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ALGO ARTIS Tech Talk #1 レポート
2025年4月23日に開催された「ALGO ARTIS Tech Talk #1」は、最適化アルゴリズムを使ったサービス開発と、その裏側にあるWeb技術やソフトウェアエンジニアリングの工夫を共有する勉強会でした。配信当日はYouTubeでライブが行われ、実際の開発や運用に携わるエンジニアのリアルな声を聞ける、非常に貴重な機会となりました。
ALGO ARTIS が提供するサービスは、一見「最適化アルゴリズム」という先端技術に注目が集まりがちです。しかし、効率的なアルゴリズムを社会の中で本当に使ってもらうためには、Webアプリケーションとして多様な現場に導入するための「プラットフォーム開発力」や「ソフトウェアエンジニアリングのノウハウ」が欠かせません。本イベントでは、その要となるプラットフォーム開発と、実際に顧客に向き合いながらプロダクトをカスタマイズしていくプロダクトエンジニアの知見が大いに披露されました。
以下では、当日の内容を大きく2つの発表を中心に振り返りながらまとめていきます。Q&Aで触れられたポイントも交え、リアルな開発現場の空気を感じていただければ幸いです。
第1章: イベント概要と会社紹介
イベントの狙い
ALGO ARTIS は「社会基盤の最適化」をミッションに掲げ、計画業務における高度な最適化ソリューションを提供しているスタートアップです。 今回の Tech Talk では、以下のようなテーマを中心に、ソフトウェアエンジニアや業務システムに興味を持つ方々に向けて情報を共有する狙いがありました。
最適化アルゴリズムだけではない重要性 アルゴリズム開発に注目が集まるが、実際の社会実装には Web技術・ソフトウェアエンジニアリングが不可欠。
プラットフォームを活かした開発 ALGO ARTIS 内部で活用している共通基盤(プラットフォーム)は、開発者や顧客にどのようなメリットをもたらすのか。
「Optium(オプティウム)」のプロダクトエンジニアリング 受託の要素も強いカスタマイズ型ソリューションにおいて、複雑な要求とどう向き合い、品質を高めていくか。
スケジュールと登壇者
12:00 - 12:10 運営からのお知らせ
12:10 - 12:25 発表① (登壇者: 古屋 佑樹 氏) 「開発者フレンドリーで顧客も満足?Platformの秘密」
12:25 - 12:30 質疑応答
12:30 - 12:45 発表② (登壇者: 宇藤 恭平 氏) 「プロダクトエンジニアのしごと 〜受託 ✖️ 高難度を乗り越えるプロダクト開発〜」
12:45 - 12:50 質疑応答
2名のソフトウェアエンジニアが、それぞれのチームで果たす役割や、現場ならではの技術的な苦労や工夫を語ってくださいました。最適化領域のイメージを超えて、Webアプリケーションの土台づくりからプロダクトの運用まで、一気通貫の取り組みがうかがえる内容でした。
第2章: 「開発者フレンドリーで顧客も満足?Platformの秘密」(古屋 佑樹 氏)
プラットフォームの重要性
最初の発表では、ALGO ARTIS のプラットフォームチームで活躍する古屋さんが登壇され、同社が抱える共通基盤の特徴を大公開しました。プラットフォームというと、しばしば「開発スピードが落ちる」「自由度が下がる」といったネガティブなイメージを持たれがちです。ところが、ALGO ARTIS では開発者がビジネスのコアに集中できるように、むしろ柔軟かつ高速な開発を可能にする仕組みを用意しているとのことです。
ポイントとして挙げられたのが、「フロントエンドアドオン」「コネクトアドオン」「WASM利用」の3つ。これらは三種の神器のように称されていて、プラットフォームに乗っかりさえすれば、自由度の高いカスタマイズができるうえ、開発からデプロイまで自己完結できるフローが整備されているそうです。
具体的な機能例
フロントエンドアドオン フロントのコードをプラットフォーム上に簡単にデプロイできる仕組み。コンポーネントを別リポジトリで管理し、UIのリリースやロールバックも迅速に行える。
コネクトアドオン 通常はプラットフォーム共通のバックエンド(API)を利用するが、それでは対応できない固有要件を満たすための追加ロジックを“独自のバックエンドモジュール”として配置できる。定期バッチなど、柔軟な処理の実行をサポート。
