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「ストリートコーダー - Forkwell Library #91」イベントレポート
2025年4月23日に開催された「ストリートコーダー - Forkwell Library #91」は、技術書『ストリートコーダー』を題材としたオンライン勉強会でした。Forkwellが定期開催しているForkwell Library シリーズの第91回目にあたり、今回も書籍のエッセンスを深く掘り下げるだけでなく、実践的なノウハウや“ストリート(現場)”で培われた経験を共有する盛りだくさんの内容となりました。
本レポートでは、登壇者のお二人(高田 新山 氏、秋 勇紀 氏)の発表内容を軸に、当日の模様をまとめます。特にイベント後半のQ&Aでのやりとりには、現場感のある具体的な質問が数多く寄せられ、まさに「ストリート」で通用する知恵が存分に語られました。参加者の皆さまからのリアルな声を交えながら、本イベントの魅力を振り返っていきます。
第1章: イベント概要
開催の狙い
Forkwellが定期的に行っている「Forkwell Library」は、 「つぎの一歩が見つかる、気づきと学びの場」 をテーマに、エンジニアの知識アップデートを支援する勉強会シリーズです。書籍の著者・訳者・実践者を招き、開発者が直面する課題を幅広い視点で学ぶ機会を提供しています。
今回取り上げられたのは『ストリートコーダー』。
教科書に載っていない“裏ワザ”
現場の問題をしなやかに突破する思考法
これらが多く詰め込まれた一冊であり、長年プログラミングに携わってきた訳者の方々が、それぞれの現場で蓄積してきた“地に足のついた知識”を紹介する内容でした。
登壇者
高田 新山(shiz) 氏 LINEヤフー株式会社 OSPO / iOSエンジニア。 Swiftを中心にモバイル開発を行いながら、オープンソース関連の新たな挑戦にも携わる。また、これまでに数々の技術書を翻訳してきた。『ストリートコーダー』の訳者の一人。
秋 勇紀(freddi) 氏 LINEヤフー株式会社 モバイル・ディベロッパーエクスペリエンスチーム所属。 大学3年生の頃から現場を経験し、Swift、AI、サーバサイドなど多分野を横断するエンジニア。こちらも同書の訳者を務めた。
高田さんと秋さんは、すでに複数の技術書を共に翻訳してきたコンビであり、『ストリートコーダー』では4冊目の共著翻訳となるそうです。長年のタッグならではの息の合った解説に、参加者も大いに引き込まれました。
第2章: 基調講演「ストリートコーダー」とは何か
現場(ストリート)で活きる技術と思考法
冒頭では「ストリートコーダーとはどんなエンジニアなのか?」が大きなテーマとなりました。本書では、実務の厳しい要求を“理不尽”と感じつつも、そこから生まれる知恵や思考法を身に付けたエンジニアを「ストリートコーダー」と呼んでいます。
例えば、
「1週間かかる作業を午前中に終わらせろ」という無茶ぶり
急な仕様変更に即座に対応する必要
使ったことのないフレームワークをすぐに導入しなければならない
こうした要求をなんとか成し遂げる過程で、最小限のコード修正で最大限の成果を出すための判断力が養われていくのだといいます。
著者の思いと日本語版へのこだわり
本書の原著者はセダット・カパノール氏。
トルコ出身で幼少期からプログラミングを学び、SNS構築やWindows Core OS部門エンジニアを経た多彩な経歴。
「ストリートコーダー」というタイトルは、日本のゲーム文化、特にストリートファイターへのリスペクトから来ている。
訳者のお二人も、原著者のユーモアやゲーム的エッセンスを損なわないように翻訳するため、「注釈」を多く入れるなど細心の注意を払ったとのことです。独特な小ネタや比喩表現が散りばめられており、邦訳版ならではの分かりやすさが際立ちます。
第3章: 書籍を通じて学べる“現場の知恵”
1. ベストプラクティスの落とし穴
「デザインパターンをやたら使う」 「重複を嫌いすぎて、共通化ばかり進める」
…こうした教科書的に「良い」とされることを、仕組みを理解せずに取り入れようとすると、かえってコードが硬直化し、変更に弱くなる危険を指摘しています。
秋さんは、自身のiOS開発経験を振り返りつつ、「ベストプラクティスだからと飛びつくのではなく、なぜその手法が生まれたのか、どういう文脈で使うのかを理解することが重要」と強調。現場の洗礼を受けてはじめて、コード品質やデザインパターンを“正しく使う”力が養われる、と語りました。
2. 「壊れてないなら壊せ」の真意
書籍中には「壊れていないコードでもあえて壊す」という一見挑発的な言葉が登場します。しかしこれは大規模なリファクタリングを一気にやれということではなく、「将来的な運用コストの削減や、技術的負債の解消のために段階的な改修を検討しよう」というメッセージでもあります。
リファクタリングでコードを美しくするのが目的ではない
スループット(一定期間にどれだけ成果が出せるか)を高めることが根幹
目的と手段を取り違えず、段階的にコードを見直すロードマップをチームで共有する
