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クルマのデータが社会課題を解決する!? ~BEV充電設備や渋滞末尾検知など、社会実装に向けたTOYOTAのデータ活用事例レポート~
はじめに
2025年3月3日に開催された「クルマのデータが社会課題を解決する!? BEV充電設備や渋滞末尾検知など、社会実装に向けたTOYOTAのデータ活用事例を詳細解説!」は、トヨタ自動車株式会社が長年にわたり取り組んできたコネクティッドカーの膨大な車両データを活用し、社会や地域、さらにはドライバーに新たな価値を提供する取り組みを幅広く紹介するオンラインイベントでした。 今回の登壇者は6名で、研究開発部門とビジネス推進部門のそれぞれから実際の事例や技術背景、今後の展望が語られました。自動車メーカーとしてのトヨタが、実際に「渋滞の末尾をリアルタイムに検知する仕組み」と「BEV(電気自動車)の充電設備を最適に配置するための解析」をどう実現しようとしているのかが、非常に具体的かつ熱量高く披露され、視聴者から多数の質問が寄せられました。
本レポートでは、セッションの内容を章ごとに追いかけつつ、トヨタ自動車が見据える“モビリティ社会のデータ利活用”の最前線についてまとめます。さらにQ&Aの注目ポイントも交えてお伝えします。
オープニング:コネクティッドカーがつなぐデータの可能性
最初に登壇した長さんからは、トヨタ自動車が取り組むコネクティッドカーのデータ収集基盤の全体像や、各種社会課題への活用の方向性が示されました。
車両データ コネクティッドカーは走行中の位置情報や車速、ブレーキ/アクセル操作など、多岐にわたるセンサー情報をモジュールを通じてサーバへ送信。車1台につき1日3MBほどのデータが得られ、将来的には月間1.1PBからさらなるオーダーへ拡大する見込み。
活用イメージ 車両データは他の産業や自治体データとの組み合わせで、交通事故削減や渋滞緩和など社会課題の解決に大きく寄与できる。さらに安全で快適な移動を実現する技術の基盤にもなる。
この大きなビジョンが今回の2つの具体的事例(渋滞末尾検知とBEV充電設備配置)へと繋がっていく流れに、視聴者も期待を膨らませていました。
ケーススタディ①:高速道路の渋滞末尾検知
背景とニーズ
「高速道路の情報表示板などに、よりピンポイントな渋滞位置をリアルタイムに表示したい」という要望が道路管理者などから寄せられたことが発端。既存システムでも渋滞は検知できるものの、センサ設置コストが高かったり、区間表示が大まかになりやすいという課題がありました。
技術的アプローチ
データの内容 コネクティッドカーから得られる位置座標と車速を利用し、低速車両が“どのあたりに集中しているか”をクラスタリングする。
渋滞末尾を求める流れ
走行データから車速が低い点群を抽出
点群の中で時空間的にまとまっているクラスターを特定
カルマンフィルタによって“最もらしい渋滞末尾”を推定
システム構成と今後の展開
渋滞末尾検知システムは、カフカやSpark、AWS Lambdaなどで構築。リアルタイム性とコストの両立が課題だといいます。
今後は実フィールドでの試験運用を通じ、誤検知率や予兆検知の精度などを高めたいとのこと。Q&Aでは「Googleマップなどの既存交通情報との差別化は?」や「需要が急変した事故など突発的渋滞への対処は?」といった意見も寄せられ、実用化への期待が高まる印象を受けました。
ケーススタディ②:BEV充電設備の最適配置
BEV普及と充電スタンドの課題
次に登壇した松坂さんからは、BEV(電気自動車)の充電設備をどこに設置すればユーザにとって便利で、かつ設備の稼働率が見合うのかを解析した事例が語られました。
背景 日本では電動車の販売割合を2030年に20~30%へ引き上げる目標があるものの、実績は2.8%にとどまり普及が遅れがち。理由には「充電スタンドの場所が不便」「充電に時間がかかる」などが挙げられる。
仮説 本当に必要な場所に充電スタンドを増やせば、利用者は安心してBEVに乗れるようになり、普及を後押しできるはず。
充電需要の定量化
シンプル案 過去の充電回数を区間ごとに集計し、多い場所ほど“需要が高い”とする。しかし、現状の充電スタンドが少ない故に、そもそも“0回”になる区間が多数存在。