WASM(WebAssembly)の活用 バックエンドの処理をフロント側に持ってくる際、コードを丸ごとWASM化して再利用できる可能性がある。既存のコードを大きく書き換えずに、フロントで高度な処理を高速に実行することが狙い。
いずれの機能も、共通部分はしっかり管理しながらも、ユーザー(エンジニア)が 「自分たちでやりたいこと」を実装できる 強みがあります。それにより、顧客ごとに大きく要件が異なる最適化サービスでも、的確かつスピーディーに対応が進められているとのことです。
スイッチに例えるプラットフォーム
古屋さんは「まるで任天堂のゲーム機のよう」と表現されていました。ゲーム機本体(プラットフォーマー)がユーザー管理や配信管理をしているおかげで、開発者はゲーム開発の“楽しさ”を最大化できる。ALGO ARTIS のプラットフォームでも、認証・権限・データ管理など基盤的な部分を取りまとめることで、エンジニアがコアロジックに注力できる環境を整備しているというわけです。
発表の最後には「共通化と柔軟性は本来トレードオフになりがちだが、この両立を徹底して追求したのが ALGO ARTIS のプラットフォーム」と締めくくられました。
第3章: 「プロダクトエンジニアのしごと 〜受託 ✖️ 高難度を乗り越えるプロダクト開発〜」(宇藤 恭平 氏)
オプティウム(Optium)とは
後半の発表では、プロダクトエンジニアとして「Optium(オプティウム)」の開発に従事している宇藤さんが、実際のプロダクト開発の現場を解説してくださいました。Optium は、個社ごとにフルカスタマイズされた最適化ソリューションでありながら、業種業態を問わず幅広く導入が進んでいるそうです。
例えば、生産計画や配船計画、陸運の配送計画など、目的と制約が複雑に絡み合う業務を、アルゴリズムとUIで一貫サポートしています。宇藤さんは「アルゴリズムだけでなく、そもそも業務フロー自体が複雑。そこに毎回合わせ込んでいくのが本当に大変」と語っていました。
フルサイクルで関わるプロダクトエンジニア
Optium チームは、アルゴリズムエンジニアやビジネスサイド、デザイナーなど、多彩なロールと連携しながら開発を進めます。その中でもプロダクトエンジニアは、要件定義から実装、テスト、運用サポートまで、“フルサイクル”で責任を持つ点が特徴だといいます。
要件定義とユーザーリサーチ 複雑な制約や、既存の業務プロセスをヒアリングし、整理するところから始まる。
UI/UXの検討 業務担当者が編集や確認を行いやすい画面設計を行い、デザイナーとモックアップを作成。
アルゴリズムとの連携 データスキーマをどうするか、計画データをどのようにインプットし、どう出力するかを協議。
デプロイ・運用サポート 新しい機能を実際にユーザーが使い始めたら、運用時に起こる疑問や改修依頼にも対応。
「どこか単一の業務だけをやるのではなく、常に全体を俯瞰しながら前に進める。それが大変でもあり、やりがいでもある」とのことでした。
プラットフォーム×プロダクトの相乗効果
Optium は、前半で紹介のあったプラットフォーム上に構築される形で開発されています。特に大きな恩恵として挙げられたのが、以下の3点です。
高速なイテレーション フロントエンドアドオンやコネクトアドオンを使うことで、プラットフォーム担当のリソースを待つ必要が減り、プロダクトエンジニア自身がさまざまな検証を素早く進められる。
実装技術の自由度 それぞれのプロダクト固有要件に合わせて、フロントでもバックでも自由に言語やライブラリを選べる。
継続的な改善 プラットフォーム側にも気軽に要望を届けられるため、全体の使い勝手や機能の汎用性が段階的に高まっていく。
繰り返しになりますが、最適化業務はビジネスロジックが重厚になりがちです。にもかかわらず、プラットフォーム×プロダクトという役割分担でダイナミックなカスタマイズと安定した共通機能の両立を実現している点が印象的でした。
第4章: Q&A から見えたリアルな現場の声
イベント終盤には視聴者から寄せられた質問に対して、登壇者のお二人が回答するQ&Aセッションが行われました。いくつか抜粋してご紹介します。
Q1. フロントエンドアドオンとコネクトアドオンは相互に独立して開発できますか?
