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Helpfeel Tech Conf 2025 レポート
1. イベント概要と全体の流れ
「Helpfeel Tech Conf 2025」は、人間と技術の関わり方が大きく変わる時代を踏まえ、Helpfeelが提供する3つのプロダクト(Gyazo、Cosense、Helpfeel)の最新動向や、AIをはじめとする技術的挑戦を共有するカンファレンスとして、2025年4月11日に開催されました。テーマは 「テクノロジーで情報共有をスムーズにし、人の可能性を広げる」 で、多彩なセッションが行われました。
オープニングトークでは、「ヒューマンエンパワメントテクノロジー」というHelpfeelのビジョンがあらためて示され、開発と組織・プロダクトの両面から、どのように人と企業をエンパワーするかが大きな焦点となりました。会場にはエンジニアやプロダクトマネージャーが多数詰めかけ、質問が相次ぎ、名刺交換や情報交換が活発に行われる熱気に包まれていました。
本レポートでは、注目を集めたセッションの中から Keynote と 4つの注目セッション に焦点を絞り、それぞれの発表内容や学びをまとめます。最後に、全体を通じて見えてきた「知をどう活かすか」という視点を軸に、今後の展望を考察します。
2. Keynote 1: Helpfeel開発部のいまと未来2025
2.1 開発部の現在地
Keynote 1では、akiroom氏(執行役員CTO)が登壇し、「ヒューマンとコンピューターのつながりをスムーズに」 という創業期からの思想を紹介しました。2025年時点で開発部は53名(フルタイム37名)に拡大し、3つの柱であるGyazo、Cosense、Helpfeelがそれぞれ大きく成長を遂げています。
Gyazo
月間転送量が1PBに迫ることもある大規模スクリーンショット共有サービス
2,200万を超えるユーザーアカウントが活発に利用している
Cosense
クラウドウィキとして個人・企業での導入が進み、コミュニティとしても拡大
総ページ数は2,000万超、50万ユーザーを超える活発な知識プラットフォームへ
Helpfeel
AI FAQ検索を中心に500サイトを超えて導入が進む
大手企業の問い合わせ削減や顧客満足度向上に寄与
2.2 「3本の矢」とハッカー集団
akiroom氏は、開発組織が成長を続けるためのキーワードとして「3本の矢」を挙げました。
ソリューション新規開発
新プロダクトラインの開拓や長期的な価値創出
顧客要望の実現化
エンドユーザー視点を踏まえた課題解決や機能強化
プロダクトの磨き上げ
技術的負債やUI/UXの改善、高い安定性を維持する仕組みづくり
また、「テクノロジー」「アート」「デザイン」「クラフト」の4要素を統合するハッカー集団として、独自の文化を再定義し、既存の常識にとらわれないサービス開発を進める方針を示しました。
2.3 これからのビジョン
akiroom氏は今後の領域として、AIエージェントや知識管理への本格的なアプローチに言及。多様な技術が登場し、「やりたいことの見つからなさ」「技術の膨大さ」が課題になる時代こそ、Helpfeel開発部が“ハッカーを楽しむ”姿勢で最先端を追いつつ、人を拡張するサービスを追求していくと宣言しました。
3. セッション1: レガシーソフトウェアを再現性高く置き換える手法
登壇者: yokotaso(エンジニア)
3.1 レガシー化の難しさと「射撃しつつ前進」
「レガシーソフトウェアを再現性高く置き換える手法 〜『射撃しつつ前進』を支える技術〜」では、長年にわたりレガシーコードを扱ってきた経験から、動かし続けたいコードへ手を入れる困難さと、それを段階的に解消するアプローチが論じられました。 キーワードは、ジョエル・オン・ソフトウェアでも言及される「射撃しつつ前進」。少しずつ変更し、そのたびにバグを修正しながら前に進むことで、不測の事態を最小限に抑えます。
3.1.1 ハイラムの法則と使用化テスト
yokotaso氏はハイラムの法則を紹介しました。API仕様外の挙動に依存したコードも多く、「仕様に書いていない=使われていない」とは限らないのがレガシー化の要因です。 さらに、使用化テストで現行動作を完全にテスト化することでリグレッションを防ぐ方法が提示されました。予想外の入力に備え、すべてテストに落とし込むのが成功のカギだといいます。
3.2 4つのマントラと手法
