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俺たちのGitHub Actions活用術 〜なんとなくから脱却する選抜グッドプラクティス〜
公開
2025-04-14
更新
2025-04-14
文章量
約3935字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
はじめに
2025年3月11日、「俺たちのGitHub Actions活用術-なんとなくから脱却する選抜グッドプラクティス-」というオンラインイベントが開催されました。CI/CDの基本から、より踏み込んだワークフロー最適化の手法まで、GitHub Actionsに関するベストプラクティスを2名の専門家が詳しく紹介。普段なんとなく使っているGitHub Actionsが、実はどこまで可能性を広げられるのかという “深さ” を感じさせる充実した内容でした。
本レポートでは、登壇者2名――「GitHub CI/CD実践ガイド」の著者でありフリーランスエンジニアの野村友規さん、そしてフリー株式会社でSREを務める鈴木俊輔さん――の講演をもとに、双方が紹介した技術的なポイントとQ&Aで浮かび上がった疑問をまとめます。
1. 野村友規さん「はじめてのIssueOps -GitHub Actionsで実現するコメント駆動オペレーション-」
IssueOpsとは
野村さんは「IssueOps」という新しいプラクティスを提案しました。これは、いわゆるChatOpsのGitHub Issue版といえます。具体的には、GitHubのIssueやPull Requestにコメントを投稿することで、GitHub Actionsのワークフローを起動し、さまざまなオペレーションを自動化する手法です。
コメントの一例としては、次のようなものが挙げられました。
/deploy staging
と書いて投稿すると、Actionsが起動してステージング環境へのデプロイを実行/plan dev
と投稿すると、TerraformなどのInfrastructure as Codeを実行して開発環境の差分確認を行う
こうしたIssueOpsを導入することで、ローカル環境のセットアップ無しにコメント1つでデプロイやインフラ適用ができるため、属人化の防止やオペレーション履歴の可視化を実現できるとのことでした。
実装のポイント
野村さんによると、IssueOpsは意外にもGitHub Actionsだけで簡単に実現できるとのことです。以下の3つのステップが基本的な流れになります。
Issue/PRコメントイベント 「コメントが投稿されたタイミング」でワークフローを起動するトリガーを用意。
パーサー(Parser) コメント本文からコマンドと引数を抽出するスクリプト。例えば「/deploy staging」なら
command=deploy、env=staging
を切り出すイメージです。ワーカー(Worker) パーサーが抽出したパラメータを用いて、デプロイ・Terraform適用などの本処理を実行。
とはいえ、GitHub Actionsのコメントイベントは、コメントに応じて無条件に起動してしまうため、「関係ない会話でもワークフローが起動し課金が発生する」問題があります。 そこで、「スラッシュから始まるコマンドのみを実行し、それ以外のコメントは早期にスキップする」工夫が推奨されました。スキップしたワークフローは時間課金が発生しないため、無駄なコストを抑えられます。
運用を快適にする工夫
コメントへのフィードバック IssueOpsはコメントイベントで起動するため、利用者は「本当に動いているのか」がやや分かりづらい。そこで、リアクションや追加コメントによって「着手」「成功」「失敗」などをフィードバックする設計が奨励されました。
ブランチの自動切り替え ユーザーは「コメント投稿時のPRブランチの状態」でオペレーションが実行されることを期待しがち。そこで、IssueOpsのワークフローをブランチ単位に切り替えるロジックを組むと、配慮した挙動が実現できます。
セキュリティ対策 ユーザー入力を扱う以上、スクリプトインジェクションが起こりうるため慎重な実装が必要。また、本番デプロイを行うコマンドはデフォルトブランチでのみ実行するなどの「ガードレール」設定も視野に入れましょう。
野村さんは「IssueOpsは最初に導入するときは敷居が高く見えがちですが、ハマるとすごく快適」と語ります。シンプルなコメント駆動オペレーションの導入を検討してみるのも一案です。
2. 鈴木俊輔さん「GitHub Actions Best Practice 2025」
セキュリティに重点を置いたベストプラクティス