回答要旨: フロントとバックを共通で一枚岩にせず、あえてインターフェースで抽象化しているからこそ、リリースサイクルを切り分けられるようになっているとのこと。プラットフォームが定義するデータスキーマやAPI形式は守りつつも、その範囲内であれば自由に開発可能なので、サービス単位でスピード感を持って進められるそうです。
Q2. WASMの利用でコスト削減を狙うケースは多い?
回答要旨: まだ本番運用で大々的に使っているわけではないが、確かにデータ量が多い案件や、フロント側で高速処理したい要望があるときに有効だと考えているそうです。さらに、フロントでPDF帳票を生成するといったプロトタイプも検討中とのことで、今後の展開が注目されます。
Q3. プラットフォームチームは何人ぐらい?
回答要旨: 現在は6名ほどで活動中とのこと。フロント担当やバック担当など、役割を分担して高速に開発を進めているそうです。今後、利用案件の拡大に応じてチーム体制も柔軟に変化していくことが期待されます。
Q4. 実際にどこが複雑で大変なの?
回答要旨: 最適化アルゴリズム自体も難しいが、業務フローの違いや習慣的なルールと向き合う必要がある点が最も大変だとされています。複数の担当者が並行して計画を編集するような場面では、バージョン管理やコンフリクト処理をどう実装するかが課題になるそうです。
Q5. プロダクトエンジニアは案件ごとに何人で回している?
回答要旨: 基本は1案件に1名がメインエンジニアとして入る体制が多いが、Optiumグループ全体でヘルプを出し合う風土があるとのこと。要件の複雑度などによっては数名体制にもなるが、フルサイクルで関わるスタイルが根付いているため、少人数でもプロジェクトを動かしやすいそうです。
Q6. リスクは何を表している?
回答要旨: 「リスク」というより「不確実性」と捉えて、プロトタイプを迅速に作り、ユーザーに確認しながら要件を詰めていくことを重視しているとコメントがありました。運用開始後もユーザーの声をすぐ反映できる体制が整っていることで、大きなリスクを事前に小さくしていく形をとっているそうです。
第5章: 全体を通して感じたこと 〜「柔軟」と「徹底」の両立〜
今回の「ALGO ARTIS Tech Talk #1」を通じて、最適化ソリューションの開発が単純にアルゴリズムを組めば終わる話ではないことが、改めて見えてきました。 高度なロジックをいかに社会の中で“使ってもらう”か。そのためには、柔軟なプラットフォームと現場に寄り添うプロダクトエンジニアが必要不可欠です。
プラットフォームを徹底的に作り込みながらも、サービス個別のカスタマイズに対しては開発者に大きな自由度を与える。その両立の難しさに挑み、成果を上げているところに、ALGO ARTIS の強みを感じました。
また、プロダクトエンジニア自身がフルサイクルで開発に携わり、顧客の声を直接取り込みながら機能を作り上げている点も印象的です。配信中にも語られていたように、「プラットフォーム担当とプロダクト担当がお互いをサポートする」カルチャーが社内に根付いていることも、継続的な成長の大きな要因でしょう。
複雑な要件や次々と生じる課題に対しても、技術や組織体制を柔軟に変化させていく力こそが、彼らの強み。今回の Tech Talk は、最適化×Web技術のエンジニアリングに興味がある人にはもちろん、今後拡大していく社会基盤のIT化を見据えている人にも多くの示唆を与えてくれる内容だったと感じます。
今後も ALGO ARTIS のイベントやブログなどで、さらなる技術情報や開発事例が発信されるとのことです。最適化に限らず、複雑な問題にソフトウェアで挑む姿勢に興味を持たれた方には、ぜひ次の情報にも注目してみてはいかがでしょうか。
以上、2025年4月23日に開催された「ALGO ARTIS Tech Talk #1」のレポートでした。今後も彼らがどのように「社会基盤の最適化」を進めていくのか、ますます期待が高まります。
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