レガシー置き換えの核は、「ハイラムの法則」「使用化テスト」「ダークローンチ」「ストラングラフィグパターン」の4要素です。
ダークローンチ
実運用を止めずに新コードを“影”として走らせ、挙動を比較する
ストラングラフィグパターン
古いシステムの依存を段階的に減らし、問題があれば素早く戻せる設計
3.3 移行計画のケーススタディ
Helpfeel内部での日付処理ライブラリや全文検索サーバー移行の例が示され、以下のステップで進行しているとのことです。
旧動作のトレース(ハイラムの法則+使用化テスト)
ダークローンチで新実装を並行稼働
成功したフェーズごとに依存を切り替え(ストラングラフィグパターン)
何かあればすぐ戻せる体制を常に保持
4. APIスキーマ管理を検討した結果、自社開発することになった話
登壇者: niboshi(Helpfeelプロダクトマネージャー)
4.1 なぜAPIスキーマ管理が必要なのか
niboshi氏は、サーバーとクライアント間のデータ通信を型安全に行うため、APIスキーマをどう管理するかというテーマを取り上げました。OpenAPIやGraphQLといった選択肢もある中で、Helpfeelでは既存のレストAPI資産とTypeScript全面活用という要件を両立できず苦慮したとのことです。
4.1.1 スキーマファースト vs. コードファースト
APIスキーマ管理には2つの進め方(スキーマファースト・コードファースト)があるものの、既存レスト資産 × TypeScript というHelpfeel固有の事情にフィットする方法が見当たらず、検討の末「自社開発」に至りました。
4.2 選択肢と「自社開発」への決断
多数の候補を比較するも、どれもフレームワークやコード生成の手間などで課題を抱えていたそうです。そこで誕生したのが 「Typed API Spec」 と呼ばれるOSSライブラリーです。
すべてTypeScriptで記述
ランタイムに型情報が残らないため、バンドルに影響なし
特定ライブラリーへの依存を最小化し、フェッチに1行追加で導入可能
4.3 チームへの浸透とAIサポート
自社ライブラリーは柔軟性が高い反面、メンテナンスの属人化リスクが懸念されます。そこでAI活用(GitHub CopilotやCursorなど)による型パズル支援や、チーム向けのハンズオン開催が効果的に機能。独自ライブラリーでも安心して導入・撤退が可能な環境を整え、徐々にプロダクションでの適用範囲を広げつつあるようです。
5. AIとナレッジグラフと私
登壇者: daiiz(リードエンジニア / AIエキスパート)
5.1 文書拡張の背景
daiiz氏は、Helpfeelが長年培ってきた文書拡張の考え方を、検索技術とAIを掛け合わせてさらに発展させていると説明しました。FAQ記事に事前にあらゆるパターンの質問文を準備し、ユーザーの多様な検索キーワードを捉える仕組みをベースに、今やLLM(大規模言語モデル)を取り入れることで一層複雑な問いにも応えられるようになったのです。
5.1.1 意図予測検索の進化
LLM活用により検索は短文から自然言語の質問文へとシフト。これをカバーするため、Helpfeelは意図予測検索3を開発。既存FAQをベクトル検索し、あらかじめ用意した要約回答を提供するという仕組みで、高精度かつハルシネーションを極小化した応答を実現するアプローチが紹介されました。
5.2 ナレッジグラフで事実を整理する
LLMを「書かせる」だけでなく、事実を抽出・構造化するためにも活用するのが大きなポイントです。daiiz氏は、文章からナレッジグラフを作成し、さらにLLMが誤って創作しないよう引用元と信頼度を管理する独自の仕組みを構築していると語ります。
5.2.1 事前に回答を作る「逆RAG」
一般的なRAG(Retrieval Augmented Generation)はクエリをLLMに投入し、検索結果を基に回答を生成します。これに対しdaiiz氏は、先に回答を作成しておき、それをベクトル検索で引っ張る 「逆RAG」 を導入。事前に回答をチェック・最適化しておくことで、ハルシネーションリスクやコストを低減させる手法が注目されました。
5.3 AIエージェント時代への応用
最終的には、ナレッジグラフをAIエージェントが活用し、ユーザーにあらゆる回答を返す未来図が描かれました。事実の構造化を重んじるHelpfeel独自のアプローチは、単なる文章生成を超えた 「正確で速い応答」 を実現し、開発チームや企業に大きな強みをもたらすと期待されています。
