデアを指し示します。
書籍では、
リチーミングの必要性
5つのパターン(例:ワンバイワン、グロー&スプリット、アイソレーション、マージ、スイッチング)
自己選択や自己組織化がどのようにチーム編成の柔軟性を高めるか
組織内でありがちなアンチパターン
などが、具体事例や経験談を交えながら紹介されています。
2. ダイナミックリチーミングとは?
長瀬さんはまず、「チームは好むと好まざるにかかわらず、常に変化していくもの」だと強調しました。固定化されたチーム編成を期待しても、メンバーの離脱や、新規プロジェクトの発生などによって、チームは必ず揺れ動きます。そうした「変化」をネガティブに捉えるのではなく、むしろ“ダイナミックに乗りこなす”のが本書の重要な視点です。
さらに、この本が狙うポイントは「自己組織的にチームを組み替えていく」という発想です。上位のマネジメントが一方的に「組織図」をいじるのではなく、当事者(チームメンバー)が自らの判断で、場合によってはサポート役を得ながら、新しいチームや働き方を選んでいく——そのプロセスこそが、ダイナミックリチーミングの肝となります。
3. 5つのパターンとアンチパターン
書籍の第2部では、チーム再編の5つのパターンが紹介されます。
ワンバイワン 新しく人を1名ずつ追加し、チームを拡大していく。 オンボーディングやメンターの負荷への注意が必要。
グロー&スプリット 大幅に人が増えたらチームを分割し、複数チームを作る。 チームを割ることで既存の良い雰囲気を壊すリスクも。
アイソレーション R&Dなど特定のミッションを担う少人数チームを切り出す。 成果が見えづらく孤立する可能性もある。
マージ 異なるチームを合併する。 買収や事業部再編など大きな変化に伴うケース。感情面にも大きく影響。
スイッチング チーム同士でメンバーを一時的または恒常的に入れ替える。 人材の成長や刺激が得られる一方、混乱を招く恐れも。
どれも「状況次第でプラスにもなるし、やり方を誤ると逆効果」とされます。本書が力を込めるのは「アンチパターンを知っておこう」という点。例えば、ハイパフォーマンスなチームのメンバーを無理に分散させ、よそにもその力を行き渡らせようとすると、せっかくうまく回っていたチームをかえって台無しにしてしまう危険がある、などが具体例として挙げられます。
4. Q&Aで盛り上がったポイント
講演後のQ&Aセッションでは、参加者からさまざまな疑問や悩みが寄せられました。いくつか代表的なものを紹介します。
Q1. 新しいマネージャーが、ドメインやメンバーをほとんど知らない状態で着任したとき、どのようにリチーミングを活用すればいい?
A: まずはメンバーを深く知ることが最優先です。外から来た人がいきなりチーム編成を大きく変えると、トラブルにつながりやすいので、小さな単位のチームや少人数単位で対話を重ねるなど、まず「現場で働く人を知る」ことが大事。
Q2. 「アンチパターンに足を突っ込み始めているかもしれない」と感じた当事者が最初にできることは?
A: 声を上げること。とはいえ、いきなり組織変更全体に異を唱えると周囲も戸惑うので、まずはチームや周囲の仲間と気軽に共有・対話し、小さな実験から始めるのが望ましい。感情が絡むため、衝突ではなく対話を意識する。
Q3. 自分がチームリーダーやマネージャーの場合、リチーミングのなかでどう貢献できる?
A: チーム自体を当事者に委ねるのがダイナミックリチーミングの基本です。マネージャーは「環境づくり」や「情報の透明性確保」に注力し、メンバーが自己組織的にチームを組めるよう支援することが重要な価値となる。
5. 全体を踏まえた感想:「変化するチーム」とどう向き合うか
今回のイベントでは、「チームを壊すな」というアジャイルの常識と、一見逆行するようにも見える「リチーミング(チームを再編する)」の発想がどのように両立するのかが大きなテーマになりました。
ポイントは、他者による「強制的な組み替え」ではなく、当事者が主体的にチームをダイナミックに変化させていくという考え方です。人や組織には常に感情やモチベーションが存在し、決してコマ扱いするべきではありません。むしろメンバー個々の希望や意思を尊重しながら、組織としての「全体最適」を模索していく。その道筋を具体的に示すのが、『ダイナミックリチーミング』の大きな価値だと感じられました。
また、アンチパターンとして紹介される事例は、多くの企業が実際に取りがちな手法でもあります。読んでみると「これはウチの会社そのものだ……」とヒヤリとするかもしれませんが、そのギャップこそ学びの原動力です。マネージャーだけでなく、メンバーこそがチーム編成に声を上げる。そして会社やリーダーは、それを聞き入れる土壌を作る。そうした相互作用が、ダイナミックな組織づくりを実現する鍵になるのでしょう。
長瀬さんも繰り返し強調していたように、「変化」は避けられないし、そもそもアジャイルも「変化」自体を前向きに捉えます。自分たちが最適だと思っているチームにいつまでも固執するのではなく、常に流動的にチームを調整していく視点を身につければ、「組織いじり=誰かによる嫌がらせ」ではなく、「みんながより成長し、よりハッピーに仕事をするための手段」として活用できるはずです。
今回の勉強会で「ダイナミックリチーミングって何だろう」と思った方は、ぜひ本書を手に取り、さらに深いアイデアや具体的なエクササイズを探求してみてください。
イベント全体を終えて:変化する世界で、チームをどう育むか
『ダイナミックリチーミング』は、チームと個人が変化の波を主体的に乗りこなすためのヒントに満ちています。なかでも印象的なのは、「強制的な組織変更」による混乱を否定しつつも、「チームには変化がつきもの」という事実を前向きに捉えている点です。 メンバーの意思と組織の目標を両立するための工夫やパターン、そして“絶対にやりがちなアンチパターン”を知っておくだけでも、次に訪れるチーム再編の場面で大きな差を生むでしょう。 勉強会後も、参加者からは「まさに自分の会社で起こっていることだ」「どうやって声を上げるかヒントが見えた」などの声が寄せられ、チーミングや組織論に関心のあるエンジニアが多いことがうかがえました。 本書は管理職だけでなく、「組織に属する全エンジニア」に読んでもらいたい一冊です。今後もForkwell Library は、チーム論から技術論まで幅広いテーマを取り上げていくとのこと。日々の開発に役立つ新たな気づきを得たい方は、次回以降のイベントも要チェックです。
Yardでは、AI・テック領域に特化したスポットコンサル サービスを提供しています。
興味がある方は、初回の無料スポットコンサルをお申し込みください。
また、資料請求やお問い合わせもお待ちしております。テック領域の知見を獲得し、事業成長を一緒に実現していきましょう。
Read next
Loading recommendations...