そのうえで、短いイテレーションごとに効果を計測し、もし期待ほど改善しなければ「撤退」する柔軟さも大事だとされました。
3. 抽象度と整合性を考える
本書では、SNSなどの大規模サービスの話を例に挙げながら、結果整合性や並列処理をどう扱うかが詳しく解説されています。整合性を常に厳密に保つのか、あるいは一定の緩さを許容して「見かけの最新データを素早く返す」のか――その選択は、プロダクト特性やユーザー体験とのバランスで決まるというのです。
高田さん・秋さんも「モバイルアプリ開発では、とにかくすべてを非同期にしない方がかえってメンテナンスしやすいケースもある」「整合性を厳密に取るためのスレッド管理がかえって複雑化を招く」と、実体験に基づいた知見をシェアしていました。
第4章: 訳者ならではの視点と著者からのビデオメッセージ
訳書制作のこだわり
過去に複数の技術書を共に翻訳してきたお二人は、今作でも原文への誠実さを第一に心掛けたといいます。著者のユーモア満載の表現をただカットするのではなく、日本語話者向けに分かりやすく補足注釈を入れたり、元ネタになっている映画やゲームの文化的背景を丁寧に説明したりといった工夫が随所に凝らされています。
秋さんは「たまに“これ、言っていることわかるかな?”と一瞬思うような小ネタもあるが、そのまま残して注釈で補っている」と笑いながら語り、「読み物としても面白い仕上がりだ」とアピールしました。
著者セダット・カパノール氏からの動画コメント
イベントの最後にはサプライズとして、原著者セダット氏から日本語版読者へのビデオメッセージが上映されました。 日本のゲーム文化に強い愛着を持つ氏が、 「日本のエンジニアの皆さんに読んでもらえてとてもうれしい」 と熱いメッセージを寄せたことも、参加者の心を大いに惹きつけたようです。
第5章: Q&Aの盛り上がり
講演終了後のQ&Aパネルでは、視聴者から次のような実践的な質問が多数寄せられました。
「壊れていないコードを壊す」際に、ビジネスサイドをどう説得する?
大規模リファクタリングは一度にやりすぎない。段階的に小さく実施し、効果測定しながら進める。
数字や将来のスループット低下リスクを根拠として提示し、周囲が気づきはじめたタイミングを捉える。
オーバーヘッドの見える化を始めるなら、どの指標を先に取るべき?
開発チームやサービスの状況によるが、取れるものはまとめて計測しておき、優先度をつけて運用する例が多い。
アラートが多すぎると目が届かなくなるため、ダッシュボードや通知を定期的に「お掃除」する取り組みも大切。
生成AIなど新しいツールが登場したとき、どこまで低レイヤーを学ぶべき?
AIがコードを書ける時代でも、本当にバグが起きたときの原因を探るには、やはり仕組みの理解が重要。
メモリ管理やOSレイヤーの知識は、いざというときのデバッグに強みを発揮する。
いずれのやりとりからも、「理想的なコード」より「現場の成果」を重視しつつ、最適な落としどころを探っていくアプローチの大切さがうかがえました。
第6章: 全体を踏まえた感想 〜自分なりの“ストリートコーダー”を目指す〜
今回の「ストリートコーダー - Forkwell Library #91」は、単なる書籍紹介にとどまらず、実際に“ストリート”を生き抜いてきたエンジニアの体験談がふんだんに披露された、大変濃密な勉強会となりました。
「ベストプラクティスも文脈しだい」 「目的がスループット向上ならば、コードの美しさが先行しすぎないよう注意」 「将来の負債は小さなリファクタリングを重ねながら解消する」
どれも、“理想”と“現実”のギャップに悩むエンジニアにとって、胸に刺さるメッセージではないでしょうか。
参加者から寄せられた質問にも表れているように、ソフトウェア開発は絶え間ない試行錯誤の連続です。そこにこそ、教科書にはない生々しいノウハウや、業務の切実さから生まれる知恵が隠れています。まさに著者セダット・カパノール氏が言う「職人としての技を身に付ける」アプローチが、本書の最大の魅力だと感じました。
これから現場に飛び込もうとする初学者の方も、すでに何年も実務を経験している方も、『ストリートコーダー』のエッセンスを手がかりに、自身なりの“ストリートコーダー像” を作り上げてみてはいかがでしょうか。実際にコードを書きながら試行錯誤を重ね、自分のツールベルトに技を増やすプロセスが、エンジニアとしての成長を加速してくれるはずです。
本イベントが、参加された皆さまにとって“学びのきっかけ”となり、次なる挑戦の後押しになったのであれば幸いです。エンジニア同士で知見を共有し合う場を引き続き盛り上げるべく、Forkwellの勉強会も今後ますます開催されるとのこと。次回以降のForkwell Libraryシリーズにも期待が高まります。
以上、「ストリートコーダー - Forkwell Library #91」のレポートでした。現場のリアルを存分に語る本書の魅力を、少しでもお伝えできていれば幸いです。今後も多くのエンジニアが、ストリート(現場)を生き抜くためのヒントを得られる機会が続くことを願っています。
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