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エンジニアが一生困らない ドキュメント作成の基本 - Forkwell Library#73 レポート
はじめに
2024年11月7日、「エンジニアが一生困らない ドキュメント作成の基本 - Forkwell Library#73」というオンラインイベントが開催されました。Forkwell Library シリーズの一環として著者をお招きし、話題の新刊を深掘りする形式です。今回は、スマートHRでUXライター・テクニカルライターを務める 仲田 尚央 氏にご登壇いただき、自著『エンジニアが一生困らない ドキュメント作成の基本』の要点を解説していただきました。
エンジニアにとって、ドキュメントは「書きたくて書く」ものではなく、「必要に迫られて仕方なく書く」ものだと思われがちです。しかし、必要な情報を必要な形で伝えることは、プロダクト開発やナレッジ共有の場面で欠かせない要素です。今回のセッションでは、効率的でわかりやすいドキュメントを作成するための 設計・構成の大切さ に焦点が当てられました。本レポートでは、その講演内容を整理してお届けします。
1. ドキュメントを作るうえで大切なこと
1.1 目的に応じた情報を効率よく正しく伝える
ドキュメントとは、エンジニアが日々扱う要件定義書やバックログ、マニュアル、報告書、企画書など、さまざまな形があります。これらに共通するのは、「何らかの目的を果たすために書き、読む」ということです。たとえば、マニュアルであればプロダクトの使い方を伝える、企画書であれば提案内容を理解してもらい行動を促すなど、いずれも目的が明確に存在します。
ドキュメントが目指すのは、読者が必要とする情報を正しく、しかも効率よく得られる状態を作ること。すなわち、読み手に負担なく情報を伝える構成と文章が不可欠です。
1.2 情報を分解して整理する
ドキュメントで扱うテーマは大きくて複雑になりがちです。そこで重要なのが、テーマを「Why」「What」「How」の3要素に分解すること。
Why(なぜ必要か) 利用目的や背景、意義など。「どうして、それを扱う必要があるのか」を示す。
What(何なのか) 機能の概要、目標、全体像など。「何ができるのか」を伝える。
How(どうやるか) 手段や操作手順、具体的なやり方など。「どのように行うか」を説明する。
たとえばマニュアルであれば、「なぜこの機能が必要なのか」「その機能は何ができるのか」「実際の操作手順はどうなっているか」という構造に分けられます。
さらに、複雑なテーマの場合は、全体から部分へ(機能や構成要素での分解)あるいは概要から具体へ(具体例での分解)といったアプローチで、小さな要素にわけていきます。その際には、ドキュメントの読み手が「どの情報をどの順番で欲しいか」を考えることが大切です。
2. アウトラインの作り方
2.1 アウトラインとは
大きなテーマを分解したら、次は見出しの階層構造を組み立てる段階に入ります。これを「アウトライン」と呼びます。見出しを階層的に並べておくと、書く人にとっては「どこに何を書くか」が明確になり、読む人にとっては「どこを読めばいいか」がひと目でわかるため、両者にメリットをもたらします。
アウトラインを作るうえで、下記のステップを意識すると効果的です。
全体の要素を並べ替える
「未知から既知へ」「時系列」「重要度順」「ニーズの大きさ順」など、読み手に伝わりやすい並びを考える。
見出しをつける要素を決める
情報量が多い要素は1つの見出しとして独立させる。少ない要素はまとめて1つの見出しに。
見出しのタイトルを具体的に
読み手が見出しを見ただけで、概要や目的がつかめるようにする。「管理者ができること」「公開チャットはこんな時に使える」のような形が望ましい。
見出しだけを読んで流れを確認する
見出しをざっと追ったときに、ドキュメントの趣旨や情報の位置づけが自然にわかるかを確かめる。
2.2 見出しだけで要点を伝える
「注意」や「概要」など、抽象度が高すぎる見出し名だと、内容を推測しづらくなります。たとえば「削除したデータは復旧できません」のように、具体的なフレーズを見出しにすると、読み手は本文を読まなくてもある程度把握できます。こうして見出しだけで内容の流れを把握できるアウトラインを作ると、目的の情報にすばやくたどり着けるドキュメントに仕上がります。
3. 段落(パラグラフ)の書き方
3.1 1段落1話題