6. Keynote 2: The Knowledge Journey
登壇者: 洛西 一周(代表取締役 CEO)
6.1 「ナレッジジャーニー」という考え方
Closing Keynoteでは、洛西氏がHelpfeelの掲げるミッション「ナレッジギャップの解消」を、新たなキーワードThe Knowledge Journeyとしてまとめました。企業とユーザーの間、あるいは社内に眠る知識をどう整備し、必要なタイミングで活かすか。FAQや検索エンジンを超え、知識創造から意思決定までを一貫してサポートするモデルを提示します。
6.2 「情報を正しく整備する」から「組織を動かす」へ
洛西氏は、ユーザーの質問にただ答えるだけでなく、そのやり取りから得たVOCデータを分析し、新製品企画やサービス改善につなげる姿勢が鍵になると強調。GyazoやCosenseといった製品との連携も想定し、 「組織横断の仕組みづくり」 が次なる競争力の源だと語りました。ここには、Helpfeelが先ほどのセッションで示したAIやナレッジグラフの活用法が大きく活きてきます。
6.3 AIエージェント時代のビジョン
最後に、 「企業専属のAIエージェント」 という具体像も示されました。正しいFAQデータや社内ナレッジをもとに、AIがユーザー応対や社内問い合わせに答えつつ、リアルタイムで意思決定を支援する。まさにThe Knowledge Journeyは、企業のあらゆる場面で発生する知識をAIへと連動させ、新たなビジネスモデルを切り開く提案といえるでしょう。
7. 全体を踏まえた感想 〜「知を活かす」ための旅路〜
7.1 新しい知識活用のかたち
今回のカンファレンスでは、テクノロジーそのものに加え、 「知識をいかに活用し、価値を生み出すか」 という視点が何度も強調されました。Keynote 1で描かれたハッカー集団としての開発スタイル、そして各セッションで示されたレガシー置き換えやAPIスキーマ管理、AI×ナレッジグラフの先鋭的アプローチはいずれも、情報を正確に扱いつつ、どう人や組織を前進させるかを軸にしています。 Keynote 2ではThe Knowledge Journeyというモデルが示され、知識の創造から意思決定に至るまでを包括的に支援する発想が披露されました。これは個々の機能やツールに閉じず、組織全体のコラボレーションやユーザーのフィードバックをどれだけ体系化できるかがカギになるという点で、強い説得力を帯びていました。
7.2 レガシーと最先端の融合
「レガシーソフトウェアを再現性高く置き換える手法」で示された射撃しつつ前進や、APIスキーマ管理を自社開発で乗り切る事例は、Helpfeelが持つ「新しいものを大胆に取り入れながら、既存資産を粘り強く改善する」姿勢を象徴していました。 レガシー案件はつらいという先入観を、「段階的なテスト」「ダークローンチ」「ストラングラフィグパターン」などの手法で乗り越えられると語り、そこにハイラムの法則をしっかり意識したエンジニアリング観点を加えて安全性を確保しているのが印象的でした。
7.3 AIエージェントで広がる可能性
AIや大規模言語モデルに関しては、検索エンジン的な使い方のみならず、事実抽出・要約を行うためのツールとしても積極的に活用するスタンスが際立ちました。RAGの進化形である逆RAG的な手法は、ハルシネーションを防ぎつつ迅速な応答が可能になるうえ、「予約回答を事前に作っておける」という運用メリットが非常に興味深かったです。 最終的にナレッジグラフをAIエージェントが参照し、ユーザーの多様な問いに対して安定した解を返す――そこには企業やエンジニアにとって、新たなビジネスと技術のフロンティアが広がっているように思えました。
7.4 「挑戦を楽しむ」姿勢が未来を拓く
いずれの発表にも共通するのが、「ややこしい状況にこそ、面白さがある」というポジティブなハッカー精神でした。レガシー改善もAI連携も、単なる苦労ではなく学びと成長の源と捉える姿勢が、多くの聴衆を巻き込んでいるように感じられます。 難しさを創造性の源に変え、知を活かす仕組みを作り続けるHelpfeelの開発スタイルは、他の企業やコミュニティにとっても大きな示唆となるでしょう。今後の新機能やAIエージェントの発展にも大いに期待が高まるカンファレンスでした。
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