🚙
メーカーのエンジニアが先端技術を駆使して挑む次世代エネルギーマネジメントシステムの開発 レポート
公開
2025-04-14
更新
2025-04-14
文章量
約3324字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
目次
はじめに
セッション概要
Hondaのエネルギーサービス戦略(本田技研工業 水野 隆英 氏)
Vehicle to Gridの技術紹介とデジタルツイン環境の取り組み(本田技研工業 白澤 富之 氏)
データで未来を創る:パナソニックの電設資材分野の挑戦(パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 岡市 敦雄 氏)
再生可能エネルギーの増加と電化の進展
具体的なソリューション事例
Q&Aハイライト
Q1. 「EVバッテリーを売電に使ってしまうと、いざ外出したいときに空では困りませんか?」
Q2. 「欧米のほうがEV普及が進んでいるが、どんな課題が顕在化している?」
Q3. 「リアルタイムプライシングはCO2削減にどう寄与する?」
全体を踏まえた感想 〜カーボンニュートラルへ挑む二つの扉〜
はじめに
2025年1月24日、「【Honda×パナソニック】メーカーのエンジニアが先端技術を駆使して挑む次世代エネルギーマネジメントシステムの開発」というイベントがオンラインで開催されました。自動車メーカーのHondaと電機メーカーのパナソニックが、CO2排出削減に向けてどのように取り組み、具体的な事業開発を進めているのか。その背後で活躍する技術やアプローチを、両社のエンジニアが率直に語りました。
本レポートでは、当日のプレゼンテーションやQ&Aで語られたポイントを中心に、次世代エネルギーマネジメントの全貌をご紹介します。機械学習やデジタルツイン、クラウドやIoTなどの先端技術が、いかにして「カーボンニュートラル社会」と各メーカーの新規事業を支えるのか。両社共通の熱意と多彩な実装事例が垣間見えたイベントでした。
セッション概要
Hondaのエネルギーサービス戦略(本田技研工業 水野 隆英 氏)
水野氏は最初に、Hondaが掲げる「2050年までに関わる全ての製品・企業活動を通じてカーボンニュートラルをめざす」目標を示しつつ、EV(電気自動車)とバッテリーを軸にしたエネルギー事業に注力している現状を紹介しました。
Hondaはこれまで「走る・曲がる・止まる」といった自動車の本質を追求してきましたが、EV化が進む中で新たに「エネルギー貯蔵と活用」という価値を生み出そうとしています。特に再生可能エネルギーが普及する分散型社会では、電力の需給バランスを整えるためにバッテリーが重要な役割を担うと説明。そこで、車を作るだけでなく、充電サービスや家庭内の電力マネジメント、V2G(Vehicle to Grid)といったエネルギーサービスを包括的に推進していると強調しました。
さらに海外ではアメリカや欧州を中心に、充電インフラ整備やエネルギーマネジメントプラットフォームの合弁事業を展開。日本でも再生可能エネルギーや蓄電池リユースを扱う合弁会社を設立し、新たなサービスモデルを実証・提供していくとのことです。
Vehicle to Gridの技術紹介とデジタルツイン環境の取り組み(本田技研工業 白澤 富之 氏)
白澤氏は、エネルギーマネジメントで求められる技術課題にフォーカスして紹介しました。
デジタルツインで実世界を再現 気象情報や地図データ、車両走行データを組み合わせ、膨大な交通状況やユーザー行動をシミュレーションする取り組みを進めています。太陽光や気温、信号の有無、ドライバーモデルといった多層的な要素を加味するため、アスファルトの温度予測モデルを独自に構築するなど、地道な工夫も多いそうです。
V2Gで生まれる新たな市場 EVの普及に伴い、各国で電力調整市場が開かれようとしています。たとえば電力需要ピークを抑えるために、EVのバッテリーを系統へ供給するサービスが考えられ、そこには予測や制御の高い精度が欠かせません。特に「前日どれだけバッテリー残量を提供できるか」を予測する統計的手法を開発し、EVを“疑似定置型電池”のように扱える技術を磨いていると説明されました。
ユーザーの移動自由度を最優先 EVを活用した売電やグリッドへの供出ができる一方、「車が必要なときにバッテリーが空では困る」という問題に対しては、予測やユーザー入力を組み合わせて「必ず走れる分は確保する」方針を徹底しているとのことでした。
データで未来を創る:パナソニックの電設資材分野の挑戦(パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 岡市 敦雄 氏)