アウトラインができたら、いよいよ各段落(パラグラフ)の文章を執筆します。段落は1つの話題をまとめる単位と考えましょう。話題とは「言いたいこと + 補足や理由・具体例」で構成されます。
言いたいこと(結論)
理由や背景(なぜそう言えるのか)
補足や具体例(細かい説明、具体的シチュエーション)
たとえば「スマートフォンは高性能なカメラを備えており、手軽に写真や動画を撮影できます。(言いたいこと)…通勤中でも素早く撮影が可能で、SNSですぐ共有できるメリットがあります。(具体例)」という流れを1段落にまとめるイメージです。
3.2 書き方のステップ
文章を書くときは、以下の手順を踏むとスムーズになります。
パラグラフごとに言いたいことだけ書く
まず段落の要旨を1文で書き出す。これにより、話が散漫になるのを防ぐ。
段落の並び順を確認
言いたいことが論理的に繋がっているか、流れが途切れていないかを段階的にチェック。
理由・説明・具体例を加える
それぞれの段落で「なぜそう言えるか」「どのような説明や事例があるか」を膨らませる。
こうして段落を積み重ねていけば、最終的に「見出し全体ではどのような結論になるのか」が自然に形づくられ、読み手はスムーズに理解できるようになります。
4. Q&Aセッションのポイント
講演後、参加者から多数の質問が寄せられました。主なポイントをいくつか抜粋します。
4.1 メンテナンスの負担を減らすには
「ドキュメントは書けるが、更新が大変」という声は多く、仲田氏も「これはテクニカルライターとしての永遠の課題」と語りました。解決策としては、
更新プロセス自体を開発フローに組み込む (デプロイやリリースのチェックリストにドキュメント更新を加えるなど)
画像や表現の多用は控え、テキスト主体で変更箇所を最小化しやすくする
そもそも大規模ドキュメントを分割し、どこに何があるのかを明確化しておく (必要部分だけ更新しやすい構造)
こうした工夫が挙げられます。
4.2 レビューの仕方と伝え方
複数人でドキュメントを作成・レビューする場合、構成段階で小刻みにレビューを入れると手戻りが減るとのことです。また、指摘をする際は「ここはとても読みやすい」などポジティブな面もコメントし、修正が必須なのか任意なのかを明確にする、という姿勢が大切とされました。
4.3 読み手の想像力を補う方法
「自分が知っていることは相手も知っていると思い込んでしまう」課題については、ユーザビリティテストや現場での確認を積極的に行い、読み手の状況を把握することが効果的だと説明されました。事前に製品や機能を何も見ずに触ってみることで「読まなくてもわかること」「実はわからないこと」を炙り出せるケースがあるとのことです。
全体を踏まえた感想 〜「ドキュメントを設計する」視点で変わる世界
エンジニアにとって、ドキュメントは「面倒」「書いても誰も読まない」と思われがちです。しかし今回のセッションを通じて改めて印象的だったのは、「最初に構成を設計するだけで、書くことがラクになるし、読む人も助かる」という点です。プログラミングにおける設計と同じように、ドキュメント作成にも事前のアウトライン構築が効率化の鍵になるのだと示されました。
実は、初心者や忙しいエンジニアほど、まず文章を書き始めてから試行錯誤しがちです。でもそれだと、途中で「これじゃ伝わらないのでは」と不安になって書き直す悪循環に陥りやすくなります。今回紹介された 「テーマの分解 → アウトライン → パラグラフの展開」 というステップを踏むだけで、書き手・読み手双方の悩みをかなり減らせるはずです。
特に印象深かったのは、ドキュメント全体を「何を」「なぜ」「どうやって」という3要素に落とし込み、さらに見出しだけでも要点が伝わるように意識するやり方でした。そのうえで、パラグラフごとに言いたいことを明確にし、理由や具体例で読み手を納得させる――こうした丁寧な設計が、長期的なメンテナンス性や読み手の満足度まで高めてくれます。
今回のイベントは、エンジニアにとって地味に感じられがちな「ドキュメント作成」を、ひとつのデザイン・設計の領域として捉え直すうえで、大きな示唆に富んだセッションでした。ドキュメントこそ必要最小限でいいはずなのに、なぜこんなに悩ましい作業になるのか――その根本に「初期設計の不足」があることを再確認できたのは貴重な気づきだったのではないでしょうか。
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