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Qiita Night~エンジニアリングマネジメント~ レポート
はじめに
2024年12月6日に開催された「Qiita Night~エンジニアリングマネジメント~」は、エンジニアに向けたオンラインLTイベントとして、多岐にわたる視点から“エンジニアリングマネージャー”のあり方や組織作りのヒントが共有されました。今回の登壇者は 5名。それぞれが実務の中で培ってきた知見を熱量高く語り合う場となり、チャットやコメントも盛り上がりました。
本レポートでは、主催者のオープニングトークから始まり、各登壇者の内容を追いかけながら印象的だったポイントをまとめます。さらに途中出てきたQ&A(質問タイム)で話題になった内容も交えつつ、イベントを振り返ります。
オープニング
はじめに、本イベントの運営より「Qiita Night」の概要が紹介されました。Qiita Night とは、エンジニアコミュニティ「Qiita」を運営する当社がテーマごとに開催するオンラインLTイベントであり、今回は「エンジニアリングマネジメント」をテーマとしています。
エンジニアリングマネジメントは、プロジェクトやチームの成果を出すために必要な能力ながら、明確な教科書が少なく、日々試行錯誤が絶えない領域です。そこで、今回もマネジメントを実践する5名のエンジニアが集い、それぞれの立場から独自のノウハウや失敗談、学びを語り合う運びとなりました。
タイムスケジュールは以下の通りです。
19:00〜19:05 オープニング(運営)
19:05〜19:15 LT1: 熊谷 遼平(@KUMAN) / READYFOR株式会社
19:15〜19:25 LT2: しゅういちろう(@shuichiro) / 株式会社ビットキー
19:25〜19:35 LT3: 髙森 健太郎 / 株式会社ROBOT PAYMENT
19:35〜19:45 LT4: 山口 祐司(@yug1224) / 株式会社HRBrain
19:45〜19:55 LT5: 山﨑 賢(@yamaken66) / イオン株式会社
19:55〜20:00 エンディング(運営)
登壇者への応援コメントや質問はチャットやX(旧Twitter)のハッシュタグを通じて受け付けるとの案内があり、参加者間での積極的なやりとりが期待されました。
LT1「意思決定の落とし穴から学ぶエンジニアリングマネージャーの教訓」
熊谷 遼平(@KUMAN) / READYFOR株式会社
最初のLTでは、READYFORでVPoE/EMを務める熊谷さんが、意思決定 にまつわる落とし穴について語りました。
主なポイント
エンジニアリングマネージャー に求められる役割は多岐にわたるが、「意思決定」は特に重要。
“意思決定のプロセスに問題がある”と捉えがちだが、実際は「意思決定者自身の心のバイアス」に潜む落とし穴が大きい。
書籍や論文に挙げられる 6つの落とし穴(現状維持バイアス・サンクコスト・確証バイアス・フレーミング・アンカリング・見積もりの罠)を事例を交え紹介。
現状維持バイアス:手動オペレーションに頼りすぎて技術的な解決を先送りにしてしまうなど。
サンクコストの罠:大規模リファクタに投資し続け、引くに引けなくなるケース。
確証バイアス:新技術への興味に囚われ、本来検証すべきリスクを見落とす導入例。
いずれも、マネージャーが「問題分析」「メンバーとの対話」「冷静な引き返し」を行えるかどうかがカギ。
回避策としては “そもそもの罠を理解する” こと自体が大切で、全てを回避は難しいが、意識すれば決定の質は高められる。
教訓:エンジニアリングマネージャーが「意図せず落とし穴にハマる」ことを認識し、さまざまな心理バイアスが存在する点を前提としたチームづくり・プロセス設計を心掛けると良い。
LT2「うまくいく!を実現するための質問力」
しゅういちろう(@shuichiro) / 株式会社ビットキー
続いてしゅういちろうさんは、エンジニアリングマネージャーが行う1on1やレビュー時の「質問力」に焦点を当てました。
主なポイント
日常的に“なぜ?”と尋ねるシーンが多いが、「なぜ?」だけだと聞かれた側に圧がかかる。
“相手に新たな気づきを与え、成長を促す” ような質問を心がけたい。
具体的な工夫例:
「なぜ?」を直接使わず、「どんな工夫をした?」と聞く。
思考プロセスを聞く。「どういうステップで考えた?」と尋ね、言語化を促す。
期待効果を尋ねる。「この提案で一番変わるポイントはなんだろう?」と問い、改善点を見出す。
これにより相手自身も無意識の強み・工夫に気づき、言語化・再現が進む。質問を通じて“褒めポイント”も明確になり、会話がポジティブに。
教訓:何気ない場面でも、質問を少し工夫し「相手の言語化」「相手自身の気づき」を促せば、チームメンバーの成長を後押しできる。そうした質問力が、エンジニアリングマネージャーにおける重要なマネジメントスキルの1つ。
LT3「ハッカソンを通じたエンジニアリング組織の強化」
髙森 健太郎 / 株式会社ROBOT PAYMENT
3人目の髙森さんは、社内で実施した ハッカソン を題材に、“エンジニア組織強化”をどう実現したかを共有しました。
主なポイント
ロボットペイメント社のエンジニア組織 が抱える主な課題:
新しい技術への挑戦機会が乏しい
部署横断のコミュニケーション不足
個人アイデアがプロダクトに反映されづらい
エンジニアが社内へ活躍をアピールする場が少ない