続いてフリー株式会社・鈴木さんからは、主にセキュリティ観点を中心にしたGitHub Actionsの運用ノウハウが紹介されました。
鈴木さんが強調したのは、「Actionsは使いやすさと引き換えに、デフォルト設定がそれほどセキュアではない部分がある」ことです。以下にいくつかの代表的な手法が挙げられました。
パーミッションの最小化 GitHub Actionsトークンの既定設定を最小限に絞り、不要な権限(たとえばPR作成やタグpushなど)を与えない。
アクションバージョンの完全固定 タグ指定(
v1
,latest
)ではなく、コミットハッシュを使ってバージョンを固定することで、意図せず動作が変わるリスクをなくす。Checkout時の
persist-credentials: false
これを設定しないと認証情報がリポジトリ内部に保持され、別のステップで悪用される懸念がある。GitHub Actions用リンターの活用 たとえば
gha-lint
やryokus-assistant-lint
などを導入し、セキュリティリスクがある記述を自動検出。組織的にベストプラクティスを徹底する。
さらに、ツール群として piatto
(アクションバージョン固定用)や gha-lint
(セキュリティチェック)、gha-permissions-lint
(パーミッションチェック)など、数多くのOSSを紹介。組み合わせることで組織的かつ自動的にセキュリティを確保すると語られました。
セキュリティ以外の応用やCI分析
鈴木さんはまた、CI速度や実行時間をダッシュボード化するツールとして ci-analyzer
を例に挙げ、ボトルネックの洗い出し→高速化の取り組みが重要と強調。
さらにオープンソースであれば「Pull Request → GitHub Actions → コード自動修正」というフローを実現するために、auto-fix-ci
や commit-action
を使うアプローチも紹介されました。
3. Q&Aまとめ
イベント後半のQ&Aでは、以下のような質問が飛び交い、両登壇者が回答していました。 両登壇者ともに、「それぞれの現場の事情に合わせてツールやルールを上手に組み合わせる」ことが重要と話していました。
Q.「IssueOpsはワークフローディスパッチで代用できるのでは?」
野村さんいわく、ワークフローディスパッチでも同等の実行は可能だが、IssueOpsのメリットはPull Requestとの紐づけや操作履歴の統一がしやすい点。「コメントと実行結果が一体化するため、不安を感じにくい」とのこと。
Q.「セキュリティをコードQLでカバーできないか?」
鈴木さんは、「コードQLでどこまでカバーできるか確認したいが、現時点ですべてが解決するとは限らない。セキュリティの基本プラクティスをツールやルールで地道に適用するアプローチがおすすめ」と返答。
Q.「CI時間をどのくらいにすべきか?」
野村さんは「一般的には10分を超えると集中が切れがちなので、5分〜10分の範囲に収めるといいとよく言われている」とコメント。一方で鈴木さんは「すべてのワークフローを均等に最適化するのではなく、頻度や重要度に応じて計測とチューニングを繰り返すことが大切」と強調。
最後に:全体を踏まえた感想
今回のイベントで光ったのは、単に便利なTipsを羅列するのではなく、どんな観点でそれを導入し、どうやって組織に定着させるかという“現場目線”の話でした。IssueOpsによる直感的なオペレーションから、ワークフロー分割のしかた、セキュリティを守るためのツール選びなど、多くの「今すぐ試したい」ノウハウが披露されました。
特に、GitHub Actionsのデフォルト設定はセキュリティ上の抜けがあったり、使い手が意図しない課金やステータス不備が起こる可能性があります。そのため、「イベントやアクションの仕組みを正しく理解し、必要最小限の権限・範囲でワークフローを設計する」ことが重要だと改めて認識させられました。 一方で、やり込みすぎると“設定疲れ”が起きかねないため、段階的に導入し、自動化ツールやリンターをフル活用して、組織全体に広げていくのが賢明でしょう。
「なんとなく使っていた」から一歩抜け出し、ベストプラクティスを少しずつ反映していけば、開発者の負担だけでなく組織のセキュリティリスクも下げられる――そんなGitHub Actionsの活用術を、野村さんと鈴木さんの実践事例から具体的にイメージできたイベントだったのではないでしょうか。みなさんも明日から、IssueOpsや最小権限化など、小さな一歩を試してみてはいかがでしょう。
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