岡市氏は、住宅や企業の電気設備を手がけるパナソニックが、いかにデータを活用して脱炭素社会に対応しようとしているかを紹介しました。
再生可能エネルギーの増加と電化の進展
需要と供給のタイミングギャップ 太陽光や風力など、天候に左右される発電が増えると、昼間に電力が余っても夕方に不足するなどの課題が顕在化。EVや電気給湯などの電化が進むと、逆に需要集中が発生しやすくなる。
解決のカギ:需要時間の平準化 電気を使う時間帯を、価格や制御技術を活用して分散・シフトさせることで、需要ピークや逆潮流を抑え、インフラ投資を最適化できる。
具体的なソリューション事例
家庭向けのHEMS(Home Energy Management System) 気象予報と電力需要を予測し、翌日の太陽光発電量や消費量を見込みながら機器を制御して自家消費量を増やす。ユーザーが屋根の角度や勾配を入力しなくても、過去データから設置条件を推定する仕組みを工夫。
企業や自治体向けEV充電管理 複数のEVを同時に充電するとき、一斉に開始してピーク電力を上げないよう制御アルゴリズムを適用。月の最大使用電力を抑えることで電気料金やインフラ強化コストの削減に貢献。
研究事例:蓄電池アグリゲーション 複数の家庭用蓄電池を束ね、需要側を一括制御する実証を行い、電力系統の安定化やコスト削減に役立つ可能性を確認。
リアルタイムプライシング 卸電力市場の価格動向(晴れた昼間は供給過多で安価、夕方は高騰など)に合わせて、ヒートポンプ給湯やEV充電を最適制御。シミュレーションでは大幅な需給バランス改善が期待できることが示された。
Q&Aハイライト
イベント終盤では、視聴者から多数の質問が寄せられました。その中から印象的なものを抜粋します。
Q1. 「EVバッテリーを売電に使ってしまうと、いざ外出したいときに空では困りませんか?」
Honda回答 最重要なのは移動のための電力を確保すること。ユーザー行動やバッテリー残量を予測し、最低限のSOCは常に残す制御が基本。将来的にはユーザーの事前入力などで精度をさらに高め、走行の自由度を失わない仕組みを提供する。
Q2. 「欧米のほうがEV普及が進んでいるが、どんな課題が顕在化している?」
パナソニック回答 欧州などではEVがシェア3割を超す地域もあり、充電インフラ増強が追いつかない問題や、系統側が容量超過で太陽光設置の接続を制限する事例がある。今後、日本も同様の課題が出る可能性が高いので、早期から制御技術や制度を整える必要がある。
Q3. 「リアルタイムプライシングはCO2削減にどう寄与する?」
パナソニック回答 電力が余る昼間は価格が下がり、夕方は高騰する傾向がある。そのため、昼の安価な電力(再エネが多い時間帯)を使うように需要をシフトさせれば、化石燃料発電の稼働が抑制され結果的にCO2排出量が減る。価格連動を活用した制御が有効。
全体を踏まえた感想 〜カーボンニュートラルへ挑む二つの扉〜
Hondaが語る「EVとバッテリーの新たな価値創造」と、パナソニックが描く「電気設備を軸にした暮らしの未来予測」は、どちらも深いリアルなデータ活用と制御技術によって成り立っていました。単なるクルマの電動化や太陽光の導入だけでなく、シミュレーション(デジタルツイン)や予測技術を駆使して需給バランスを統合的に最適化する方向に進んでいるのが印象的です。
しかし、話を聞くほどに新しい課題の存在も浮き彫りになります。制度や電力系統の制約、ユーザーが持つ「移動の自由度」との両立、欧米市場との比較で見えてくる充電インフラの遅れなど、まだまだ試行錯誤が続く段階にあるようです。それでも、お互いに提携や合弁会社の設立を行い、技術を組み合わせながら新たなサービスを模索している姿勢からは「大企業だからこそ実現できる大きなビジョン」と「新興スタートアップのようなスピード感」の両方が感じられました。
機械学習・AI・デジタルツイン・クラウド・IoT。こうした先端技術がフル活用される新しいエネルギーマネジメントの世界が、いよいよ実社会へと溶け込んでいく。その第一線で奮闘するエンジニアたちの熱い思いを垣間見た本イベントは、カーボンニュートラルに向けた日本産業界の大きな一歩を感じさせるものでした。今後も、両社をはじめとするメーカーや電力事業者の連携がますます加速し、多くの人々の生活スタイルや価値観に変革をもたらすでしょう。
Yardでは、テック領域に特化したスポット相談サービスを提供しています。
興味がある方は、初回の無料スポット相談をお申し込みください。
また、資料請求やお問い合わせもお待ちしております。テック領域の知見を獲得し、事業成長を一緒に実現していきましょう。