そこでハッカソンを企画。テーマ設定として「プロダクト価値向上」「リファクタリング・リアーキテクチャ」「業務改善」「スキルアップ」などを提示。
期間は短かったものの、運営側がチームビルドのマッチング会などを実施し、最終的に13名・4チームが参加。
成果:
すべてのKPI(参加人数・部署連携数・発表アイデア数など)を達成。
参加者の満足度が高く、社内公開発表も社員約60名が視聴し、エンジニアの活動を可視化できた。
今後の継続課題:
企画の告知〜実施まで余裕を持つ期間が必要。
技術的テーマが観覧者に分かりにくい場合もあり、発表フォーマットの工夫が要る。
教訓:短期間でもハッカソンを通じて「挑戦の場」「チーム連携」「アイデア発信」「社内へのアピール」を実現できる。少しの運営サポートを付けるだけでエンジニア組織への好影響が得られるため、有力な施策だと言える。
LT4「メンバーの成長速度にバフをかける1on1ミーティング」
山口 祐司(@yug1224) / 株式会社HRBrain
4人目の山口さんは、大量の1on1 を実践するエンジニアリングマネージャーとして、実際のやり方や工夫を紹介しました。
主なポイント
対象人数40人前後、頻度2~4週ごと、1回30分の1on1を大量に行う。
「課題の指示出し」ではなく、相互での情報交換やファクト分解を重視 している。
1on1では疑似録を必ず自分の手で残し、数回前との変化を確認。相手の言葉を自分なりに整理して書くことで、真の状態を掴む感覚が得られる。
コンディションチェック(晴れ・曇り・雨)や思考プロセスの深掘り、期待効果を質問するなどを通じ、相手自身が言語化&気づきを得やすいよう促す。
「他人を変えようとせず、信頼して待つ」「必要あれば長期間かけて微妙な変化を一緒に追う」といった姿勢も重要。
教訓:大量の1on1は一見負担だが、実際はそこから生まれるメンバー成長が大きい。相手が言語化して自分なりの成長ポイントに気づく支援こそが、エンジニアリングマネージャーとしての“バフ”となる。
LT5「これからのエンジニアの価値とエンジニアリングマネージャーの存在意義」
山﨑 賢(@yamaken66) / イオン株式会社
最後の山﨑さんは、マネージメントやCTOを数多く経験した中で感じる、エンジニア市場のこれから や、それに伴うエンジニアリングマネージャーの意義について語りました。
主なポイント
近年の技術進化(AIやクラウドSaaS等)により、コーディングやインフラ運用などがどんどん“効率化”されている。
教育体制の普及などでエンジニア数が増え、技術的な専門性のハードルが平準化 する時代が来る。
今の「売り手市場」がこれからもずっと続くかは疑問視される。
エンジニアリングマネージャー は、人材の成長や価値向上に注力することで「組織×個人」の両方を引き上げる役割が求められている。
技術スキルだけでなく、個々のキャリアの方向性や社会全体での需要に適応できるエンジニアをどれだけ育成できるか。ここがマネージャーの真価。
教訓:この先エンジニア市場が飽和していくリスクを考慮すると、「人と向き合い、専門性だけにとどまらない成長を支援する」のがエンジニアリングマネージャーにとって重要な役割。個々の市場価値向上にコミットしつつ、組織としての成果も最大化していくリーダーシップが必須。
短いQ&Aピックアップ
今回のイベントでは、各LTの後などにチャットを通じて質問が寄せられ、いくつか回答もありました。主な話題としては:
Q1. 1on1のとき、文字起こしツールを使ったりしていますか?
A(山口氏): ツールで自動取得すると便利そうに思えるが、自分はあえて「聞きながら手入力」で疑似録を残している。相手の発言を自分の言葉で再度まとめ、要点を把握しやすくなるメリットがある。
Q2. どれだけ多くのメンバーと1on1をするべき?時間の確保が難しくないか?
A(複数意見): 組織規模によるが、30~40名規模ならエンジニアリングマネージャーが2週~4週おきに全員と30分ずつ行う例が見られる。負担は大きいが、メンバーのパフォーマンスや満足度向上が得られ、結果的にマネージャーのアウトプットにつながる。
全体を踏まえた感想
「連鎖するマネジメントの力」
「エンジニアリングマネージメント」というキーワードからは、プロジェクト管理や技術的リーダーシップを想起しがちです。しかし、本イベントを通じて浮かび上がったのは、
意思決定の質を高める
メンバー同士のコミュニケーションを強化する
個々が自分の成長に気づき、ワクワクできる場を設計する
といった、より“人”に寄り添う仕事の面白さでした。1on1やハッカソンなどの仕組みを活用することで、エンジニア一人ひとりにスポットライトを当て、アイデアや学習意欲を引き出し、組織全体の活力を生む連鎖 が生まれる——それがエンジニアリングマネージャーの存在意義でもあると感じます。
一方、AIやクラウドによる技術的な平準化が進む未来像も示唆され、「人を育てる/人を活かす」マネージメントが、エンジニア組織の大きな差別化ポイント になる可能性が高いのではないでしょうか。
エンジニアリングマネージャーをすでに務めている方も、これから目指す方も、ぜひそれぞれのLTやQ&Aで語られたポイントを自分なりに消化し、現場での挑戦に活かしてみてください。成長するエンジニアが増えるほど、組織も業界も、そして技術の未来も、より豊かな方向へと導かれるはずです。
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