改良案 車両走行データ全体から「走行中の充電残量が少ない車がどの区間を通過したか」で需要を推定するアプローチ。これにより“潜在的に充電したい”場所を可視化し、都市部や長距離路線などにニーズが集中している様子が把握できた。
今後の展望
将来的には「ガソリン車がどれだけBEVに置き換わるのか」「どのような施設が近くにあると充電が効果的なのか」など、多くの要素を考慮した配置最適化へステップアップしたいとのこと。Q&Aでは「自宅充電 vs. 外部スタンド充電の使い分けが読みにくい」などの意見もあり、まだ分析の余地は大きいと感じられました。
Q&Aで深まった視点
イベント後半は質疑応答が活発に行われました。その中で特に印象的だったのが以下の話題です。
コストとリアルタイム性のバランス 車両データの通信量削減とリアルタイム要求はトレードオフ関係にあり、どの程度の更新頻度でどの項目を取得するか慎重な設計が必要とされる。
プライバシーとセキュリティ ビジネス面では「個人が特定できない統計化」「オプトアウトへの対応」を徹底しつつ、技術面でも「必要最小限のデータのみ取得」や暗号化・運用ルールの整備を行っている。
異業種からの転職やキャリア 複数の登壇者が、自動車の知識ゼロで入社している。実際にはスキルを活かせる多様な部門や文化があり、リモートワークやフラットなコミュニケーションが定着しているという。
こうした質問への応答を聞く限り、トヨタには想像以上に幅広いテクノロジー・ビジネス領域が存在し、外部との協業や新規事業も盛んに進められていると分かりました。
組織とキャリアについて
発表の最後には2つの部門の組織が紹介されました。
社会システムプラットフォーム開発部(INFOTECHAS) ビッグデータ活用の研究開発を行い、社内外での教育や先端技術検証を担う。医工学・AI・クラウドなど多様な専門家が集い、150名以上の規模に拡大中。
DSデータ事業推進室 車両データをビジネスサイドへ“つなぐ”ことを担う部門。統計データの活用を軸に3つの産業(3間学)と協業し、社会課題解決や新価値創造にコミットする。実際のサービス企画から収益化まで行う点が特徴。
いずれも従来イメージしていた「製造業としてのトヨタ」とは異なる仕事の仕方で、キャリア採用者や新卒を積極登用し、データと技術を活かした価値創造を加速させているようです。
全体を踏まえた感想
新たなモビリティ社会の実現へ
自動車メーカーといえば「クルマづくり」に注力している印象が強いかもしれませんが、今回のイベントを通じて、トヨタ自動車がいかに “データづくり”と“社会づくり” に重きを置いているかが浮き彫りになりました。
渋滞末尾検知 コネクティッドカーのリアルタイム走行データを用いて、既存より細やかかつコストを抑えた渋滞情報を生成。発生から解消までの正確な位置把握により、道路利用者への情報提供をアップデートできる可能性が広がる。
BEV充電設備の最適配置 ガソリン車とは異なる利用実態を可視化し、潜在的に充電したいニーズを推定することで、無理なく効果的に充電ステーションを拡充できる道を切り開いている。
いずれの事例も、車両データを社会基盤へ繋ぐことで新たな価値を創出するものでした。そしてQ&Aで得られたように、実際には通信コストやプライバシー、システムのリアルタイム要件など、技術・ビジネスの両面でまだまだ挑戦が必要です。 しかし、数多くの車両から毎日アップロードされるビッグデータを軸に、新しいモビリティ社会の可能性が大きく開かれているのは間違いありません。“次世代のクルマづくり”は、“社会づくり”そのものなのだと実感できる内容でした。
トヨタとしても、今回の事例はまだ一端。実際は「道路行政」「自治体」「企業パートナー」「アカデミア」など、多面的な協業を加速させる取り組みが進んでいるそうです。 クルマから生まれるデータ が、そのまま 街のインフラや地域活性化、さらには環境問題の解決 にまで結びつく——そんな未来に向けて、トヨタが描くビジョンを垣間見ることができたイベントだったといえます。
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